冒険者の印象
王都に向かう前日、リグム村の人たちは俺とヒューグさんが旅立つというのを聞きつけて、宴会を開催してくれた。
俺が来てからこの村は病気も怪我も無くなり、今までに無いほど活気づいている。
みな俺のおかげだと感謝してくるが、村長ブロデさんの錬金術の功績のほうが大きいと俺は思っている。
村長の名前がブロデというのは実はけっこう後にわかったことで、生命草の件ですっかり聞くのを忘れていた・・・。
ここは、一攫千金を夢見て冒険者になり、志半ばで再起不能な怪我を負ってしまった者達が集う村。
自業自得と思うかもしれないが、冒険者ギルドは本来、国に住む人々を魔物の脅威から守り、それを対価に金を受け取る。
少なからず人々の為に頑張ってきた実績がある。
それが、金の為、名誉の為、そういった自信の欲求、つまり自分の為であったとしても、結果的には助けてきた。救ってきたのだ。
それをもう使えないからと、用済みだと、この辺境の地へ追いやってしまう王国に俺は疑問を抱いてしまった。
王国に住む人たちの冒険者に対する印象はすごく悪いらしい。
見た目もあるかもしれないが、あまり学がない者が多く、礼儀などが欠けているのもあるかもしれない。
だが、例えば、数多くいる冒険者の誰かが犯罪を犯す。
するとそれを知った人々は、「ああ、また冒険者か・・・。」となる。
つまり、罪を全く犯していない、真っ当な冒険者までもが邪険に扱われ、あたかも共犯のように嫌悪される。
その犯罪者が、既にこの世からいなくなってたとしてもだ。
これは、やっぱり・・・この世界でもあるんだなと思ってしまった。
俺は警察官でこれを体験済みだ。
俺は毎日、車の事故処理や取締り・巡回連絡・職質・道案内に拾得物の取扱い・酔っ払いの保護に犯罪者の逮捕・自殺、老衰などの遺体の検死、解剖・・・
これらは地域警察官の日常。
だが、ここにどこかの県の名前も知らない、会ったこともない警察官が犯罪を犯すと、これら業務がすべて停滞する。
俺が文句を言われ、職質も当然拒否。取締りの際は、自分のことを棚に上げて罵声を浴びせてくるし、酔っ払いもお察しの通りだ。
違う県なのに文句の電話が交番にかかってきたりもするんだから驚きだ。
昔は警察も酒を飲みながら交番にいたとか、殴られたことがあるとか、本当に日本には普通の人が警官も含めて、果たしてどれくらいいるのかと不安になったほどに馬鹿しかいない。
俺も普通の人だった。
俺は普通に仕事をしているだけなのに・・・親身になろうと努力してきたはずなのに、高卒で警察官になって必死に法律や仕事を頭に叩き込んで、警察学校を卒業して配属されれば待っているのはそんな世界。
配属されて仕事をこなすまで、俺は俺を基準に普通の人がほとんどだと思っていた。
だが、いざ仕事してみれば関わる奴らが片っ端から頭がおかしい。
当然きちんとしている人もちゃんといる。
事故にあった人、物を拾って届けてくれた人、相談に来た人や巡回連絡先の住人等。
でもそれ以外は、本当に・・・いろんな人がいるんだなと、そう思った。
俺はそこから感情を仕事中に出すことをしなくなっていった。
ただ淡々と、愛想笑いは浮かべても、それは仕事をやりやすくする為。
成人前に抱いていた人の為にとか、住民を助けたいとか、そういったものはなくなっていた。
仕事だからやる。理由は・・・それだけ。
本来それが普通なのかもしれない。志を持ってる人や、それがしたくてやるなんて人は少数なのかもしれない。
でも俺はそれを持っていたかった。偽善者でもなんとでもいえばいい。
そうやって仕事をした先に一人でも感謝してくれた人がいれば、俺も救われたかもしれないが、現実はそんなに甘くなかった。
警察官だった10年間、たった1度も感謝されたことはない。ずっと犯罪者や取締りした人、酔っ払いからは文句と罵声を浴びせられ続けてきた。
他にも数多くの理由があるが、仕事を辞めた理由はこれが大きいかもしれない。やってられなかった。
昔のことを思い出しすぎたが、結局・・・
冒険者も同じ感情を抱いた者が少なからずいるんだと思った。
最初は助けたいと・・・冒険して楽しく、人々の為にと・・・そう思っていた者も少なからずいたのだろう。
でも現実はそうじゃなかったと、それでも怪我を負うほど頑張って・・・。だがそこには何も残らない。
ここは辺境の村、心を病めた者も少なからずいた。
俺はこの人たちに何ができるだろうか。
この村には本当にお世話になった。
俺は何かしてあげたいと心から思うが・・・俺の強さで、スキルで、知恵で、してあげられることが見当たらない。
たまたま手に入れられた生命草で、みなを助けることができたのは本当に良かった。
だが根本的な解決にはならなそうな、そんな影が、みんなの顔にはある。
俺が、俺が・・・冒険者の印象を変えられたら・・・
前世じゃ考えられなかったことだが・・・。
でも、今の俺にはなんの目標もない。ただ、生きるために強くなろうとしているのだから、それをとりあえずの目標に・・・頑張ってみよう。
長々とそんなことを考えてしまったが、楽しい宴でそんなことを思うのも失礼だなと考え、お世話になった村人たちとの夜を楽しく過ごすことにした。




