ギリアム・アベスドール戦2
「ふん・・・忌々しいハエめ。まあ、誉めてやろう。あのエネルギーをくらっても尚、生きているとはな。」
ギリアムは表情を変えずに、俺にそう言い放った。
「そりゃどーも・・・」
俺はすかさず小太刀を握りしめ突撃する。
ほんの一瞬だが、ヤツに疲れが見えたからだ。纏う魔力も少ない気がする。
あの衝撃波、恐らくそう何発も撃てるものじゃないのだろう。
そうでなくては困る、という俺の願望も含まれるのだが・・・。ヤツが立て直すまでの時間がどれくらいかは分からないが、チャンスだ。
俺は戦法を変え、火弾を撃ちまくりながら奴へと迫り、斬りつけた。
先ほどの攻撃から、まだヤツのバリアは回復していないのだろう。火弾も今なら通る!
しかも、あの鋼のように硬かった皮膚すらも柔くなっているようだ。
火弾はやすやすと牛の顔へと到達し、めり込まれていく。
俺が振った小太刀も、牛の左前脚を斬り飛ばす。
「っしゃぁ!」
あれだけの防御があの一発で切れたのか・・・それほどの威力を出していたからな。そうじゃなければ俺もやっていられない。
魔法を常に当てていれば、あのバリアがいつ復活するのかがわかるだろう。
しかも俺には特級ポーションがある。この繰り返しになってくれれば・・・もしかして、いけるか?
しかし、バリアが切れただけだ。黒い塊も蛇も健在だ。
今はまだ、そこまで深追いはしない。
焦ってはならない。
俺は適当な距離をとり、魔法をばら撒いていく。
しかし、すぐに魔法の効果はなくなった。
それからしばらく、この攻防戦をひたすらに繰り返した。
「私は最強の力を手に入れたが、そこのハエもそれなりに強者のようだな。どうだ?まだ間に合うぞ、私に従え。」
「何言ってやがる糞野郎。もうそんな余裕かましてる場合じゃないんじゃないか?お前の息の根を直ぐにでも止めてやるよ!」
散々こいつに振り回されたんだ。その落とし前は付けさせてもらう。
「フン、まあよい。お前を敵と認識してやる。少々本気を出してやろう。」
あの黒い塊がいくつも展開される。その数は10。
こいつ、まだそんな余力が残ってやがるのか・・・。
その塊が、縦横無尽に解き放たれた。
俺はその圧倒的物量の塊を避けていく。かすっただけでメキメキと骨が軋み、切り刻まれる。
これをいくつも作り出されたんじゃたまったもんじゃない・・・
「どこを見ているんだ?」
不意に背後から糞野郎の声が聞こえた。振り返ると、奴はすぐそこにいた。
俊敏すぎるだろ。
逃げようとするも塊が俺を囲い、逃げ場がない。
「クソがっ・・・・!」
2匹の蛇が俺の両腕に噛み付き、力が抜け落ちる。
「クックック、お前のようなハエなんぞ、私が少しばかり動けば、こうなる。私がお前ごときのために動いたことを誇りに思うがよい。」
ギリアムは憎たらしく俺にそう言い放つ。
一体俺はどうすれば・・・
「ジンを放せ!」
ボロボロになったルーシーが飛び出し、ギリアムに向かう。
この短時間で・・・いや、どれくらいの時間がたったかなんて、もう分かりはしないが、ルーシーは戻ってきた。だけど・・・
「来るな!ルーシー!」
「ふん、小娘の気配なんぞ最初から分かっていたわ!」
ヤツはそう言うと、あの塊をルーシーへ放つ。
俺はその塊を目で追った。
「ぐっ・・・!」
ルーシーは一つ目は躱した。いや、その一つが躱される直前に分裂し、ルーシーの足に直撃した。
「ルーシー!!」
「すまない・・・ジン・・・部隊には伝えたのだが・・・私しか来ることが出来なかった・・・」
俺は大声で叫んだが、ルーシーは消え入りそうな声でそう告げて、そのまま気を失った。
ルーシーの足は・・・無くなっていた・・・
ここまで、気配を消せないルーシーは行き来してくれた。それは多分・・・死ぬ思いで・・・俺の為に・・・
(カチリ)
何かが俺の体の中で音を立てた。
「許せない・・・・」
「フン、いまさら何を言う。そいつもお前も、死ぬのだよ。」
許せない・・・自分が許せない・・・・何が、助けになりたいだ・・・・
ルーシーを二度も・・・・
俺は渾身の力を振り絞る。
噛まれた腕など気にせず、足で蛇を蹴り上げる
蛇の頭をポッキリとへし折り、もう一方の蛇は殴って潰した。
「なにぃ!!!」
ギリアムは驚愕し、声を上げるが、俺はただ無言で腹パンを決め、蹴り飛ばす。
圧倒的な暴力を前にギリアムは脅えだした。
「な、なんだお前は!その強さはなんだ!!!く、くるな!!!」
一歩一歩ギリアムに近付いて行く、もう何も考えられなくなっている。あるのはただ、あいつを殺したいという、殺意だけだ。
(殺してやる)
頭の中がその思考だけで占領される。
しかし突然、俺の肩に誰かがポンっと手を置いた。
「遅くなって悪かったな、ジン。とりあえず落ち着けや。」
その顔を見た途端、安心すると共に色々な感情があふれ出てきた。
「今までどこに行ってたんですか?心配しましたよ、師匠・・・」
俺の唯一無二の師匠、ヒューグさんが、そこにいた。
「おう。すまなかった。取り敢えず、あそこの嬢ちゃんを手当てしてやれ。ポーション持ってんだろ?悪いが、あいつとケジメ付けんのは俺だな。手が空いたら手伝ってくれや。」
「わ、わかりました・・・ありがとうございます・・・。」
俺はルーシーの元に駆け寄り、すぐさまポーションを飲ませた。
あのまま我を忘れて突っ込んでいれば、もしかすると、ルーシーを見殺しにしてしまったかもしれない・・・。
俺は・・・・・・
だが、今は、ヒューグさん、もとい師匠に目をやる。
「クックック、お前がヒューグか?
貴方には散々振り回された。まあ、今となってはどうでもいい雑魚でしかない。だが、危ないところを助けられましたね。一応感謝しますよ。
それじゃ、死ね。」
「グダグダうるせえなお前、たかが魔物がしゃべるんじゃねぇよ」
ギリアムが生成した10個の黒い塊が、師匠へと縦横無尽に駆け回りながら迫っていく。
しかし、師匠はそれを余裕を持って躱していく。
よく見れば風魔法を纏い、効率よく使っているみたいだ。
だが、魔法は・・・
「師匠!そいつに魔法は今通じません!」
俺は慌てて師匠にそう投げかけたが、
「おう!何となくわかるからまかせとけ!」
そう言って師匠は、背中に携えてある身の丈ほどのある大剣を構えた。
あのスピードであの大剣を持って移動するなんて。そんなことは俺には絶対にできない・・・
師匠は風の魔法を付与した大剣を、ギリアムへと叩きつける。
付与した風は、大剣の半分から後ろにしかかかっておらず、単純に振り下ろすスピードを底上げするために使われていた。
その単純な斬撃は、見惚れるほどに美しく真っすぐ、ギリアムの身体を真っ二つに切り裂いた。




