ヒューグとギリアム
「ふう・・・なんとかなったか・・・」
誰もいない山の頂で、満足そうにそうつぶやいた。
ここは飛竜種の群生地。
リグム村から東に真っすぐ進むと見えてくる山脈の1つであり、山を越えると帝国の国境がすぐ見えてくる位置となる。
ここには基本的に誰も近寄らない。死の山脈といわれるここら一帯は、幻想種である龍が住み着くともいわれており、事実その中で最も弱いとされるグレイトドラゴンが発見されている。
こんな場所へと赴くのは、命知らずのバカか本物の強者しかいないだろう。
まぁそれは同じようなものだが・・・。
「だが・・・36にもなって魔法を勉強する羽目になるとは思わなかった。」
初めてグレイトドラゴンと対峙した時は本当に死にかけた。
まさか弟子が木で撲殺した時には目を疑ったが、おかげで命拾いした。
俺は剣一本でどこまでも行けると思っていた。
それこそ魔物ならば、余裕だと・・・。
ありとあらゆる武器を使いこなせるようになったのに、それが通用しない敵がいたのだ。
なら俺がやるべきことは1つだろう。
魔法の習得である。
近接戦闘こそが志向だった。戦闘バカだの能筋だのとバカにされ続けてきたが、事実魔法と剣術を扱える奴らも俺の相手ではなかった。負けることはあれど、見直して改善し、それで勝ってきた。
そうしてついた二つ名が戦闘狂だった。
間違っていないと、これが俺の道だと思いやってきたが、一匹のトカゲにここまでプライドをズタズタにされるとは・・・。やはり、更なる高みへといくのであれば、魔法は必要だったのだ。
事実、俺の横に倒れているこのトカゲが証明してくれている。
俺の魔法属性は風だった。
剣に纏わせ、体に纏わせ、前以上のスピードと力を手に入れることができた。
ワイバーンやヒドラに苦戦していたのが馬鹿らしくなる。
だが、武器が問題になってくる。
今倒したグレイトドラゴンに短剣1本以外全ての武器を持っていかれてしまった。
こいつとはかなりの死闘を繰り広げた。
もっと強力な武器があれば、もっと楽に倒せたかもしれない。せめて俺の魔法に十分に耐えられる剣があれば・・・
これも俺の間違いだろう・・・なんせ武器はきちんと手入れされていれば何でもいいと思っていたのだから。
一旦王国の鍛冶屋に顔をだして相談するとしよう。
グレイトドラゴンの尻尾を掴み、引きずりながら山を下り始めた。
――――
その男ギリアム・アベスドールは焦っていた。
ヒューグ暗殺を任せた刺客からの定時連絡がこないのだ。
失敗すれば今度こそあのお方に殺されてしまうだろう。
どうするべきか・・・
レインハート帝国の宰相にまで上り詰めた男はその優秀な頭脳をフルに活用して熟考する。
だが、もはやこの手しか思いつかなかった・・・。
スタンピード
それは魔物の大発生。
原因不明といわれるその魔物の大行進は、その進む先を更地に変えてしまう。
その原因不明だった方法だが、あの方から教わったのだ。
王国との戦争を帝国の勝利へと導くため、魔物すらもうまく活用する。
だが、それを実行するには私自らが発生させる場所へと赴かなければならない。
私の腕に刻まれたこの術式を発動させれば、魔物が出現し、私の意志を理解し、暴れ回るという。
その蹂躙する様を近くで見れるのだ。
ゾクゾクしないわけがない。
だからこそこれを使うしかないだろう。
なに、どうせそのヒューグとやらは片腕なのだ。見つからないなら見つからないで、スタンピードであぶり出し、私が殺してしまえばいい。
私が下す前にスタンピードで殺してしまいそうだがな。
クックックと笑いながら抜け出す方法を考える。
宰相という立場である以上、簡単に抜け出すのは難しい。
「ダミアン共をつかうか・・・」
帝国の闇であるダミアンと呼ばれた集団は宰相が築き上げたものだ。
帝国でも少数しかその存在を知らず、宰相が関わっていることなど誰も知らない。
闇魔法により、思考のコントロールをすることによって、忠実な犬へと育て上げた完全なる下僕。
一人一人がダミアンであり、他に名前などはない。
この駒を全て動かし計画を再度練る。
結果的に帝国が勝利さえすればそれでいいのだから。




