それはワイバーンではなく
翌日の朝、俺はヒューグさんと共にみんなにあいさつした後、村を出発した。
カナリム王国は、ここから南に真っすぐ向かえばいい。
カナリム王国を中心に、北、西、東、南西、南東に大きな町が一つずつ有り、そこを各公爵家に守らせている。
それぞれ5人の領主は、他に2つ村を治めており、カナリム王国は16の都市、町、村からなる。
そしてこの村は王国から北にあるオリヴァー公爵家の領の2つの村のうちの1つで、北の大きな森、別名迷宮の森の異常がないか監視する村である。
各村は、それぞれに役割を持ち、森やダンジョンの監視等、何かしらの為に存在しているらしい。
俺とヒューグさんはひたすら南を目指して歩いていく。
左手に聳え立つ山が見える為、大体の自分の位置がわかるし、道も一応ついているため、迷うことはない。
ヒューグさん曰く、ここから王都までは徒歩でおよそ6日、その間の道に凶暴な魔物はいないものの、スライムや狼、ゴブリンはちょいちょい出るらしく、それを狙って空からの魔物が通ることがあるらしい。
それは4日目に唐突に来た。
「ジン!右に避けろ!!!」
ヒューグさんは突然、俺に向かって怒鳴った。
ッ―――――――
俺は考える余地もないまま、ただその言葉通りに思いっきり右に飛んだ。
すると、ついさっきまで俺がいた場所に、轟音とともに大きな翼を広げた黄土色の竜が突っ込んできた。
以前話したヒューグさんの言葉を思い出す・・・。
「道中、ワイバーンがたまたま現れたらどうする?一方的に嬲り殺
されて人生終了だ。」
いや・・・これワイバーン?ドラゴンじゃね?
GAAAAAAAAA
と轟を上げて地面を震わせる。
今まで味わったことのない迫力。
竜は俺を睨めつけながらも、尻尾をしならせてヒューグさんへ襲い掛かった。
「ッチィ」
ヒューグさんは舌打ちをし、ギリギリ尻尾を躱しながら長剣を頭上に添えて、通り過ぎる尾の速さ利用して、そのまま竜の尾を切り裂いた。
俺は弓を放つも、鱗が硬すぎるせいで傷一つ付けられない。
「ジン!弓はきかねぇ!!逃げるより近付いたほうが攻撃を貰いにくい!左右からそれぞれ切りつけるぞ!」
「はいっ!!」
俺は短く答えて弓を投げ捨てると、短剣の柄を握り竜の右側へ体を滑らせた。
剣を抜き、手をブランと垂れ下げる。右足を前に、左足を後ろに軽く引き、腰を低くして前傾姿勢になる。無意識に逮捕術の構えになっていた。
少しでもいつも通りにと、震える体を動かせるように集中する。
今まで一方的に油断していた魔物を狩っていただけで、どこかゲーム感覚だった。
強くなった気でいた。弓の扱いがうまくなって、連射もスキルのおかげか出来るようになって、俺でも簡単にできると思っていた。
その竜は、俺のそんな油断した心の隙を完全に衝いてきたようだった。
これは命のやり取り―――やるかやられるかの世界。
顔を引き締める。きっとヒューグさんが合わせてくれる!
竜が一瞬ヒューグさんに視線を移したのを見逃さずに切り込んだ。
それを見てヒューグさんも切り込む。
「ぅらぁあ!!」
俺は渾身の力で竜の左足に剣を突き立てた。
キン――――――――――――
俺の後方に風を切りながらクルクルと何かが回転しながら地面に突き刺さる。
振った剣を見ると剣の先が無くなっていた。
まじか・・・・
ふと右から風を切る音とともに右半身に激痛がはしる。
あっという間に吹き飛ばされ、ゴロゴロと勢いのままに地面を転がる。
うぅ・・・・
意識はある。体は―――かろうじて動く。
ヒューグさんの全力よりはまだ、大丈夫だ。
相手は多分軽く尻尾を振っただけ。
竜に顔を向けると、その前にはヒューグさんが立ちはだかり、俺のもとに竜をいかせまいと庇いながら戦ってくれているようだ。
くそ――――くそくそくそ!
弓はきかねぇ、短剣は折れちまった。俺に攻撃の手段がない・・・
足手まといにならないように・・・それだけを考える。
俺は村長にお願いして作ってもらっていた特級ポーションを取り出して一気に飲み干す。
体が熱くなり傷はふさがっていく。
「ヒューグさん!!!俺に構わなくて大丈夫です!!」
「お!!!生き返ったか!!なら、逃げるぞ!!俺にも無理だ!先に行け!!」
ヒューグさんでも無理なんて・・・どうやって逃げるんだよ・・・




