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失望者の異世界転生  作者: コバヤシ アキラ
第2章
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絶望の先


一瞬だった。


魔法陣が発動したと思ったら、こんな薄暗い洞窟の中に飛ばされた。


刀の柄に手をあてて、警戒―――


魔物は・・・いない。


「ルーシー!誰か!いないのかぁ!」


なりふり構わず叫ぶ・・・が、返事はなし。

困った。どうすればいい・・・


まぁ、決まっているか・・・動くしかない。


教官は魔法陣のことなんて、何も言わなかった。


おそらく異常事態が起こった。

待つという選択肢なんて俺にはない。俺はルーシーの護衛だから・・・駆けつけなきゃいけない。


みんな、俺より頭いいし、思いのほかすぐに合流できるかもな・・・


「くそっ」


そう思うなら何でこんなに焦ってるんだ・・・?

いや、大丈夫だろう。むしろ自分の心配をしたほうが良い。


俺は才能だけもらって何も生かせない凡人だが、ルーシーは何でも吸収していく努力家で、天才だ。

あいつなら大丈夫・・・早く合流するべきなのは変わらないんだ。

冷静になれ・・・


身体強化、能力向上を使用してから、


【盗賊の極意】【索敵Ⅸ】【隠密Ⅵ】【潜伏Ⅱ】【気配遮断Ⅱ】【罠感知Ⅴ】【聞き耳Ⅲ】


を発動させる。 


自分の影が薄くなり、周囲の状況を確認する。


魔物の反応が多数―――人は・・・いない。


なら、駆け抜ける。



魔物なんて、今はシカトだ・・・邪魔なら排除する。

自分の勘を頼りにフロアを進んでいくしかない。


前方に敵影3。


【火弾】


土の圧縮、炎の爆発力に回転を加えたそれを、思考加速と狩人の心眼で急所に打ち込む。


敵が霧散し、そこを駆け抜ける。


最速で端まで進む。


次のフロアへ行く道を・・・発見。


それが、このフロアから先へ進む道なのか、出口に向かう道なのか分からない。

でも進むしかない。



――――――



目の前には絶望が広がっている。


円形のフロアに転移させられた。そこにはお嬢様・・・ジャスミン様と一緒にだ。

他にも数多くの冒険者と思われる人達が、ざっと100人。


魔物は1匹。


赤く5メートルはあろう強靭な身体、頭からは2本の角・・・身体と同じ大きさのデカすぎる剣。


赤鬼。


教官から聞いていた・・・40階層のボス。


そのたった1匹の魔物に、半分以上が砕け散った。

文字通り、砕け散ったんだ。


鬼が剣を振るえば、何人かが壁まで飛んで、臓器をぶちまけながら壁を赤く染めた。


そうして消えた50人は、ベテランと思われる人達だ。

私たちも加わろうとしたが、連携の邪魔だと言われ、結果、まだ命がなくなっていない。


まだというのは、恐らくこれから、その大事なものを無くすからだ。


鬼は順番に、叩き潰しながら歩いている。

なのに、みんな逃げようとしない。いや、逃げられない。


出口はない。

魔法陣が一つあるが、あれはここに入る為のものだ。あの鬼を倒す以外、ここから出る術はないのだ。


そして、恐怖が、絶望が、この場を支配していた。

ガチガチと歯と歯がぶつかり、中には漏らす者もいる。


そうして、涙を流し、自分の番が来るのをただ見ているしかできない。


でも・・・私は、お嬢様をお守りしなければいけない・・・無駄だとしても、少しでも・・・最後の最後まで。



「ナタリー」


不意にジャスミンから声を掛けられた。


「は、はい、お嬢様」


「一応、ありがとう。でも、最後まで、あきらめない。」


お嬢様は口数が少ない。でも・・・分かる。


今までありがとうと言ってくれてるのだ・・・

こんな不甲斐ない私に、護衛としては三流以下の私に・・・



お嬢様とは小さい頃からずっと一緒だった。

私はメイド兼、遊び相手だった。


学院に入学する際、他の人がお供する予定だった。私なんかよりも強い護衛だ。

お嬢様はそれに駄々をこね、私を指名した。


正直、荷が重かった。

私では無理だと思ったからだ。


メイドではあっても、お守りするために強くあらねばならない。

とは言っても、水魔法しか私には使えなかった。


それを必死に伸ばして、この程度だ。

それでも、感謝された・・・涙が、とめどなく流れた。


「ナタリー」


「ふぁ、ふぁい」


「まだ、あきらめない。力を貸して。泣くのは、後にして。」


そうだ・・・最後まで、お守りするのが私の・・・誓いだ。


涙をぬぐって前を向く。


お嬢様と目が合う。


「いける?」


「はい!」


「うん。じゃあ、いつも通り。フォローをお願い」


「畏まりました。」


正直のところ、転移させられる前に休みがなかったせいで、マナは残り少なかった。

でも、それはお嬢様も分かってくださってる。それでも私なら出来ると、思ってくれたんだ。


ありったけを―――


【水球】


数は1、だけど、ありったけを1個に込めた。

赤鬼と同じ大きさの水の塊。


「いけぇぇ!」


水球が鬼へ向かう。お嬢様は追従、私も追う。

いつもの連携。


視界を奪い、お嬢様が追従し、水球が当たる直前に、敵の後ろに回り込んで渾身の一撃を放つ。


だけど・・・それは教官と模擬戦をするまでの話。

私の水球に破壊力はない。


鬼も分かったのだろう。忌まわしそうに、それを振り払った。

でも振り払っても、全身に水がかかった。


今―――



【凍てつけ】


パキッと音をたてながら、鬼に降りかかった水が凍った。

そこをすかさず、


「ハッ」


お嬢様が華麗なる一撃を叩き込んだ。


ズンッ!と音を立てて、一瞬鬼が浮く。


が、


凍っていない左腕の方からヒュッと音が聞こえると


「グッ」


お嬢様も私も壁に叩きつけられていた。

だが、私もダメージは受けたものの、まだ平気だった。



「なんで?」


そんな声がでたのは当然だろう。守るべき主に守られたのだから。

お嬢様が私を攻撃からも、壁からも守ってくれた。


「貴方は・・・大切な友達、だから・・・連れてきてしまって・・・ごめんね。」


そんな・・・嬉しかったに決まってる。

武術の達人であった護衛を押しのけて、私を選んでくれた。

そんなの・・・嬉しくなかったはずがない。

ずっと一緒にいたんだもの・・・私だけは、ずっとメイドとして傍に仕えていたかった。

その望みをかなえてくれたんだもの。


重圧はかかった。でも、それ以上に嬉しかったんだ。必要とされて、幸せだったんだ。

でも、うまく言葉がでてこない。


お嬢様の目が虚ろで・・・私の目もよく見えない。


「いや・・・ぃや・・・しなないで・・・」


そんな言葉しか出てこない。



そんな時影がさした・・・顔を上げると、そこには真っ赤な、お嬢様をこんなにした、憎き魔物が大剣を振り上げていた。


せめて・・・お嬢様を腕の中で・・・そう思って抱え込んだ。


ズンッ!


大きな音と爆風がすぐそばから発生した。


だけど・・・死んでいない?


疑問を抱き、見上げると、闇に溶け込むようなローブに身を包み、漆黒の細長い剣で、鬼の大剣を受け止めながら、一人の男が立っていた。


「ジン・・・さん?」


―――――

お読みいただきありがとうございました。

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