古猫と炎龍
『久しいな、元精霊王・・・その弱そうな人間にくっついて何を遊んでおるのだ?』
炎龍が言葉を発すると、ジンの頭上に異空間が広がる。
そこから顔を出したのは、ムーであった。
「やー!ユーも元気そうだね!すっかり炎龍ってのが板についてきたじゃないか!昔は泣き虫だったくせに、今じゃ威張り散らしてるのかい?ミーを起こしてくれたのがジンだったからね。力を取り戻しがてら、恩返ししようかなってところだよ。」
『威張れるくらいには、力は手に入れたつもりだ。お前は邪神に封印されていたんだったか?それをこんな奴が解いたと・・・興味深いな。』
炎龍は意識を失っているジンをギロリと睨み、そう言った。
「ジンはミーの主だと勘違いしているみたいだし、封印を解いた自覚すらないみたいだけどね・・・ミーが記憶を一方的に見れるって時点で、どちらが上か、気付いてほしいものではあるけれど、まっ楽しいからいいのさ。それに女神もこの子を気に入っているみたいだよ?」
『ほぅ・・・お前の物好きは変わらんのか・・・確か、人の子に加護を与えたのが邪神の気に振れたのではなかったか?』
「まーねー、でも、何となくあの子にも似ている気がするんだよ。」
『光の戦士・・・か。』
「そうそう、なんかほっとけなくてね。」
『ふん、まあそれはいいだろう。だが・・・ここは我がテリトリーだ。そこに足を踏み入れたとなれば、元精霊王と言えども、許容できぬ。我のものになるか、死ぬかを選べ。』
「へぇ~急に強気になるじゃないか。ミーが十分に力を取り戻してないと見て、そう言ったのかい?残念だよ炎龍・・・ユーは相手の強さも分析できないのか・・・」
『ふんっ千年もの間封印され、力を失った猫が、我にかなうはずもない。そこの人間とお前を喰らえば、更に我も力がつくであろう!喜ぶがいい、我の糧になるのだからな!』
そう言うと炎龍は咆哮を上げる。
細胞の一つ一つに突き刺さるような、けたたましい咆哮。
だが、ムーは静かに口を開く。
「ユーはいつからミーと同格と思ってしまったんだい?そうだなぁ・・・まず、頭が高い。」
ドンッと衝撃が森全体に響き渡った。
『ぐぅ・・・』
炎龍が地面にひれ伏した。いや、ひれ伏したのではなく、地面に身体がめり込んだ。
「ミーとの差を思い出したかい?」
『ぐ・・・ぐぅ』
「ミーは寛大だからね。今回のことは許してあげよう。勝手にユーのホームに入り込んだのはこっちだしね。あ、そうそう、生命草ユーん家にあるだろう?あれ、持ってきてくれよ。あそこの丘で待ってるからさ!いいよね?」
『わ、分かった・・・』
「話が早くて助かるよ!あ、あとさ、ジンは邪神の復活を妨げようとしている。だから、彼がユーに挑んで、もし勝った時には、力になってあげなよ!」
『ふん!その人族に我が負けるとは思えんが・・・もし、勝てたならな・・・我が勝ったらそ奴を喰らうが良いな?』
「まっその時はしょうがないのかな?それと!一番大事なことを言っておこう!ミーは猫じゃない!エンシェントキャットさ!」
―――――
「ハッ!」
刀をトラックから取り出し、身構える―――あれ?
「おはよージン、危ないところだったねぇ!」
「え?あ、おう・・・おはよう・・・」
生きてた。それだけでもびっくりだが・・・・
「どうなったんだ?」
「ん?ああ、あの獣人は油断したんだろうね、トカゲ共に襲われて食べられてしまったよ!ミーはなけなしの魔力でユーを救い、ここまで運んであげたってわけさ!」
「まじか・・・あ、ありがとう。それで・・・この生命草は?」
ムーが横たわっている隣には、生命草が3枚も置いてある。
助けてくれたことにも驚きだが、生命草があるのもまた・・・おかしな話だ。
「ああ、これかい?これはーーーそう!その襲ってきたトカゲ共が持ってたのさ!ミーは結界でジンを守り!この美しくも可憐な拳で、パンチパンチを繰り返し!ミーの空飛ぶ魔法で!ジンを優しく包み込み!そして―――」
「あーわかったわかった。本当にありがとうな!」
俺には嘘にしか聞こえん・・・が、助けてくれたのは本当なのだろうな・・・何か癪に障るけど・・・
「それでミーはちっとばかし、魔力を使いすぎてしまってね、しばらくはジンの中で眠るとするよ。実はもう限界・・・」
そう言うとムーの姿はビー玉くらいの光になると、俺の中にすっと入り込み、消えた。
「うわ!なにこれ気持ち悪!」
何かが身体に入り込むのが分かった。
何かってのは、間違いなくムーだ。ムーが光になって入り込んできたのだ。
あのムーが、クソ猫がだ。
気持ち悪いしかない。
俺の体中に悪寒がし、震える身体を手で押さえていると声が聞こえてきた。
『あのさぁ・・・助けてあげたのに・・・それはいくらなんでもミーも傷つくんだけど・・・』
『ああ、なんだ話せたのかってか念話?』
頭に直接話しかけてきた。
イザークもやっていたやつだ。
『うん。一応は話し相手って契約だしね。それは果たしていくつもりさ!』
『いや、眠ってていいぞ!』
『あまり話されても、俺もめんどくさいし。』
『それ聞こえてるからね!』
『おっと・・・すまんすまん。とはいえ、助けてくれたのは本当に感謝する。ありがとうな。』
『ふふ、ちょっとは素直になったじゃないか!その調子でもっと敬ってくれたまえよ!』
『すぐに調子に乗るんだよなお前・・・』
『そこがチャームポイントでもあるわけだしね!』
『はいはい』
そこから俺は少し休息を取った後、獣王王国まで走り出した。
ハルベルは結局、国を滅ぼしたかったのか、王座に就きたかったのか・・・
誰から毒等の情報を得たのか、何一つ分からずじまいだったが、別にもう興味はない。
一刻も早く戻り、特級を届け、加勢に入る。
俺の頭にはもう、その事しかなかった。
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