神の木
ヒューグさんは囮になると言うが、その体はもうボロボロだった。
俺の前世の年齢とほとんど変わらないくせに・・・・俺なんかを逃がそうとしてくれる。
俺にできること・・・武器はない・・・・武器?
あれは武器じゃない。ただの木。
リストから木刀を取り出す。
これは、何の木なのだろうか・・・重さは素振り用の木刀よりも重い。
もし、女神様から頂いたこの木刀が、そこらの武器より硬かったのなら、
少しだけでも逃げ切れるだけの時間が稼げるなら・・・
このままだとヒューグさんは逃げきれない。
ならばやってみるしかない。
俺は右手で握りしめた木刀を左腰に添え、体勢を低くした。
そして、空いている左手で特級ポーションを持つ。
「ヒューグさん!!行きます!!!」
俺はそう言って大声をあげながら一目散に走り出した。
今までよりも体が軽い。力もみなぎってくる・・・。
一瞬にしてヒューグさんまで辿り着き、左手に持っていた特級ポーションを押し付けて、竜のもとへと駆ける。
これは賭け・・・・俺のスキル【ポリス】の効果
Ⅱ 非殺傷武器に限り攻撃力増加
Ⅶ 護衛、救助時、身体能力大幅上昇
この二つ 木刀を持ち、ヒューグさんを助けるために動く。
だからこそ途中で出して渡せばいい特級ポーションをわざわざ持って走ったのだ。
発動の条件が分からないのがネックだったから、できる限り成功率を高めたかった。
そのおかげか分からないが、どうやら発動し、賭けは半分成功した。
もう半分は木刀の耐久力。
殴った瞬間砕け散れば、ただ俺が突っ込んで死にに行くだけという結果になる。
これが少しでも耐えてくれるものであったなら、ヒューグさんはきっと逃げ切れる。
俺は多分・・・無理だろうなぁ。
走馬燈のように時間がゆっくり過ぎていく感覚の中で思考を巡らせていると、竜の目の前にたどり着いた。
余計なことはもう考えない。
全てがクリーンになっている。周りの音もなにも聞こえないし、恐怖もなにもない。ただ目の前にあるものだけを斬る―――思考はそれだけ。
一閃
力が漲ってくることを感じながらも、木刀が竜にめり込んでいく。
竜は短くGA!っと叫びそのまま地面に倒れ・・・・振り返り見てみると、絶命していた。
しかし、竜の体は全くもって斬れていなかった・・・・。
斬れてはいなかったのだが、体の真ん中からへし折れていた。
ヒューグさんと俺はお互いに無言で見つめてしまう・・・
え?木刀折れてなくね?なにこれー・・・チート武器かよ・・・
これなんて言えばいいの?最初からやれやって怒られるやつ?
刀術で体が勝手に動いたようなもんだよな・・・力がすごい漲ったのが分かった・・・これがスキルの力なのか?ポリスのスキルがなければ・・・無理だった。
俺は混乱と反省で思考がぐちゃぐちゃになり言い訳など思いつかず、ただ棒立ちしていた。
(あれ?ジン強くね?俺坊主とか言ってバカにして・・・師匠気取りしていろいろ教えてきたのに、あいつ木持つと強くなるの?そんなスキルあったのか?死ぬ覚悟で弟子守ろうとしたのに・・・守られてるんですけど?)
ヒューグさんがこの時こんなことを考えていたなんて、俺は知る由もなかった。
この後2人は何事もなかったかのように動き出し、ジンは竜をトラックにしまったのだが、そんなもの見てませんというようにヒューグは押し黙り、王都へ向けて少しづつ移動をはじめたのだった。
2人は黙々と歩き続け、王都の手前でやっと話せるまでに回復していた。
「ヒュ、ヒューグさん!」
「な、なんだ?ジン・・・くん・・・。」
「くん?いえ、あの、俺のスキルのことなんですけど、あの、誰かを助けよ
うと動こうとしたりすると、身体能力が大幅に上昇するっていうスキルを
持っていまして・・・」
「ん?ああ・・・なるほどなぁ・・・じゃあ、あの時は俺を守ろうと動いて
くれたってことか。あの竜は、魔法が弱点だから、物攻は効きにくいんだよ。」
「なるほど・・・。どうりで弓矢が全く効かなかったわけですね。」
「まあよく倒せたもんだ・・・あれがなければ俺は死んじまってたんだ。ありがとうな!ジン!」
「いえ!俺が足手まといで・・・調子に乗っていたんだと改めて思い知らさ
れましたよ・・・。」
「まぁ、お互いに助かったんだ。次は余裕を持てるようお互いに精進しない
とだな。それはそうと、あの土竜はどこにやったんだ?急に消えたように
感じたんだが・・・」
「あ、あれは・・・前にヒューグさん魔法袋の話してくれたじゃないです
か?それのスキル版を実は持っているんです。黙っていてすみません。」
「それは・・・秘密にしておくべきだ。俺は他言しないから安心しろ。
魔法カバンも世の中にはあるから、今度ばれそうになったのならそう言
え。お前には驚かされてばっかりだぞ!まったく・・・。」
そんなやり取りをしつつ、2人で歩いていると、やっと王都に着いたのだった。




