愛する娘の悩み事
「なぁ・・・アルスよ・・・私は一体どうしたらいいと思う?」
愛するわたしの娘、ルーシーが帰ってきた。それは、とてつもなく嬉しいことだ。
だが、たった一人で、暗い顔をして・・・そして部屋にこもってしまった。
いったい何があったのだろうか。何か悩みがあると言うのか。
私には話してもくれない。
聴こうとしても怖くて無理だ。
そもそも、ジンはどこに行ったと言うのか・・・ハッ!もしや・・・ジンめ!ルーシーをた、たたたべ
「父上、ジンさんは関係ないそうですよ。休暇を無理矢理与えたそうです。その変な想像をするのは止めてください。」
息子のアルスにジト目で見られ、良くない想像は首を振って打ち消した。
「なら・・・いったいどうしたというのだ・・・」
「直接聞いてみればいいじゃないですか。聞いたら教えてくれますよきっと。」
「むむむむ・・・だけど、きいて嫌われたらどうする?父として答えてやれない事だったら・・・呆れられてしまうかもしれんし・・・アルス、ちょっとおねがぃ「嫌ですよ。」・・・はい・・・。」
「そーゆうことは自分で聞いてください。そもそもそんなことで嫌われたりしませんから。」
そうはいっても、ふさぎ込んでしまった娘にどうやって、何を聞いたらよいものか・・・・
それに聞いたところで、自分がアドバイスできるとは限らない。
恋愛の話とかだったら平然と聞いて入れるわけがないし、挙句の果てには反対してしまうかもしれない・・・
「メラニーとケイラに頼んでみようかな?」
「はぁ・・・だから、そーゆうのは姉さん達に頼らず、自分でやってください。それに、たまには僕にも頼れる父ってのを見せてくださいよ。」
「お前は男だし・・・」
「父上?」
「う・・・冗談だ冗談・・・ふぅ、じゃあ行ってくるかなぁ」
チラッと息子を見ても『どうぞ』といった感じに両の掌を見せて前に進めてきた。
どうやら、手伝ってはくれないらしい。
意を決しなければいけない。
ここ1週間ほど部屋に閉じこもりきりなのだ。そろそろ出てきても欲しいし・・・。
恐る恐るルーシーの部屋の扉の前まで行くと、コンコンコンとノックをする。
「・・・うむ?」
おお、返事が来た!いかんいかん、父の威厳を・・・返事くらい返ってきて当然だ。
「わ、私だ・・・愛する我が娘ルーシーよ!お前が愛してやまない父、ジュイデンがきたぞい!」
するとガチャリと扉が開き、ルーシーと目が合った。
その顔は若干の疲れが見て取れる。
「うむ・・・父上どうかしただろうか?」
「うむ。どうしたもこうしたも、ルーシーよ、帰ってきたというのに、一度も夕飯すら共にしていないし、どうしたのかと思ってな。」
「あ、いや、すまない・・・ちょっと考え事をしていて・・・」
「悩み事か・・・どんなことで悩んでるか、聞いてもいいかな?」
ルーシーは口を開いたり、閉じたりしている。
そんなに言いにくいことなのだろうか・・・
「じゃあ、ちょっと部屋にお邪魔してもいいかな?あ、いや、変なことをするとか、全然そんなことはないし、ちゃんと香水もつけてあるから、パパは臭くないよ!」
「うむ?別にそんなことは気にしてないよ?少し散らかっているが・・・どうぞ父上」
部屋に入れてくれた!それだけで小躍りするほど嬉しいが、いかん、ちゃんと悩みを聴かなければ!
「オホン・・・それで?ルーシーは何に悩んでいるんだい?」
再度聞いてみる。私だって押すときは押す男なのだよルーシー!
「うむ・・・冒険者を・・・辞めようと思うんだ。」
娘の口から出たのはそんな言葉。
冒険者を辞める・・・それは私にとっては嬉しいことだ。
日々不安に駆られずに済む。
心配事がひとつ減る。
冒険者というのは、一つの判断ミスであっという間に命を落とす。
どんなにベテランの冒険者でも・・・・だ。
だからこそ、ルーシーがその危険なことを辞めてくれると言うのであれば、それは嬉しいことであった。
だが・・・
「理由をきいてもいいかな?」
そうして話してくれた理由は、
私は結局、貴族でありながら、民を守るどころか、自分の気持ちを優先して冒険者として生きている。
貴族のすべきことから逃げている。
私では助けられなかった。
教官の言葉を聞いても、続けたいと思っても、やはり、不安をぬぐい切れず、また同じ過ちを犯したらどうしようと、怖くなってしまう。
といったものだった。
それを聞いて、私はほほ笑んだ。
「ルーシー、君が羨ましいよ。」
「父上?それはなぜ?こんなに悩んでいるのに・・・」
「だってルーシー・・・君は、どっちの道にも進むことが出来るんだよ?私はね、戦うセンスは全くもって無いんだ。私だって、小さい頃は冒険者に憧れたものさ!」
「父上が?」
「ああ、ルーシーと同じ本を読んで、ルーシーと同じように冒険者に憧れを抱いた。でもね、私には、戦うという能力が全くなかったんだ。」
「でも、父上はその事はどうあれ、貴族として、きちんと仕事をこなしているじゃないか。」
「ふふ、もちろん。それは戦えない貴族の務めであって、私にはこれしかないからね、そりゃ、頑張って仕事をしたさ!こっちの才能は少しはあったみたいだしね!」
「なら、やはり、私も貴族として」
「いや、例えばルーシー・・・もし、町がモンスターに襲われるような事になったとしよう。
目の前に殺されそうになっている民がいる。私には戦う力がない・・・どうする事もできない。
でもルーシーは違うじゃないか、目の前にいる民を救う事の出来る力を持ってる。」
「それは・・・でも騎士だっているじゃないですか」
「確かにね、でも私はそれを見ていることしかできない。最善の選択をいつも迫られるんだ。誰かが死ぬかもしれない、私の命令一つでだよ?現に、何人も死なせてしまっている。たった、私の一言で、だ。」
「それは・・・」
「私もそこで戦えればっていつも思うんだ。・・・でもね、こんな私でも、逆に何人もの人を救うこともできる。それはとても地味で、表には出ないものかもしれないけど、私はそれを必死になってやっているんだよ。」
「私はそんな父上を尊敬しているよ。」
「はは、ありがとうルーシー、まぁ、政治政策だけが民を守る事じゃないのは教官に言われて分かっているね?
だから、私はルーシーが遊びで冒険者になっているなんて私は思っていないよ。
勿論、私も失敗はする。
しかし政策に失敗し、民を苦しめてしまったのなら、何が悪かったのか原因を考え、よりよい状況にするためにどうするのかまた新たに考え直せばいい。
救えなかった命があるのなら、救えるようになるまで力をつければいい。
どっちだって同じ「民を守る」という事だと私は思うよ。
どんな方法であろうとそこに「人を守りたい」という気持ちがあるのなら、胸を張ってその道を進んでいけばいいと私は思う。」
「うむ・・・でも、また同じ過ちを犯してしまったら・・・」
「不安かい?でもそれは、私も一緒だよ。私も、判断ミスをしてしまったら、民を苦しめてしまったら、そう思うと怖くなる。だから私は勉学に励むのさ、何もミスはしないように、皆が、少しでも幸せになれるように。ルーシーは冒険者として、それを考えればいい。私には、ルーシーが冒険者を本当に辞めたいだなんて思えないよ。」
出来れば、冒険者なんて危険なこと、続けてほしくはない。
でも、冒険者を辞めてしまえば、きっとルーシーも私も後悔する。
一度の挫折で、逃げ出したって別に構わない。
逃げるってことは、別に悪いことじゃない。
だがしかし、ルーシーはきっと、今逃げてはいけない。
向き合わなくちゃいけない。
人の命を・・・救えなかったという、その人のことを考えなければいけない。
私の言葉など、大した重みもないだろうし、前向きに捉えてくれるかは分からない。
もっとうまい言い方があったのかもしれない。
でも、どうかルーシーが、愛する我が娘が、後悔しない道を選んでくれることを願うしかあるまい。
「うむ・・・ありがとう・・・父上。」
そうしてうっすら瞳に涙を浮かべた娘は、また考えると言って一人になり、翌日スッキリした顔を私に見せると、そのまま学院へと帰っていった。
結局・・・ご飯を一緒に食べれなかった。
ご飯を美味しそうに食べているルーシーが一番かわいいというのに・・・・
そして、その数日後、ジンの指名手配がまわってきた。
赤の公爵家デブス・レッドフォードを襲撃し、デブスは意識不明の重体。
ジンは姿を消した―――というものだった。
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