冒険者と貴族
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――――――
「ん・・・」
「おー気が付いたか?」
出来る限り普段通りを心掛けてそう聞いた。
「きょ・・・教官殿」
「すまなかったなルーシー・・・私の失態だ。魔法陣が罠となって動く等・・・初めてのことでな・・・探すのに手間取ったが、お前だけでも見つかってよかった。よく生きていてくれた・・・ありがとう。」
まだ・・・ルーシーしか見つけていない。
他の三人は無事なのかどうなのかも分からない。
ルーシーを見つけたときは死んでいると思った。
ただ、傷は浅く、すぐにバジリスクの毒だと思い至り、解毒薬を飲ませた。
危ないところだった。近くにはもう一人、新人らしき冒険者の死体があった。
おそらくルーシーは守ろうとしたのだろ。
優しい子だ。
ここまでの道中、何人もの死体を見てきた。
そう、全て死体だった。
ここはダンジョン階層19階。
ただ妙なことに、15階層でルーシーを拾い、16階に上がったところ、一直線に魔石が転がっており、そこを丁度いいとばかりに進むと・・・それが次のフロアの入口まで続いていた。
そうして19階層まで、魔物と接触することもなく進んでこれた。そしてまだ、それは続いている。
「教官殿・・・」
「ん?どうしたルーシー・・・まだ具合が悪いのか?」
「いや、その・・・私の近くに、もう一人いなかっただろうか・・・」
「ああ、いたぞ。タグはちゃーんと回収済みだ。お前が後でギルドに届けてくれるか?」
「あ・・・はい・・・私は・・・助けられなかったんです・・・私じゃなければ、きっと救えた命だったのに・・・私は・・・。」
「おいおい、お前のせいじゃない。お前は助けようと死力を尽くしたんだろ?私だったら助けようともしなかったかもしれない。この混乱の中で、それどころでもなかったしな。」
「それでも・・・私は貴族、公爵なのに・・・」
「私だって貴族だぞ?だけどお前は、パニックになりながらも助けようと努力をしたんだろう?それはな、貴族とか、平民とか、そんなこと関係なく動いたはずだ。違うか?」
「違いません・・・」
「私はな、このダンジョンに挑戦したことがあると言ったろ?その時は冒険者をしていたんだよ。その時、実は死にそうな目にあってなー、ヒューグっていうどこぞの平民が私を助けてくれたんだよ。正直、平民に助けられたことがショックでな、平民の分際でって助けてもらったのに怒鳴っちまったんだよ。」
「ヒューグさんは・・・どう返したんですか?」
「ふふ、『そんなの関係ないだろ・・・くだらねぇ』ってな、そこから私も何かどうでもよくなってな、貴族とか平民とか、そんなのは関係ないんだよ・・・それにな、大事なのは、お前のその良心だ。助けたいと思ったお前の心は素晴らしいもんだ。私は、そんなお前が生徒で誇らしく思う。」
「教官殿・・・私も冒険者をやってるんです・・・でも、貴族は平民の為に働くもの・・・私は冒険者を辞めるべきでしょうか・・・どう思いますか?」
「そんなのは自分の心に聞いてみろ。貴族だからどうするべきか、じゃない。お前がどうしたいかだ。」
「私は・・・」
「はぁ・・・ったく、冒険者は人々を守る為にいるものだ。
貴族は政治政策等を行って人々を守っている。両方とも人々を守ることに変わりはない。同じだ。
何が違う?貴族は、冒険者で小遣い稼ぎすることだってある。
力を持った貴族は、むしろ冒険者になろうとする者が多い。お前にも当然その力がある。むしろ、冒険者をすることの出来る貴族は少ない。自ら危険な場所に行こうとする者が少ないからだ。
それは少なからず、民たちにはいい印象を与える。むしろ、やってもらったほうが良いはずだ。だが、そんな事情は関係ないだろ。
要は、お前がやりたいのか、やりたくないのか、それだけなんだよ。」
「私は・・・続けたい。でも、また助けられなかったら・・・」
「なら、続ければいい。助けられなかったのなら、その事をちゃんと次に生かせ、そいつの分も頑張れとは言わん、頑張らなくてもいいんだ。ただ、もしまた同じようなことが起こった時、後悔しないで動けるようにしておけ。そーゆうのが、私は大事だと思う。以上、しみったれた話は終わりだ。ジンのバカ共を探しに行くぞ。歩けるか?」
ルーシーはただ、泣きながら頷いた。どうもこの歳になると、説教みたいなのが多くなっていけない。
ただ、私はここに・・・お前たちを連れてきてしまったんだよ。
そうして、二人歩いていくと、20階層に辿り着いた。
ボス部屋だ。20階層なら・・・私一人で倒せるはずだ。
「ルーシー・・・いいか?入ったら足一本動かすな。いいね?」
頷いたのを確認して中に入る・・・・魔物を見て驚愕した。そこにいたのは40階層のボス・・・赤鬼だったからだ。
そして・・・誰かが戦っていた・・・いや、あれは、
「ジンか?」
ルーシーも目を見開く。ジャスミンもナタリーも無事みたいだ。
だが、赤鬼が前に見たときとは大きく違う。
身体が一回り大きくなり、その速さは尋常じゃない。
壁には二本の大剣が壁に突き刺さっている。
あれは・・・?鬼の武器・・・だったのか?
あんな大剣なんて持っていなかったはずだ。
いったい何が起こっているんだ・・・
いや、それよりも・・・あれは何なんだ・・・
私の前に繰り広げられた光景は、信じられないものだった。
ジンの動きが、人間のそれを超えている。
全身血だらけになり、壁と床を弓矢のような速度で行き来し、鬼もまた、同じように血だらけで、同じ速度でぶつかり合っている。
ドン!ドン!
と何度も地面が、壁が、心臓まで響くような音を上げ、何度も何度も互いにぶつかり合う。
ジンは刀、鬼は拳で対等に殴り合っている。
こんなもの・・・見たことがない・・・周りの奴らも、ただ唖然と、それが夢であるかのように、ぼんやりと眺めている。
ここに介入など、できやしない。
邪魔になるだけ・・・いや、邪魔にすらならない。ただ、潰されて終わりだ。
「な、なぁルーシー・・・あいつは、何なんだ・・・」
「む?・・・ジンはジンだ・・・ジンはいつもああやって・・・誰かを守ろうと、自分を傷つけて戦うんです。」
返ってきたのはそんな言葉。
あんな奴の隣に並ぼうとすれば・・・そりゃルーシー・・・挫折もするだろうさ。
あれは・・・化け物だ。
自分がどうなってもいいっていう戦い方は、見ていてうんざりする。
周りの事を考えない自己中ヤローだ。
一目見れば、ちゃんと向かい合おうとすれば、分かるはずなのに、そんなルーシーの気持ちも知らないで、お前はなんでそんなに生き急ぐんだ・・・
確かにあの鬼をどうにかできるのは・・・ジン、お前しかいないだろうな。
でも、今回だけじゃなかったはずだ。ルーシーにこんな顔をさせるんだから・・・
鬼が立ち止まり足に力を込めている。
ジンも同じように地面に手をつき、足に力を貯めた。
轟音と爆風が巻き起こる。
互いにぶつかり合い、凄まじい音をあげた。
砂塵が舞う。
今度は静寂がこの場を支配した。
そこに立っていた者はいなかった。
鬼は黒い霧になって散り、ジンはその場に倒れていた。
ルーシーが叫びながらジンのもとへ駆けた。
40階層のボスの赤鬼は、A級冒険者が束になってやっと倒した魔物だった。
それよりも一回り大きく、力を増したであろう相手に、一人で挑み、倒した。
そのことが私には信じられなかった。
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