都子ちゃんは収穫した野菜を晶君に料理してもらいたい
8月の少し過ぎた日の朝、あたしは鉢植えの前で陣取っていた。
目的はそう、野菜の収穫である。
「みやこちゃん、茄子はもういけるね。ズッキーニはもうちょっと大きくなるだろうけど、これで収穫しちゃおう」
「え、どうして? もっと大きくなるのに?」
「大きくなりすぎると、味とか中身がスカスカになっちゃうから」
「なるほど?」
晶の言葉に従って収穫していく。
ううむ、大きければ大きいほど良いと想うんだけど、そうじゃないみたい。
ちなみに今日の晶は女の子だ。
涼しげな色のカットソーとミニスカートはもちろんおばさんの趣味。
むき出しの肩やふとももが目にも眩しい。
小首を傾げながら、どうしたの? 収穫しないの? と目で私に訴えてくる。うん、今日もぷりちー。
可愛いだろう? あたしの彼氏なんだぜ?
「……う~ん」
「どうしたの、あきら?」
「いくら同時期に植えたからといって、こんなにたくさん同時に収穫できるものなのかなって」
「そうなの?」
目の前には茄子とズッキーニと枝豆の鉢植え。
どれも大きく育って収穫しごろだ。
こんなものじゃないの?
初めて育てるのでよくわからないけど。
晶はどこか納得いかないような顔をしている。
そういえば育乳の為に育ててたんだっけ。
……
くっ! そう上手くはいかないか……
『お、うまい具合に育っておるな。我が祝福した甲斐があったというもの』
「ウカちゃん!」
「ウカ様!」
野菜を収穫しているところにひょっこり顔を出したのはジャージ姿のウカちゃんだった。
手には焼きそばのカップめんを大量に抱えている。
うん、気に入ったのね、それ……
『それらの野菜も良いがな、キャベツや小松菜にネギ、人参やもやしといったモノもいいぞ。お勧めだ!』
「それって……」
どう考えても焼きそばの具材である。
余程気に入っている様子だ。
1つのモノに拘るのもいい。
だが、世の中には美味しいものはいくらでもあるのだ。
あたしとしては、様々な食を啓蒙しなければならない。
「ウカちゃん、ちょっといいかな?」
『うむ?』
◇ ◇ ◇ ◇
それから時間が経って丁度お昼頃。
台所ではコトコトとお鍋が音を立てていた。
辺りには妙にお腹を刺激する香りが漂っている。
きゅぅ、と誰かのお腹の音が響く。
『お、おい! この香りを嗅ぐだけ嗅がせて拷問をしたいのか?!』
「くっ、あたしだって限界だよ……ッ! あきら、まだー?」
「もういけると思うよ」
どこか呆れたようにあたし達を見る晶。
う、確かにお腹の音を聞かせてしまうというのは、乙女としてあるまじき行為だ。
だけど!
この香りは仕方が無い……仕方が無いのだ!
日本人なら無条件でお腹を空かせてしまう香り、それが――
「はい、ご飯もおかわりあるから」
『「おおっ!」』
カレーライスである。
晶が目の前に置いてくれたのは、茄子とズッキーニの夏野菜ごろごろカレー。
お肉は主役の野菜を引き立たせる為、牛と豚の合挽き肉。
待ちきれないとばかりに、スプーンで口へと運ぶ。
『「っ!」』
口に広がるのは夏の日差しを存分に浴びた野菜の存在感。
暑さに負けんな! オレ達を食え! そして夏を乗り切れ!
そんな活き活きとした野菜の主張を崩すことなく包み込むルー。
そしてご飯と一体になり口の中で溶けていく。溶けていくのだ。カレーは飲み物とはよく言ったものだ。
つまるところ、晶のカレーさいこー!
繰り出すスプーンも止まらない!
『はっ?!』
「? どうしたの、ウカちゃん?」
『もう無くなってしまった!』
ふと隣を見ると、口の周りにご飯粒とカレーをつけたウカちゃんが戦慄いていた。
それほど夢中に食べてしまったのだろう。気持ちはわかる。
『この香りは一体……?! 焼きそばのソースや塩とも違った、食欲を刺激する香りは……ッ!?』
興奮のあまり身体から黄金のオーラを発しだすウカちゃん。
晶は慌てて台所の野菜を隔離しに行く。
うんうん、カレーの香りって妙に食欲を刺激するよね。
暑くて食欲があまり無い時でもなんだかんだでぺろりと食べちゃう。
「焼きそばもいいけど、カレーもいいでしょ?」
『ああ……斯様なものがあったとは』
「しかもカレーは家庭ごとに味が違います。たとえ同じ材料を使ったとしても、作る人が違えば微妙に違うお袋の味」
『なっ……! ということはまさか……ッ!』
「そう、日本には何千万という味のカレーがあるのよ!!」
『な、何千万だと?! 馬鹿な! 八百万の遥か上……ッ?!』
ショックのあまり床に手を付くウカちゃん。
全国のお母さんに代わって得意顔になるあたし。
そして、呆れた目で見る晶。
「カレーの可能性と幅の広さはそれだけじゃないわ」
『なに……?』
「あきら、フライパンの準備を」
『フライパン……まさか?!』
フライパンに油が引かれ、麺が踊る。
そしてソースの代わりにカレーがかけられていく。
そう、カレーに合うのはお米だけじゃない。うどんにも合うしパスタにも合う。
もちろん――
『か、カレー焼きそばだと?!』
「カレーは万能なのよ!」
あまりのショックで、口が開いたまま動かなくなってしまった。
せっかく作ってもらったカレー焼きそばが冷めてはいけないとばかりにお箸を握らせると再起動。そのまま口に運びだした。
ついでなのであたしもカレー焼きそばを食べる。
晶が、お昼によくそんだけ入るねという顔を向けてくるが、おいしいから仕方が無い。おいしいは正義なのだ。
皿の上が空になるまで無言が続いた。
後日、カップ焼きそば以外にレトルトカレーを買い込むウカちゃんの姿を見るようになるのは、また別のお話。











