悲劇の始まり
今日も今日とてデブス君は必死になって走っている。
とは言え、もう彼は10キロなんぞ余裕で走れるようになっている。
それは気闘術のおかげでもあるが、何よりも彼がそれを必死になって習得した、たゆまぬ努力の結果ともいえる。
魔力と気の合わせ技も毎日訓練しているおかげか、だいぶ様になってきており、俺と違ってコイツもセンスがいいのかよと、ちょっと才能に嫉妬してしまう。
ま、公爵の出なわけだから、いい血が沢山詰まっているんだろうさ・・・関係ないとは思うけど、そう思わないと、俺の心がもたない。
模擬戦みたいなこともするが、これはまだ全然俺が勝てるしな。
まぁ師を軽く超えられても困るからね・・・まだ威厳は保てているはずだ。
そうして訓練していると、とある人物が顔を出した。
ダン・ウェイカー
彼の事は未だに男爵という事しかわかっていない。
あと、武器はレイピアみたいなのを使用し、素早い立ち回りが得意という事くらいか。
ダンは「約束通り来たよ!」と軽く挨拶をしてきた。
デブスは事前に言っていた為に、渋い顔はするものの、文句を言ったりという感じはない。
「よ!一緒に訓練していくの?」
「んーいや、僕の秘密を教えるって言っちゃったからね、それを教えに来たんだ。」
「ああ、そんなこと言ってたな・・・で?それって何なの?」
「うん、その前にさ、聞きたいことがあるんだけど・・・神様って・・・信じるかい?」
???
俺の頭に?マークが浮かんだのはダンでも分かっただろう。
質問の意味が全く分からない。
俺は女神様に会っているから、信じる信じないで言えば、見ている以上信じるけど、それをダンに教えても頭のヤバいヤツって思われるだけだろう。
「まぁー割と?信じてる方ではあると思うよ?」
だから取り敢えずこう返してみたが、返ってきたのは、またもや意味の分からないことだった。
「意外だね、てっきり全く信じてないと思っていたけど・・・実は本当に存在しているんだよ。でもね、今は封印されているらしいんだ。だから、それを解くために、僕は組織に加入しているってわけ。ジンも良かったら一緒にどうだい?」
中二病の再発乙!って思いながら、話に乗ってあげるんだろうけど・・・
女神を見ているからな・・・てか・・・神様が封印されてんの?
でも、俺が出会った神様は封印なんかされていないし・・・
「この世に神様って何人いるの・・・?」
「何言ってるんだいジン・・・二柱に決まってるじゃないか。封印されていない方は邪神っていってね、女の姿をした神なんだけど、それはもうおぞましい醜悪に満ちた姿をしているそうだよ。嫉妬とか怨みとか、そういったものの塊なんだそうだ・・・で、もう一つの封印された神がこの世の安寧と繁栄をもたらす神で、勇気とか、正義を司る男の姿をした神様なんだけど、邪神に封印されてるってわけさ。」
・・・ふーん
でも、あれ?・・・ってことは神様は三柱ってこと?俺を転生させてくれた神様は女性の姿で、慈愛に満ち溢れた感じだったけれど・・・
チラッとデブスを見ると彼もその通りと言わんばかりに頷いた。
これは常識でしょうといった顔を向けてくる。
「うーん・・・俺はいいかなぁ・・・なんか、違う気もするし、護衛の任務も終わっていないしね。」
「そっか・・・やっぱり、お前には効かないんだなぁ・・・」
「ん?何が?」
「ん?いや、これから死んでもらうから、別になんでもいいだろ」
「っ!?」
そう言うが先か、動き出すのが先か、ダンはレイピアを引き抜きながら物凄い速さで距離を縮め、俺に向けて抜刀した。
トラックから小太刀を目の前に出し、軌道をずらさせる。
刀を抜刀―――
「おいおい!何の真似だ?」
本気の殺気、冗談ではない。
訳が分からない・・・混乱する。
「はぁ・・・これで死んでくれないのかー・・・まぁ、じゃあ、やっぱりこうするしかないかな」
俺の問いには何も答えず、ダンは手を床に着けた。
手を付けると赤く大地が染まる――
これは・・・
経験がある。
つい、2週間前に体験したばかりだ・・・
「魔法陣・・・」
真っ赤に染め上げたそれは、ダンジョンの中で体験した魔法陣と同じ形をしていた。
一つ違うのは一人一人の真下にできるのではなく、闘技場全体にデカく発生したことくらいだろうか。
ともあれ、その魔法陣が発動した瞬間には、そこはもう、闘技場ではなくなっていた。
「ここはどこだ?ダンジョンのやつもお前のせいか?」
「そうだよ。全く・・・何人生き残るか、誰が死ぬのか楽しみにしていたのに、死んだのがルーファスだけ?ハッ全くもって期待外れだった。」
今度はペラペラと喋り出した。
「特に青の所に行った君のとこは、全滅でもおかしくなかったってのに、ノコノコと帰ってきちゃって・・・君だけが生き残るなら、君の悔しい顔が見れて、僕は満足したんだろうけど。」
薄ら笑いを浮かべながらまくし立ててくる。
「そんなわけだから、ちょっとイラついていてね・・・死んでもらうことにしたんだ。」
沸々と怒りがこみあげてくる。
あれを、お前がやった?冗談ではなく、本気で、さもイラついてますって感じで言ってくる。
誰が死ぬか楽しみだっただ?
「ずっと仲良さそうに話しかけてきたのも・・・最初から演技だったのか?」
「え?今更そんなこと聞くのかい?やっぱり馬鹿だなぁ・・・無理に仲間にしようと思ってた僕が馬鹿みたいだな・・・うん。しなくてよかったよ。」
そう話をしていた時、一人の男が走り出した。
デブス・レッドフォード―――
彼もまた、何処かもわからない場所へと転移させられていた。
「貴様がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
デブスは炎蛇を見に纏い、颯爽とダンのもとへ駆けると、拳を放つ―――だが、
「はぁ・・・ノロマの君が、僕なんかに通用するはずもないだろ?」
レイピアをダンが振りぬくと、デブスの首から鮮血が舞い、拳が届く前にデブスは床に倒れ込んだ。
「お前ぇぇぇぇ」
「はぁ、どいつもこいつも怒鳴らなきゃ気が済まないの?うるさいんだよなぁ」
火弾をダンに向けて10発放つ。
そして駆けた――
ダンは皆を騙していた。そして俺らを殺そうとした。
それは許されるものじゃない―――
火弾はダンに届くが・・・
「へぇ・・・前よりましな魔法を使うんだねぇ」
憎たらしい笑みを浮かべながら、ダンは何ともないかのように10発の火弾を、水と風を纏ったようなレイピアで切り裂き、俺の刀も受け止めた。
「何を驚いてるんだい?君だけが複合魔法を使えるわけじゃないんだよ?むしろ、基本なことだろう?」
「いや・・・これを使うために近づいたんだよ・・・」
切り裂いたのには正直驚いたが、当てるために放ったわけではない。
近付くために放ったんだ。
これを使うために。
飛び切りのチートスキル・・・
―――【留置拘留】
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