ギリアム・アベスドール戦1
ギリアム・アベスドール俺に向けて放った、黒い塊。
それを俺の本能が、危険だと、最大の警鐘をガンガンと鳴らしている。
だが避けられない・・・
俺は無属性のシールドに、全ての属性を重ね掛けしてその黒い塊を防ぐ。
「ガッ・・・!」
その凄まじい威力を受け、俺の体は吹き飛んだ。
後ろの木々に容赦なく叩きつけられ、何本かの木がへし折れる。
グレイトドラゴンなんてものじゃない・・・・あれはあれで、ただの尻尾の攻撃だったが、それでもこれはグレイトドラゴンより強いだろう・・・。
鑑定は全く役に立たない。
一瞬意識が飛びそうになるのを頭を振って阻止し、震える手足を意識しないようにし、自身を鼓舞して奮い立たせる。
「お、お前・・・ギリアム・アベスドールと言ったか?帝国宰相の・・?」
そう、こいつは確かにギリアム・アベスドールと名乗った。それはダミアンが言っていた帝国宰相の名前であり、この一連の件の首謀者のはずだ。
「ほう、お前私が誰だかわかるのか・・・私に忠誠を誓うのであれば部下にしてやっても良いぞ。」
どうやら本人らしい。巨大な牛の背中から人間の上半身が生えている。両手は蛇で、もともと人間だったとは決して考えられない。
「誰がお前みたいな気持ち悪いヤツの部下になるんだよ!だいたい、どうやってその力を手に入れたんだ・・・?」
「芸術のわからぬクズにはそう見えるのだろう。この力はあのお方からいただいたのだ!」
恍惚とした表情で、自分自身の身体を見つめている。気色悪すぎて吐き気がしてくる。
「私の駒にならぬというのなら死ね。」
ギリアムは再度黒い塊を放つ
先ほどと同じ攻撃。その速さは一度見た。
俺は余裕をもって躱せる場所にいたのだが、それをギリギリ、やっとのところで躱す。
俺の攻撃魔法は歯もたたない。あれに直撃すればヤバイ・・・。
俺は取り出した小太刀を右手に持ち、左手には短剣を持って構えた。
「避けたのを誉めてやろうと思ったが・・・そんなおもちゃのナイフで切れるとでも思っているのか?」
俺の様子を見て、ギリアムはクックックと笑いだす。
「お前みたいなバカは初めて見た。もう目障りだ・・・これで逝け!」
ギリアムは黒い塊を3発同時に放ってきた。
さっき俺がギリギリで躱したのを見て、左右を塞ぎ、逃げられないようにしたのだろう。
俺はそれを素早く躱した。
今までのギリギリの回避は懐に踏み込む為の布石。
そして、ギリアムの目の前まで走り込み、ヤツを両手で斬りつけた。
魔法は弾かれるとわかっていたので、付与はしていない。
小太刀に魔力を注いではみたが・・・
「ちっ」
全くもって敵わず、ついつい舌打ちをしてしまう。
何も付与していない短剣は、斬り付けると同時に粉々に砕かれた。
小太刀の方は斬れたことは斬れたが、深手にはならない・・・。
その牛のような巨体は途轍もなく硬く、頑丈だった。
「小賢しい!」
ギリアムは両腕の蛇で俺の腕を食い千切ろうと迫ってくる、
俺はすぐさま射程外へと逃げ延びる。
「えええい!!!ちょこまかと小賢しいハエめ!!!!」
俺は冷静に黒い塊を躱しながら、隙を伺い続ける。その間にも黒い塊が体をかすめ、それだけで激痛が走る。だが幸いなことに、致命傷にはならない。
そうやって何度も繰り返す。どれくらいの時間がたったか分からない・・・
躱せてはいるが・・・攻め込めない。ジリ貧だ・・・。
何度かギリアムに斬りつけたが、致命傷になるようなダメージを与えられない。
挑発して隙をつくり、いっきに畳みかけるしかなさそうだ・・・。
「はっ!おもちゃのナイフで切れちまったな!」
ギリアムに視線をやり、吐き捨てる。
「これなら余裕でぶっ殺せそうだわ!大したことなさ過ぎて笑っちまう!」
俺の皮肉たっぷりの挑発に、どうやらギリアムは容易く乗ってくれたらしい。
「ハエ風情が!調子に乗るなよ!!!!」
そうギリアムが言い放ったのをきっかけに、ヤツの周辺の空気がぼやけ、体内の魔力が跳ね上がるような膨張を見せる。
あれ???挑発させすぎた・・・?
やばい!!!
俺は全力で後ろに飛びつつシールドの強化に専念するが、
「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」
ギリアムの図体の一部である牛が咆哮を上げると、その周辺が吹き飛んだ。
ミシ・・・・・・・バキバキバキバキ!
シールドはいとも容易く砕かれた。その範囲にあったものが、全て数百メートル吹き飛ばされる。
木々も岩も何もかも全て・・・俺と同時に吹き飛ばされている。
この速さでこのまま地面に叩きつけられたら・・・
魔法を発動しようにも、体中に激痛が走り、思考もままならない。
手足も動かない・・・
身体を動かせない・・・
こんな簡単に・・・こんなあっさりと・・・
俺、このまま死ぬよな・・・・・・
そう思った時、突然背後から風が吹き込んだ。
ギリアムの攻撃によって勢いよく飛ばされていた俺の身体は、後ろから吹く風によってその勢いが緩和され、そのまま俺の身体は受け止められた。
「すまない、遅くなった・・・・・・・・・・・」
そう声をかけてきたのは、ハニーブロンドの髪を持つ15歳の少女。
身体は所々切り傷があり、あの魔物の群れをどうやってこえてきたかは分からないが、ボロボロだった。
その顔は歪み、今にも涙が落ちて来そうだった。
「んだよ・・・ベストタイミングだよ・・・」
俺は激痛に耐えながらも、何とか返答する。
自分の身体を見ると、両手両足は潰されていた。
「ジン、これを飲め!早く!」
ルーシーは俺に特級ポーションを飲ませてくれた。
全ての傷が癒えていく・・・やっぱりこれはすごい・・・。
「ありがとな、ルーシー!!おかげで死なずに済んだわ!」
できるだけ明るく、俺は礼を言った。
「うむ!うむ!よかった・・・。」
だが、そう談笑している余裕もない。ギリアムがゆっくりとこちらに近づいてくる。
「あの化け物が帝国の宰相だ。もはや人ではないけどな。」
ルーシーは、ギリアムの姿をまじまじと見ている。
「魔法が効かない、ダメージを与えられるのは魔力を乗せた剣だけ。」
とんでもないヤツだと言うのは、見てくれだけで充分理解できるだろう。
「ルーシーはその情報を下がってみんなに伝えてくれ。俺は時間を稼ぐ。」
「何を言っている!今ここでジンをひとりにできるものか!」
ルーシーならそう言うとわかっていた。しかし、現状では正直手も足も出ない。俺よりも強い人に、その情報を伝えてもらうのが一番いい。
その間時間を稼ぎ、魔物を生ませない。それしか・・・なさそうだ。
俺は特級ポーションを3つ手渡した。
ここから戻る為に1本、戻ってから1本、予備で1本。
ルーシーはさらに反論しようとしたが、俺はそれを制し、死ぬつもりはないと伝えると、俺の思惑を理解したのか、苦しそうに「すぐに伝えて戻ってくるからな!」と言い残して、その場から去って行った。
さて・・・・、アレをまたやられたらキツイどころの話じゃない・・・・




