真逆
「ど、どうゆうことなんだ?」
俺は抵抗することもなく捕まった。
それほどに混乱していた。
ダンは居場所を作り変えておくといった。
罪人というのは、まぁ理解できる。
王子だと言っていたし、権力だって持ち合わせているのだから。
でも、だ。
なぜ、俺の話も全く効かずに、ブロデさんは俺の顔を見て納得した?
俺の顔がそんなに罪人面だったのか?
訳が・・・分からない。
今までのブロデさんなら、俺の話も聞いていてくれたはずだ。
「説明を・・・お願いできますか?」
縄で縛りあげられて、座ったままの俺を見下ろすブロデさんに、俺はそう言った。
「ふん。何故そんなになってしまったのか・・・ワシが聞きたいくらいじゃが、分かっているとは思うが、お前は王子を暗殺しようとし、赤の公爵家を意識不明の重体にした。もちろん、ワシらはそんなことをするはずがないと疑った。でもじゃ!お主のその顔を見て確信した!ジン!お前は邪神に取りつかれておる!情報の通りじゃった!」
え?邪神?
「なぜ・・・顔を見ただけで邪神に取りつかれていると思ったんですか?」
落ち着け俺・・・少しでも情報を集めるべきだ。
「その瘴気じゃ!禍々しいまでのその狂気!・・・邪神に取りつかれたものでなければ何だというのじゃ!」
どうやら俺は、瘴気と狂気を身に纏い、邪神に取りつかれたと見えるらしい・・・
ダンが何かをした。
その事しか分からない。
「結局・・・ダンを殺すしかないか・・・」
「ん?なんじゃ?お主!今何と言ったんじゃ!」
「ごめんねブロデさん。大人しく捕まっているわけにはいかない。」
俺はそう言うと、縄を引きちぎった。
「ぐっ!ジン!大人しくするんじゃ!ええぃ・・・最早・・・取りつかれれば直すすべはない!殺してでもジンを止めるのじゃ!」
俺はその言葉に、抉れるような痛みを心に受けた。
あんなに優しくしてくれたブロデさんが・・・
右も左も分からない俺を、何処の誰かも分からないこんな俺を・・・息子のようにかわいがってくれたブロデさんが・・・
目から涙が落ちるのが分かった。
ダンをどうにかしたところで、この状態が治るのかすら、疑問に思う。
だが、最早許すことすらできないほどに、殺すことしか考えられないほどに、俺はダンを憎んでいた。
居場所を作り変えられた―――いや、消し去られた。
どうやろうとも、ぶっ殺してやる。
俺は走り抜けた。
リグム村の人たちは屈強な元冒険者。
だが、俺に追いつける者はいなかった。
遠くからブロデさんの叫び声が聞こえる。
「早馬をだせ!オリヴァー公爵に伝えるんじゃ!そこから通信で――――」
今はそんなもの、構わない。
俺は王国に、学院に向けて走り出した。
走り続けて半日。
俺は異空間で横になっていた。
トラックスキル:レベルⅨ 自身住居スペース(自身のみ異次元に収納可。空間は自由自在に変更可能)
を覚えていた。
迷宮の森もこれが無ければ、死んでいたかもしれない。
夜に走り、昼間は寝る。
どんなに急いでいても休息は取るべきだ。
だが、それも最低限にはしている。
それに、誰にも俺を見られてほしくなかった。
村のみんなの・・・俺に畏怖した顔が頭に浮かぶ。
俺に何かしたのか、みんなに何かしたのか・・・
それは分からないが、他の人もそうなるだろう。
あんな顔はもう見たくない。
それに、邪神―――それはきっと、あの女神様の事だ。
この世界では、考え方が逆なんだ。
きっと封印されているのが邪神、そして邪神と思われてる神は、あの女神様。
どうしてそうなったのかは分からない。
だが、ダンは本物の邪神を復活させようとしている。
女神様の言った世界を救うという言葉を思い出す。
―――封印を解かせてはいけない。
そんな使命感のようなものも出てくる。
だが、最早俺は・・・一人だ。
ルーシーもきっと・・・ブロデさんのようになっている。
俺をみた瞬間―――
想像して、後悔した。
孤独が・・・こんなにも辛かったとはな・・・
地球にいたころは、結婚したこともある。
だが、離婚し、一人になった。
孤独になった。
だけど、それについて辛いとは思っていなかった。
でも、今は・・・こんなにも辛い。
みんなにあんな顔をされると思うと・・・逃げ出したくなる。
いっそ、学院なんて向かわず・・・違うどこかへと逃げてしまおうか―――
いや、と俺は首を横に振る。
ダンは、ダンだけは・・・俺は許せないんだ。
それだけは、成し遂げてやる。
今は悲しみを忘れ、怒りを胸に、眠れない身体を休めた―――
―――――
隠れながらの移動は、思った以上に時間を取られた。
だが、あれから誰にも見られることなく、王国へとたどり着いた。
ようやくここまで帰ってきた。
だけど・・・まず、気になっていた所に顔を出しに行こうと思う。
きっと自分の部屋にいるはず。
デブス・レッドフォードが意識不明の重体。
それを聞いた時から、気になっていた。
もし、あれから更に致命傷を負わされたのであれば、特級を使おうとも思っている。
意識がないのなら、俺に恐怖を抱くこともないだろう。
ここにきて、暗殺者のジョブが役立つとは思っていなかったが・・・
ともあれ、闇に溶け込み、王都を掛ける影が一人、学院へと侵入した。
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