不思議君
訓練が始まり、1週間が経過した。
最初は意識を失っていたデブスも、今では俺についてこられるようになっていた。
朝起きて、警察体操をやり、ランニングで軽く10キロ走り、模擬戦という名のしごきにあっても、デブスはくじけることなくついてきた。
訓練が終われば、大浴場で一緒に汗を流し、食事は俺がつくって提供した。
基本的には鶏のささ身やサラダなど味気のないものだが、文句も言わずに大量に食べてくれる。
デブスは日に日に痩せていった。
痩せたと言っても、ポッチャリくらいになったと言えばいいのか。
しかし、まだまだではある。
痩せたのは、当然と言えば当然だろう。
今まで運動はせず、食事に気を使っていたとは言っていたものの、炭水化物を爆食いしていたのだ。
そんなん、太っていくに決まっている。
ダイエット食品だといっても食いまくって寝てれば、そりゃ太る。
そして今日は魔法の訓練なのだが、
「やはり、斬れるな・・・」
「ジン氏!ジン氏!今のはどうやったんでありますか?」
デブスの口調が大分変ったが・・・これは慣れた。
今はデブスに血統スキルで炎の魔物を出してもらったのだが、難なくそれを真っ二つにしてみせた。
「これはあれだ、結局、魔力の塊みたいなものなんじゃないかな?だから、普通の剣では斬れないけど、魔力を剣に通してしまえば、斬れるってことだ。」
つまり、グレイスの魔剣も、魔力の塊なのだろう。
何処にいても出せて、最初から魔力を流す必要がない。
気力だけ注ぎ込めばいいのだから、なかなか便利そうだな・・・
俺にはトラックがあるし、流しやすい刀があるから、俺の方が便利っていうか、あれだけど・・・
他の人から見れば血統スキルってのは、かなり強いスキルになるわけだ。
「ほ~この剣が特別というわけではないのですなぁ。」
「おま、勝手にこの刀に触るなよ!特別な人から貰った大切な物なんだぞ!」
「特別?ジン氏・・・それはもしかして恋人ですかな?抜け駆けですか?」
「全然違うから、殺気をだすのをやめろよ・・・」
そもそも人ですらないんだけどな。この世に来てから恋人なんていないし、作ろうと思ったこともない。
「公爵家なんだから・・・縁談とかあるだろ?」
「ふふ・・・私の所に来るものなど・・・」
「あー、いや・・・すまなかったな・・・」
ごめんて・・・そんな絶望した顔は頼むからやめてほしい・・・・
まぁ、それはさておき、
「では、デブス、お前がつくる魔物に対し、気力も込めて生み出してみてくれ。」
「ここ最近やっと出来るようになった気闘術をいきなりやれって言われましても・・・」
「根性だ!やれ!やってみせろ!お前ならできるはずだ!」
「か、かかかしこまりー!」
そう言ってぐぬぐぬ言いだしたデブス。
俺も教官のフリが板についてきた。
「ぐっ・・・・くはぁ・・・・」
デブスはガクリと膝をついた。
「も、申し訳ない・・・私には・・・まだ・・・手前までは出来るのですが、身体から離れると途端に消えてしまいます・・・」
「うむ。よく挑戦した。なら、身体から離さずに生み出せばいい。」
「おお!流石はジン氏!早速やってみせます!」
そうして生み出されたのは、蛇。
炎の蛇がデブスの身体に巻き付いて現れた。
「なるほど、よく考えたな・・・」
「お!さすがはジン氏、気付きましたか、これであれば、攻撃にも防御にも使えます。」
「身体にくっついても、その炎がデブスを傷つけることはないんだな・・・」
「当たり前でしょう?何を言っておられるんですか。」
さも当然のようにデブスは言ったが、普通の魔法であれば、燃えると思うんだけどな・・・魔力の塊ってだけじゃないのかもしれないな。
そうしてデブスは体に纏わせて戦う方法を新たに生み出し、戦闘スタイルをガラリと変えた。
端から見れば、デブス自身が燃えてるようにしか見えないのだが、その炎は魔力と気を内包しているため、強固であり、ちょっとやそっとの魔法じゃ打ち消すこともできず、ダメージが与えられない。
まだまだ持続時間は短いが、訓練していけば戦闘で使えるものになるだろうし、めちゃくちゃ強くなると思う。
さらに身体から切り離すことも出来れば、そのポテンシャルは計り知れないように思う。
そうしてデブスとの訓練が終わり、自室へと戻る途中
「何やら面白そうなことをやってるんだねー」
「お?ダンか、お前は家には帰らなかったのか?」
「ああ、家はここから近いからね!それはそうと、デブスを鍛えてるのかい?」
「ああ、まぁ成り行きで少しね、まぁ、特段、特別なことはしてないし、俺の訓練を一緒にやらせているようなものだしね。それでもいいっていうから・・・そんな感じだよ。」
「へぇ~僕には教えてくれないのに、随分仲良さそうじゃないか。」
「ん?じゃあ一緒にやる?ダンには必要なさそうな訓練だけど・・・するなら厳しくしてあげるよ?」
「ほんと?!じゃあ今度参加してみようかな!まぁお手柔らかに頼むよ!」
そう言ってダンは俺の肩にポンと手を乗せると、そのまま廊下を歩き出して行った。
「あっそうそう、僕の秘密だけど、その時にでも教えてあげるよ!」
ダンはそう言い残し、こちらを振り返ることなく去っていった。
『不思議君』は、もうやめちゃうのか・・・
別にまだ続けてればいいのに、そんな感じが好きそうだったから、『秘密があるだろう?』とか言っちゃったけど、別に無いなら無いで、黙って続けててもいいんだけどな・・・中二病から目話覚ましたのかな?
俺はちょっと残念に思いながらも自室に戻って眠ったのだった。
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