五芒星の国
「余はジンとヒューグ、それにイザークだけで話をする。お前らは下がれ。」
グレイス・オズボーンがそう声を発すると、その周りに立っていた甲冑を着こんだ兵士達は皆一斉に「ハッ!!」と声を発して俺らが入ってきた入口から退出していった。
「私と話すのは初めてだな、ジン。ヒューグとは、少し稽古をつけてもらったことがあったな、あの時は世話になった。」
「あーあん時のガキか!デカくなったなぁー」
師匠とグレイスは昔に会ったことがあるらしく、師匠は公爵家の人間をガキ呼ばわりした。
互いに笑いあっているところを見ると、それなりの仲なのかな?と思いつつ、俺も挨拶を返し、先を促す。
「そうだな。まず、ダンは俺ら青の裏切りを知っていた・・・いつからかは分からないが、あいつは、ただ、俺らを見て暇つぶしだと言った・・・ずっと暇なんだと、退屈なんだと・・・そうして俺らを殺すでもなく、見逃した。いつかのジン、お前のようにだ。」
「それは・・・つまり?」
「ああ、お前も、逃げられたのではなく、見逃してやったと言っていた。そして、僕をもっと楽しませてくれ・・・だとさ。」
グレイスは拳を強く握りながらそう言った。
その目は、憎しみに染まった目で・・・きっと俺もこんな目だったに違いないと、そう思った。
だけど、俺が聞きたかったのは、一番に聞きたかったことはそれじゃない。
「ルーシーは?無事なんですか?」
「ああ、そうだな・・・すまない。ルーシーとデブスはバレていない。ジンとヒューグのことは俺らの手先だと思っていてな、ヒューグが過去、俺と会っていたことを調べ、そこで合点がいったと言っていたよ・・・それで、本人たちの申し出もあって、学院に残ってもらうことになったんだ。」
それは本当に無事なのか、俺は食って掛かる。
だってそうだろう?あんな奴の、何を考えてるか分からない奴の傍にいるんだ。
それに、認識魔法が一回掛からなかっただけで、二回目も掛からないなんていう保証はない。
任せろという言葉は何だったのかとイザークを睨みつける。
「も、申し訳ござらん・・・ですが、何度も接触しては、怪しまれてしまいます。何度もこちらに来るように説得したのですが・・・ルーシー殿もデブス殿も頑なに残ると・・・その方がジン殿の役に立てる・・・と・・・・」
それは・・・そんなのずるいじゃないか・・・
「そんなにイザークを攻めてやるな・・・俺もイザークも説得はしたんだがな・・・あいつは頑なでな、無理だったんだ。そこら辺はお前の方がわかってるんじゃないか?ジン。」
ああ、確かに、あいつも俺と同じで、頑固だ。
一度決めたら、そう思ったら、中々意見は曲げない。
あいつらしい―――でも、早く会いたかった・・・
俺は取り乱したことを謝り、先を促した。
「さて、それではこちらの情報を全て話そう―――」
そうして聞いた話は、古の話。
今から約千年前、古代王国の名はオズバルト王国。
邪神の影響により、悪魔がはびこる混沌の時代。
光の戦士と呼ばれた若き戦士の話―――
その物語は知っていた。御伽噺としてルーシーから聞いていたし、実際に本も読んだ。
数々の戦いを繰り広げ、多種多様な種族の仲間達に助けられつつも剣を手に邪神を討つ話だ。
グレイスから聞いた話と違うのは、討ったのではなく、封印したという事だけだった。
よくある仮想の絵本だと思ったが・・・どうやら本当の話らしい。
だが、その先に続きがあった。
そうして、邪神の封印に成功するも、邪神は最後の力で様々な大陸を壊滅させた。
オズバルト王国はこれにより壊滅する。
だがしかし、生き残った者たちも数多くいた。
光の戦士はその人たちをまとめ上げ、オズバルト王国を見事に復興してみせたのだった。
そして、その城の地下深くに邪神の封印を移し、厳重に管理されることとなった。
王族の生き残りであった姫は光の戦士と婚姻し、戦士は王となる。
だがしかし、いつからかこの話はねじ曲がり、王国の名もすっかり変わり、王位継承者もいつの間にか変えられていた。
「そして、私が光の戦士の末裔だ。本当の王位継承者だ。」
「え・・・?」
「本当の私の名は、グレイス・オズバルト、イザークはかつての光の戦士の仲間、獣人の戦士の末裔で、その時の盟約によって、こうして手伝ってくれている・・・まぁ、そのことはいい、重要なのはここからだ。」
王国の歴史が塗り替えられたのは光の戦士が亡くなり、しばらくしてかららしい。
その息子が書き残した記録によれば、塗り替えた者の名は・・・・
『ダン・ウェイカー』
「な・・・?」
そんなバカな話があるものかと、俺はグレイスを見る。だが、返ってきた言葉は、
「そのまさか・・・本人だったよ。奴は俺に何て言ったと思う?」
『オズバルトは何かムカつく名前だからね、オズの後に骨でもつけて、オズボーンって名前にしてやったんだ。お前らはもう何もできない骨のような存在なんだって教えてあげるためにね!どうだい?中々親切だろ?』
「ヤツは人間じゃなかった。邪神に付き従い、当時光の戦士の敵であった魔族・・・魔人だ。」
つまり・・・何か?ダンは邪神を復活させるために、今の今まで王国を支配してきたってのか?
千年もの間・・・ずっと?
「だから、ずっと退屈だったと、暇だったんだと言っていたよ・・・そしてもうじき、その退屈も終わるそうだ。」
「え?終わる?」
「そう、そうだな、まず、俺らは認識魔法の発生源が分かった。」
「それは?どこなんですか?」
「王国全土だ。」
「は?」
王国全土ってどういう意味だ?そりゃあ全土に効果は発揮しているらしいが・・・
「王国は・・・そこを中心に、公爵家が何処にあるか分かるか?」
「北と東と西と南東に・・・南西・・・五角形・・・だ・・・」
王国全土という意味が、これで分かってしまった。
つまり・・・
「そうだ。五芒星、魔法陣の形なんだよ。」
だからこそ、全ての人間が認識魔法にかかり、その効果範囲は広大で・・・そして、余りにも大きすぎて、気付かない・・・でも、気付いてしまえば、
「その、どれかの城か何かを壊してしまえば発動しないんじゃ?」
と、思ったのだが、
「いや、その発動源は中心地・・・王城の地下だ・・・つまり、邪神の封印の場所の近くらしい。」
ってことは・・・壊すには魔法陣を直接たたく以外にないのだろう。
「そして、邪神を復活させると言ったが、その方法は、その認識魔法に刻まれた魔法陣の効果にマナを吸うという効果もあるらしい、それを使って復活させるんだとさ。まぁ、それもダンが笑いながら言っていたことで、奴が本当のことを言っていればの話になるがな・・・」
つまり、邪神の復活にはマナが必要で、それを千年もの間、ずっと集め続けてきたってことらしい。
そして、それがもうじき終わる。
終わるってことは、つまり―――
「早急に破壊しなければ・・・・邪神が復活する。」
グレイス・オズバルトは、ずっと拳を力強く握りしめたまま、震えた声でそう言った。
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