休暇の使い道
俺らは取り敢えず席に着く。
重苦しい雰囲気が周囲に漂い、ダンやリーゼは暗い顔で、状況を聞くのが躊躇われた。
そうして待っていると、教官が入って来る。
「おう、待たせたな。で・・・その様子だとどうなったか聞いてないみたい・・・だな。」
ダン、リーゼを除き、全員が頷く。
「そうか、まぁ、結果から言うと、赤の護衛のルーファスが亡くなった。で、詳しく説明するとだな。」
そう言って話したのは、全員がダンジョンで同じ目に、魔法陣によってバラバラにされたという事だった。
原因はやはり不明。
ルーファスはデブスと同じ場所に転移したが、それは、ボス部屋だった。
ジャスミンとナタリーの状況と一緒だ・・・そして、ルーファスはデブスを庇い、刺し違えて命を落としたそうだ。
デブスは落胆し、部屋に引きこもった。
「っと事の顛末、この場の空気が重いのはその為だ。みな、すまなかった。」
そういって教官、アベリ・シュナイザーは頭を下げた。
しばらくの沈黙が場を支配したが、
「別に教官は悪くない。護衛に守られっぱなしだったデブスにも問題があるだろう。最初の模擬戦の時から腑抜けた奴だとは思っていたがな。」
口を開いたのは、青の公爵家、グレイス・オズボーンだった。
その言葉はあまりにも・・・冷ややかに感じられた。
はたから見たデブスとルーファスは仲が良さそうだった。
俺らとは会話はしないデブスだったが、ルーファスからは「坊ちゃん」とか「坊」と呼ばれており、デブスはその言い方は直せと毎度言っていたが、嫌そうな顔をすることもなく、楽しそうに会話をしていた。
大切な・・・友人のような関係だったのだろう。
そうしてふさぎ込んでしまったのは、自分のせいだと思ってしまったからなのか、俺には推測することしかできないが、ともあれこれはどうするのだろうか。
「そう言ってくれるな青の・・・あいつはあいつなりに頑張って、それでも出来なかったことで参っちまったんだろう。私にも経験がある。」
「まー話はまだあってだな。今日から2週間、学院は休校とする。各々好きなように休息を取れ、家に帰ってもいいし、寮で過ごしてもいい。まぁそこらへんは任せるが、変なことはしないようにな!じゃー解散。」
そう言って教官は教室を後にした。
「じゃあジン、私たちも取り敢えず部屋に戻ろう。」
そうルーシーに言われ、俺らは部屋へと戻った。
そして、唐突に言われた。
「ちょっと一人で家に帰ろうと思う。」
ん?・・・俺は?
「俺一応護衛だよ?ルーシー?」
「うむ。分かってはいるのだがな。ちょっと一人で色々と考えなきゃいけない気がしてな。しばらくジンには休暇を与えようと思う!」
特に働いてるっていう意識はないし、赤鬼とかの件もある。
出来れば一人で行ってほしくはなかったが、再三にわたる俺の説得にもルーシーは首を縦に振らず、結局一人で自分の領への馬車に乗り込み、行ってしまった。
「まぁ・・・大丈夫か・・・」
不安は尽きないが、転移させられた時も、俺がいなくとも難なく教官と合流できたと言うし、技術も天才級だ。
大丈夫だと信じて休暇を楽しむとするか・・・
「って言っても、さて、何をするかな・・・」
楽しもうとは思ったものの、特段することもない・・・
「・・・・」
風呂入って寝るか・・・
そんな事しか思いつかん。
怪我は大分いいけど、それなりに体はだるいし、たまには大浴場でも入って、ゆっくりするとしよう。
そう思い至って、そそくさとそのまま大浴場に向かう。
風呂の道具も全てインベントリというか、トラックに突っ込んである。
本当に便利なスキルだと思う。
そうして大浴場へと乗り込んだ。
この学院には生徒用にめちゃくちゃデカい大浴場がある。
基本的にはAクラスの部屋には風呂が完備されているから、入ることなんてないし、他の生徒の為の風呂であったりする。
ただ、この学院は今日から休みであり、ほとんどの生徒が帰宅していった。
つまり、貸し切りになるわけだ。
ならば入るしかあるまい。
そう思ってデカい扉をバーーンと開け放つと、俺以外に先客がいた。
あらかじめ言っておくが、女性ではない。
俺はきちんと男湯に入ったし、女性がそもそも間違えて入って来ることは絶対にない。
ラッキースケベ的なハプニングなんて起こる確率はゼロに近いだろう。
そうして先客はふくよかな男性だった。
ふくよかというか、デブというか、そいつは俺の事をギロッっと睨んで、一言、
「お前か・・・風呂は静かに入れ、マナーは大切にしろ」
それ・・・お前言う?入学試験の時なんかマナーも糞もなかったくせに・・・
ぐぬぬ・・・でも今のは俺が悪いか・・・
「申し訳ありません・・・デブス・レッドフォード様・・・」
「ふん・・・分かればいい」
それだけ言うと沈黙が流れた。
気まずいけど、もう後戻りはできない。
とりあえず体を洗うが、後ろの湯船から視線を感じる・・・
そうして体を洗い終わった。
ちょっと長めに洗ったのに、デブスはまだ上がらない。
くそぅ・・・
意を決して入浴。
俺は影だ・・・この気まずい感じも、デブスが上がるまでの辛抱。
スキルをフル活用。
潜伏、隠密、気配遮断を発動させた。
スッと存在感が薄くなる。
どうだ!デブス!これでお前は俺を見失うはずだ。
「私にもっと力があればな・・・・お前はどうやって鍛えたんだ?」
そう思ったが、俺の事など見ることもなく、唐突にそんなことを言い出した。
そもそも、俺がいることは分かっているわけだし、俺がスキルを乱用しても意味なかったか・・・
そっとスキルを切って、デブスを見る。
その顔はひどく疲れていて、やつれたように見える。
けっこうな時間思い詰めていたのだろうな・・・
鍛え方・・・か。
「私は冒険者をしてましてね、それで鍛えたのもありますし、A級冒険者のヒューグという人物から手ほどきを受けました。」
「そうか、ルーファスもな・・・冒険者だったんだそうだ。」
そうしてデブスは語りだした。
ルーファスがどうやってデブスと出会ったか、最初は生意気な奴だと思っていたが、話しているうちに同じ趣味を持っていることが分かり、そこから仲良しになったんだそうだ。
話しているときのデブスは、悲しそうに、でも嬉しそうに、昔を思い出しながら語っていた。
俺はあの日以来、クレアを助けようとした時から、デブスを見る目は変わっていた。
なかなか単純な奴だと自分で思うが、人を助けようとするってのは、かなり勇気のいることだと思う。
それを自然にしようとするってのは、なかなかいいヤツなんだと思っていた。
で、話を聞いて確信した。うん、こいついいヤツだわ。
話してる雰囲気も穏やかで、いつもやっている高圧的な態度ではない。
だからふと聞いてみた。
「なんでいつも高圧的な態度を装っているんですか?」と・・・
返ってきた答えは、
「貴族とはそういうものと習った。ルーファスからもやめろとは言われてきたが、それが貴族であるならば、私はこれを辞めるわけにはいかない。そう言ったらルーファスは馬鹿だな、と煽ってきたがな。」
ということだった。
ちなみにそれを教えたのは祖父らしい・・・よくわからんことを教えたもんだ・・・
「もう一つお聞きしたいんですが・・・趣味とは、なんだったのですか?」
「うん?・・・まぁ、話を聞いてもらったしな・・・趣味とは言えないかもしれないが・・・ダイエットだ。」
「へ?」
一瞬自分の耳を疑った。
・・・ダイエット?本当にやってるんですか?そんな事は口が裂けてでもいえないが、本人はいたって真面目にそう言ったのだ。
笑ってはいけない。
「そんな事よりだ・・・恥を承知で頼むのだが・・・私を鍛えてはくれないだろうか・・・」
今までのデブス・レッドフォードはどこに行ったんだというような、綺麗なお辞儀を俺に向けてやってきた。
素っ裸で。
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