決意
「俺にはこれしか思いつかないです。」
そう言って取り出した一本の漆黒の刀。
鞘も柄も、その刃さえもが黒一色。
神刀
俺には、これしか思いつかない。
「ふむ、これに振れたものが、認識魔法に惑わされずにいるわけか・・・これをどこで?」
イザークとグレイスから、認識魔法に何故掛からないか、何か思い当たる節はないかと問われ、俺が導き出した答えは神刀であった。
俺が説得したり、なんだかんだ言ったところで、リグム村の人々は掛かったままだった。
だが、俺に師匠とルーシー、デブスは掛からなかった。
この4人の共通点―――それは、神刀に触れたことがあるかないか、という事だけだと思う。
で、あるならば、この刀が認識魔法から守ってくれたとしか考えられず、また、それだけの力がこの刀にはあるのだと言われても、決して驚きはしない。何故なら女神様から頂いた刀なのだから。
だが、どこで手に入れたのかと聞かれれば返答に困ってしまう。
何時だったかは頂いたものだと説明したと思うが、それほどのものをいったい誰から貰ったのかと思うのは当然であり、果たしてどう言えばいいのかと、俺はダンマリになってしまう。
「う~ん、とある方からの頂き物で・・・その方のことを言うのは、ちょっと抵抗があるというか・・・信じてもらえないだろうなと思うんだけど・・・」
結局はこんな感じにグダグダとハッキリしないようなことを言ってしまうわけで、グレイスもイザークも互いに顔を見合わせ首を傾け、師匠はまたかと肩を竦めてため息をついた。
「あのなージン、お前の言ったことなら俺は信じるし、言いたくないのならそう言えばいい。言ってなかったが、俺には真偽の目っていう本当のことを言っているかどうかが分かるスキルもあるわけだしな。」
師匠が嘘か誠かを見分けることのできる目を持っていたという新事実を急に明かす。
俺はそれについてびっくりし、そしてあることに気が付いた。
それは最初に出会った頃のことだ。
俺は師匠に嘘をついた。
この世界に転生し、女神の言う通りに町を目指し、そこで門番のようなことをしていた師匠に会い、ごまかし、嘘をついた。
それであるにも関わらず、何故師匠は入れてくれたのか。いや、俺はあの時に嘘をつき、師匠はずっと黙っていてくれた。尋ねてくることもなく、俺を信用してくれていると思う。
俺はずっと嘘をついているというのに・・・
「女神様から・・・いただきました。」
申し訳ないという感情でいっぱいになり、何をどう言っていいか分からず・・・
そう、ボソッと口から出た言葉は、意外にも周囲に響く。
それを聞いた三人が、三人とも目を見開き固まる、そしてグレイスとイザークは師匠を見る。
一拍置いて、師匠は頷いた。
「そりゃあ・・・そしたら・・・ジン・・・お前は・・・使徒様・・・じゃねえか・・・」
ゴクリと喉が鳴る音が聞こえ、師匠がそんな事を言う。
続いてイザークも口を開く。
「言い伝えの通り・・・ですな・・・」
言い伝え?なんだそりゃ・・・そんな話は聞いていない。
「言い伝えとは何ですか?」
その疑問に対してはグレイスが答えてくれた。
「古い伝承によれば、再び悪しき力が復活しようとするとき、神の使徒がその悪しき力を滅するだろう―とある。お前が、その使徒とやらなのか?」
女神様の言ったことを思い出す―――
使徒はあの子供がなるはずだった。俺がトラックで引いてしまう予定だった子供・・・
世界を救うと頼まれるのは、あの子供だった。
俺はその運命を変えてしまった。
だから―――
「俺はそんなたいそうなもんじゃないです。女神様からは好きに生きろと・・・そう、言われただけです。」
でも、だがしかし、俺のせいでこの世界が救われないというならば、これが俺のせいで引き起こされてしまうというのならば・・・
「でも・・・俺にできることは、やるつもりです。」
前世ではそんなこと、考えもしなかった。
出来上がった世界、仕組みの中をただ漫然と生き、何も成すことなく、勝手に失望し、諦めて・・・
死んだように生きてきた。
でも、こちらの世界では、俺は必死に、何も失うことが無いように、抗い、努力し続けてきた。
それは、女神様の後押しもあったし、師匠がいてくれて、ルーシーがいてくれて、数多くの人たちに支えられて、俺という存在が消えたとして、悲しんでくれるのは数人かもしれないが、確かに俺は、ここで生きていると実感できる。
その世界が理不尽に消えてしまう。
俺がこの世界を救うなどと、大層なことは言えないが、それでも俺は、ここが大切だと思い、ここにいることに感謝し生きている。
ならば、一人の人間として、この世界を想う一人の者として、最後まで抗ってみせると、そう思うのだ。
その為の力・・・その為に努力してきたのだから。
俺は再度、そのことを認識し、三人を見る。
「私も、光の勇者の末裔として」「古の盟友と共に為すべきことを成すために」「俺は、まぁ、首つっこんじまったしな」
それぞれがそれぞれの想いを胸に、王国へ立つ準備を始めるのだった。
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