人ひとり救えず
明日も間に合いそうなので、今日と同様に12時19時更新とします。
「うむ?・・・ここは・・・どこだ?」
空気が薄い・・・山の頂だろうか?
だが・・・見える景色は・・・ゴツゴツとした岩が無数に転がっている荒野がただただ広がっている。
周りを見渡しても岩が邪魔で良く見渡せない。
ジンも教官も・・・ジャスミン殿もそのメイドもいない。
たった一人。
「思えば一人になることなど・・・」
なかった。一人になったのはギリアムと戦った時に森を駆け抜けたくらいか。
ギリアムと戦ったとはいっても、私は足を引っ張っただけだが。
とはいえ、今は状況確認が最優先だ。
魔法陣が足元に発生した・・・飛ばされた・・・ダンジョン内なのか?外なのか・・・恐らく前者だろう。
他の者もそれぞれ一人で飛ばされたのだろうか。ジンと教官は無事だろう。ジャスミンも私よりはよっぽどジンとの連携もうまくいっていたと思う。ナタリーは・・・心配だな。
「皆と早く合流しなければ・・・」
不安になっていたためか、若干手足が震えている。
「ふっ」
私は相変わらず臆病なままだ。
ジンが引っ張ってくれなければ・・・恐らく直ぐに冒険者など続けていられなかっただろう。
パチン
自分の頬にカツを入れ、歩き始める。
ここが何階層なのかもわからない。
進んだ先が正解かもわからない。
どちらに進めばいいものか・・・。
状況を確認しながら進まなければ・・・ジンは今いないのだ。
「うわああああ!」
!?
先の方で悲鳴が聞こえた。他にも人がいる。
そう思い、声の方へ走り出す。
―――見えた!
一人の冒険者が4匹の魔物に包囲されている・・・あれは・・・バジリスク!
青いトカゲのような生き物・・・確かその牙に毒を持ち、注意が必要だとジンが言っていた。
出会ったら距離を保って雷の魔法で倒す・・・だったな!
【雷球】
迸る雷を10出現させて包囲しているトカゲへと放つ。
ただ冒険者に被弾しないように若干ずらして―――
『ゴアアアアアア!』
と、そいつらは咆哮をあげ・・・4匹のうち2匹は魔石を残して消滅した。
まだ2匹残っている。残りの2匹はこちらを睨んできた。
「今だ!離れてくれ!」
そう言うも、私の声が聞こえないのか、冒険者はパニックになっている。
「くそっ!」
思わず悪態をついてしまう。
剣を引き抜き荒野を駆けた。
ジンには近づくなと言われているが・・・人が近くにいる場合は魔法が被弾する可能性もある。
冒険者の最も近くにいた2匹は被弾を恐れて撃ったせいであまりダメージを受けていないはずだ。
そして、そいつらに直接狙いを定めて撃てば・・・恐らく被弾させてしまう。
なに、噛まれなければいい。
2匹はこちらに気を取られている。冒険者は落ち着けば逃げられるはずだ。
「絶竜剣!」
地面すれすれから上空に向けて剣を振り上げる。
1匹のバジリスクはその攻撃によって斬られながら打ち上げられた。
「次!」
そう声を出して2匹目に顔を向けたときだった。
「うがああああああ!!!」
冒険者が悲鳴を上げた。
パニックによって声をあげていた冒険者は他の魔物を呼び寄せていた。
更なるバジリスクが3匹・・・冒険者の足と腕をむしり取っていた。
泣き叫び、絶望の表情を浮かべた冒険者と・・・一瞬、目と目が合った。
そしてそちらに視線を囚われてしまったばかりに・・・対峙していたもう一匹のバジリスクからの攻撃をかわし切れず・・・噛み付かれた。
―――激痛。
それが身体を駆け巡った。
恐怖が、不安が、先ほどまで止まっていたはずの震えが、全身を支配した。
だが・・・
ここであきらめてはいけない、ここで死にたくはない。
「うおおおお」
自分を鼓舞するように、恐怖や不安を吹き飛ばすように咆哮を上げながら噛み付いてきたバジリスクを剣で叩き潰した。
「まだ!!」
【水雷】!
冒険者を襲った3匹に向けて水球に雷を合わせた複合魔法をぶっ放した。
捕食することにしか能のないそいつらに簡単に命中し、消滅させた。
冒険者に直ぐに近寄るが・・・その姿は原型をとどめておらず・・・
「くそ・・・すまない・・・」
冒険者は見る影もなくなっていた。
使い古された装備に、所々真新しい装備が付けられている・・・。明らかに新人だった。
私もパーティーを組んでいなければ、最初の段階でこうなっていたのかもしれない。
彼も私と同じように魔法陣によってここに飛ばされてきたのだろう。
ここに飛ばされたのが私でなければ、ジンであったなら、いつかの私のように助け出してくれただろう。
力をつけたと思っていた。
だがそれが慢心だと気が付いたのはダンに負けてからだ。
その日から・・・鍛錬を続けてきたつもりだった。
だけど、結果はどうか・・・一人も救えやしないじゃないか。
『貴族とは民の為に働くものだ!つまり我らは民たちから信頼を勝ち取り、常に先頭に立ち、道を示していくものだ!お前たちは何だ!そうやって遊ぶ暇があれば、己の研鑽を怠らず努力をしろ!そういう義務が我らにはあるのだ!』
いつかの自分が言った言葉が胸に突き刺さる。
偉そうに、三人の貴族に対して説教した自分の言葉。
民の為に働く?―――冒険者をしていたのに?
信頼を勝ち取る?―――そんなもの・・・ないじゃないか。
先頭に立つ?―――私はいつも誰かにくっついていただけだ。
道を示す・・・いつだって道を示してくれたのはジンだったじゃないか。
私が何をした?何もしていない。自分からは何も。
常に横にはジンがいてくれた。優しさに甘えてきた。
私では・・・
どうにもならなかった。間に合わなかった。自分では出来なかった。
ふと、自分の体の感覚がなくなってきていることに気が付いた。
汗をびっしょりとかいている・・・力が入らない。
ああ、そうか、私はここまでなのか・・・・。
どうやらバジリスクの毒が回ってきているらしい。
解毒の魔法なんて使えない。
解毒のアイテムなどは、ジンに全て託していた。
少しは自分で持ったほうが良いともいわれていたが、戦いの邪魔になり、心強いジンがいる。
だから大丈夫だと思っていた。
防具のお陰でたいした傷は負わなかったものの、毒は関係無く体を蝕んでいた。
私はいつも浅はかだな・・・
思えばずっとジンに守ってもらっていた。
冒険者になってから今まで、ジンを助けられたことなどなかった。
助けてもらったことしかなかった。ジンはやさしいからな・・・そんなことはないっていつも言っていたが・・・ついに私がジンの為に何かしてあげられることはなかったわけだ・・・
もう足の感覚もなく、地面に倒れていた。
顔面を地面にぶつけたせいで鼻血がでているが、痛みの感覚すらない。
私はただの大バカ者だ・・・
意識が朦朧としてきた。
最後に思い浮かんだ顔は父様でも、兄弟姉妹でもなかった。
「すま・・・な・・・ぃ」
そんな小さな呟きは、誰にも聞こえることはなかった。
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