師として
―――ヒューグ視点―――
「エリー換金してくれ」
「はい!ひゅ・・ブロデ様!」
帝国へと侵入した俺たちは、エリーは冒険者ギルドの受付嬢、俺は親父の名前を借りて冒険者をしていた。
そうして、侵入したものの、裏で操っていたであろう人物は痕跡すら見つからず、一旦王国へと戻る準備をしていた。
「あの・・・非常に言いにくい情報があります。」
そうして準備に取り掛かっていた矢先、エリーが手に入れた情報に俺は目を疑った。
ジンが反逆者となり、王太子を暗殺しようとした―――
訳が分からない。
だが、ジンが馬鹿なことをしないのを知っている。
帝国を操って王国と争わせようとしていた。
それが今までの情報だ。
だが、ジンは王国の王太子を狙った?
裏で操っていたのが王太子・・・?
いや、あり得ない。
王国が帝国から戦争を仕掛けるように誘導して何になる?
でも・・・なら何故?
帝国と王国を争わせようとしていたのがそもそも違うのか?
ギリアムは利用されていた?
それはそうなのだろうが・・・王国にいる定住冒険者を狙った・・・
王国で力のあるやつを排除しようとした?それで何になる?
何か目的が王国にあり、邪魔な奴を帝国のせいにしつつ排除しようとした。
今のところ、ジンが正気である場合はこれが最適解か・・・
「あいつに直接聞かなきゃわからねぇな」
そう呟くとエリーは目を見開いて反抗してきた。
「危険すぎます!ジンは反逆者です!邪神に取りつかれたとも書いてあります!」
その鬼気迫る物言いに俺はどう返していいか分からず口を閉じた。
いつものエリーじゃない。
もっと視野を広く持てと、いつものお前らしくないと言い聞かせてみても、情報源が確かなものとして、疑う余地もなく信じ切っていた。
どうしたっていうんだ?
そうして俺らは急ぎ王都へと戻ってきた。
帰る途中も情報を集めたが、ジンはどうやら一人で逃亡したとのことだった。
エリーも他の奴らも、ジンを犯罪者として疑ってはおらず、何故そんなに鵜呑みにできるのか、俺には不思議で仕方がなかった。
一刻も早く、ルーシーに会わなければならない。
そう思って学院に行ってみれば、生徒との面会は出来ないと門前払いをくらい、エリーに頼んでもそれは叶うことはなかった。
途方に暮れた。
聞くやつ全てが、ジンを憎んでいた。
名前を出せば、親の仇のようにジンを罵倒し、血眼になって探している。
全員が操られているような―――
操られている?
背中に冷たい汗が流れた。
そう、操られているようだ。
ギリアムもそういった魔法が使えたと聞く・・・
エリーも、他の奴らも操られている可能性・・・だが・・・どうやって?
他の奴らはともかく、何故エリーは操られた?
いや、操られたのではないのか、思考が誘導された?ジンが罪人で、親の仇のような存在へと仕立て上げられた?
何らかの方法で・・・
その導き出した答えは妙にしっくりきた。
「御仁・・・戦闘狂ヒューグとお見受けいたす。少々よろしいか?」
廃れた酒場でチビチビと酒を飲みながらそんな答えを導き出した時、不意に声を掛けられた。
全身を黒い布で覆い、その下にはこれまた黒い・・・鎧を着たバカでかいヤツだった。
咄嗟に大剣の柄を握るが―――
「おっと、申し訳ない。某は青の公爵家の護衛、ジン殿の学友でございますれば、ルーシー殿から、頼まれ、貴方に会いに来たのです。時間はないので、早急に聞いていただきたいのですが。」
変な話し方をするそいつは、穏やかにそう言った。
嘘はついていない。敵意も感じられない。
「隣・・・よいですかな?」
「ああ、手掛かりもなくてな。歓迎する。」
「では、失礼。」
そう言って向かいの席にドカリと腰を下ろした。
「で?何がどうなってやがる?」
「貴方も無事なようですね・・・ご説明しましょう。」
そうして聞いた話は、導き出した答えと同じような物だった。
ジンは無事、上手く逃げれたらしい。
だが、たった一人で・・・だ。
しかもあの森を超えなければいけない。
あの森の奥へは一度だけ行ったことがある。
だが、直ぐに引き返した。
進んだら死ぬ―――そう直感したからだ。
あの時はまだ若かったが、今は進めるかと言われれば、難しいだろう。
だが・・・
俺は決心して立ち上がる。
「どちらへ?」
「話ありがとな。あれは俺の弟子なんだ・・・俺の知らぬところで死なれても嫌だし、強くなるために行ったんだろ?抜け駆けはさせないさ。師匠ってのは、弟子より強くなければな!」
「左様ですか。なら止めはしませぬ・・・ですが、気を付けてくだされ、ゴアと呼ばれる巨大な猪は避けて下さい・・・死にます。」
その兜の奥の目は鋭く、有無を言わせない瞳だった。
「分かった。」
そうとだけ言い、俺は獣人の国を目指し歩き出した。
弟子を追いかけて―――
だが、その道は困難を極めた。
ハッキリ言って異常だ。
黒い毛の生えた巨人はグレイトドラゴン並みだし、ゴアと呼ばれた巨大猪はまだ出会っていないが、あの巨人は忠告しなかったところを見れば、それよりも強いのは明らか・・・無事に追いつけるか不安になっていた。
休むことが全然出来ないのだ。
昼間は巨人が、夜中は狼が・・・それぞれ襲い掛かってくる。
満身創痍となって歩き続けた。
果たして此方で合っているのか?方向を間違えずに歩けているのか・・・そして本当にジンはこんなところを歩いて行ったのか・・・
そうして歩き続けた。
そこまでする意味はあるのか―――
ある。
俺は、あいつに救われた。
もう一度、夢を見る機会を与えられた。
あいつは、こんな俺を慕ってくれた。
あいつは学院で傷ついただろう。無力だと叩きつけられたのだ。
悔しかっただろう・・・
俺が行ったところで、あいつは喜ばないかもしれないが、それでも、孤独よりはいいはずだ。
それに・・・
「ルーシーにも、頼まれたしな。」
イザークの話の締めくくりはルーシーからの伝言だった。
『ついていくことは敵わなかった。私はこちらで出来ることをやる。どうか、ジンをよろしくお願いします。』
「嬢ちゃんにそう言われちゃ、断れねえしな。」
そうして、こじつけとも言えるような理由を、忘れないように呟きながら、前へ前へと進み続けた。
油断はしていなかった。
むしろ、今まで以上に慎重に進んできたはずだった。
だが、気付けば激しい痛みと共に、宙を舞っていた。
吹き飛ばされた。
そう認識し、そちらに顔を向ければ、そこにいたのは巨大な猪。
そいつは離れた距離にいた。
恐らく、あの長い鼻で吹き飛ばされた。
風を纏い着地する。
ダメージがひどい・・・・
逃げきれるか―――
「いや・・・丁度、腹が減ってたんだ。」
ジンは成長したのだろう。あの頃より格段に強くなったのだろう。
だが―――俺だって帝国に行って遊んでいたわけではない。
魔力も気も格段に操作は向上したし、魔法の扱いもあの頃とは比べ物にならない。
ジンに追い越されないように、必死になって強くなったつもりだ。
大剣の柄を強く握りした。
「行くぞデカブツ!」
無い頭を振り絞って編み出した。
風と火の魔法。
それを大剣に纏わせ、いつも通り振るう。
何千何万回と振り続けた素振りのように―――
そこから炎の刃のようなものがいくつも飛び出した。
それと同時に一気に駆け抜ける。
そんなもので倒せるとは微塵も思っていない。
【剛力】【思考加速】【瞬歩】
持ってるスキルをフルに活用する。
そうして長い死闘が始まった。
いくつもの木をなぎ倒し、暴れ狂う猪。
注意すべきは長い鼻と、牙だ。
見境なくこちらを目掛けて突進し、逃げれば鼻を振り回して攻撃してくる。
それは俊敏でいて器用に木々の合間を縫ってくる。
剣で斬ろうにも、硬い皮膚に、気等も流している。
そうして何度もぶつかり合った。
「へっへへ・・・楽勝だな・・・ちくしょう・・・」
最後に立っていたのは俺だ。
俺の勝ちだ。
だが・・・
「ちょっともらいすぎたな・・・」
ダメージをもらいすぎた。固い皮膚にはダメージが通らず、目を狙ったのだが、牙と鼻にやられた。
そして血の匂いで他の魔物が近寄ってくる可能性もあった。
痛みをこらえ、また歩き出す。
視界は霞んで、上手く歩けているのかも最早分からなかった。
どれくらい歩いたのかもわからない。
だが、運よくあれから魔物に遭遇することもなく、巨大なレンガの前へとたどり着いた。
イザークから聞いた場所と相違ない。
「ついた・・・」
そうして、その場で意識を失った。
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