舞い戻る罪人
「おい!ジン!もう一度だ!もう一度!!」
師匠はあれから、再戦を希望し、駄々をこねている。
「いやいや、青の公爵の約束の日が近いんですから・・・移動しないと!」
そう返すと、団長はふくれっ面になる。もういい年のオッサンのふくれっ面とか誰得だよ!と心の中で突っ込んでいると、フォルスさんがそれを見て笑う。
「ハッハッハ、そなた達ならやり遂げられるでしょう!私をすっかり超えてしまわれて、近衛騎士団長という称号が少しばかり恥ずかしいですな!」
「いえいえ、まだまだフォルスさんから学ぶことは多いですよ。それに、ここまでこれたのもフォルスさんのお陰です。本当に感謝していますよ。」
「お前ら、それが終わったらこの国に戻ってこい!私の旦那か、騎士になってくれ!」
それを聞いて、俺と師匠は黙った。
「な!冗談なのに、なんで黙るんだ!そんな嫌なのか?何でだ!」
「ああ、冗談で安心しましたよ」
「いや、まったくだ・・・」
「こぉの!ヒューグ!そんな言い方はないだろ!」
王女とも、フォルスさんとも、冗談を言い合える仲までになっていたし、ここを離れるのは、少し寂しかった。
だけど、俺にはやるべきことがある。
そして、もう待っていてくれていないかもしれないが、会いたい人がいる。
「じゃあ、そろそろ行こうと思います。」
「世話になったな!」
「ああ、まぁ、一生の別れってわけじゃねぇんだ。またいつでも顔見せに来い!」
「お二人ともお達者で!」
「ええ、本当にお世話になりました。」
そうして、獣王王国レオグラルトから、俺とヒューグさんは青の公爵家を目指し、出発した。
帰りは物凄く楽だ・・・なんせ一人じゃないし、あの頃から格段に強くなっている。
ゴア等の魔物が俺らを避けていくのだ。
たまにゴリラ似の魔物が襲い掛かって来るが、それを二人で撃退しつつ、Ⅹになったトラックに師匠を招待して休憩しつつ、青の公爵家へと急いでいた。
「おいおいジン・・・こんな便利なもん持ってたなら、最初から使ってくれりゃあいいのによぉ」
と、師匠はトラックの部屋を見てそんなことを言う。
「あの時はまだ覚えていませんでしたからね。こっちに来てから覚えたんですよ。」
承諾した者も入れる居住スペースの広さは無限大で、ダンジョンの中のように一つの世界のようになっている。
俺は師匠と共に、この中に家を建てた。
この空間の広さは調べたわけじゃないが、恐らく無限だ。
なら、自分たちでこの中に色々作ったところで問題あるまい。
そして調子に乗って作りすぎた所為で、今や一つの街のようになってしまった。
それぞれトラック内のお気に入りの家に入って休憩し、そしてまた戻って迷いの森を駆け抜ける。
ちなみに、俺のお気に入りの家は日本の古き良き時代の建物という感じで、それに対して師匠は無機質なコンクリートの建物で、前世で一時期ブームになった感じの建物を好んでいるようだ。
二度目ともなると、この森の方向も分かっており、しかも魔物も寄ってこない。
あれだけかかったはずの長い森を、俺らは2週間たらずで、あっという間に駆け抜けた。
だが、リグム村には近寄らない。
俺らが舞い戻ったことを悟られてはならないし、またあの顔を向けられるのは嫌だった。
だから俺らは大きく迂回して、国境となる端を通っての移動を余儀なくされた。
そこから更に2週間、遂に青の公爵家の領地へとたどり着いた。
久しぶりの王国の地を踏みしめる。
あれから、ダンへの怒りを忘れられるわけがなかった。
どんなに苦しい訓練も、成し遂げるためならば乗り越えられた。
全てはダンを殺すため、そして、ルーシーともう一度会うため。
焦る気持ちをグッと堪えて進む。
オズボーン領ダンジョン街ルナルスを超え、城塞都市エルナリゼへと真夜中にたどり着いた。
約束の日まで、1か月半はあったが、その前に現地入りし、体勢を整えたかった。
俺らは黒いローブをすっぽりと被り、都市を囲む巨大な壁を魔気と魔法で飛び越えて侵入し、何事もなかったかのように平然と歩く。
とにかく早く、イザークかグレイスと会いたい。
二人以外の人物が信用できるわけもない。
ならば、罪人である俺は出来るだけ人目につかずに会わなければならない。
中心地に聳え立つ、巨大な城を目指して、俺と師匠は足早に歩を進めた。
もしかしたら、既にルーシーもここにいるかもしれないと思うと、足を止めることなく歩み続けた。
そうして見張りをしている兵士の目を掻い潜り、城に辿り着く、その時だった。
「ジン殿、ヒューグ殿」
唐突に真横から聞こえたその声に、即座に反応し顔を向ける。
「やはり・・・そうでしたか。申し上げにくいのですが、あの城は既に敵の手にあります。どうぞこちらへ。」
薄い黒色の布に覆われた大男。
見た目と声で、誰かが分かった。
獣王王国レオグラルトの元国王にして、現女王の兄、イザークだ。
いろいろと聞きたいことは山ほどある。
だが、それよりもまず、安全な場所へということなのだろう。
俺と師匠は顔を見合わせ、互いに頷きあうと、その後を追いかけた。
イザークは一軒の古い建物へと入ると、一室のテーブルを手で押し上げる。
すると、下へと続く階段が姿を現した。
「これは魔道具の一種です。最後の方はテーブルを元に戻しながら入ってきてくだされ。」
そう言うと、イザークはさらに進む。
螺旋階段のようにグルグルと奥へ進むと、扉が現れ、そこを開けるとだだっ広い空間にでた。
空気は少し悪いものの、魔法の光が周囲を照らし、足元は青い絨毯がひかれ、真っすぐに伸びる道の両脇に扉が均等に、沢山ある。
それぞれがどこかに繋がっているか、もしくは部屋があるのだろう。
イザークはそこから更に先へと進んだ。
「この奥にグレイスがいます。」
そう言って、先へと進み、最奥の扉をノックし、「ジン殿とヒューグ殿がお見えです。」と言うと、扉越しに「おう、入ってくれ」と声が聞こえた。
そうして、扉があけられ、そこに立っていたのは、前に見たときよりも身長が高くなり、顔立ちも幼さがなくなっているが、イザークが言った通り、グレイス・オズボーンがそこに立っていた。
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