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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
最終章 神の家編
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十三階層 死神の呪縛

 八階層で一時間弱の休息を取った後、俺は次の階層に進み、快進撃を続けた。


 九階層から先は、虫系や爬虫類系など非人型のモンスターが多く配置されていた。こういった非人型のモンスターは、人型ではないがゆえに情報が少なく大抵苦戦するのだが、どれも俺の敵ではないどころかすぐに終わってしまう。


 と言うのも、俺は元ダンジョンマスターだったので、ほとんどのモンスターの攻撃手段や弱点を熟知している。また、どういうユニークモンスターがいるのかも知っているのも大きい。


 つまり、初めてのダンジョン攻略ではあるが、元は自分のダンジョンなので、初見プレイではないのだ。


 もちろん、黒川が俺の知らないモンスターをガチャから引いている可能性もあるにはあるが、俺がいた頃より一階層分しか階が増えていなかったので、新規のモンスターを大量に配置している可能性は非常に低いと見ていいだろう。


 そもそも、俺が最後にダンジョンを出たには、残りのポイントは僅かしか残っていなかったはずだ。ポイントを増やすには、ダンジョン内で侵入者を倒さなければならない。この一か月の間に、侵入者がいたかどうか分からないが、もしいなければ、大幅な戦力増加はできていないと予測していた。


 なので、多少は配置やフィールドが変わっているが、俺がいた時と比べてもそこまで戦力的に変わっているとは思えないのだ。


 そして、その予測が当たり、十三階層までは快進撃が続いた。だが、十三階層で快進撃は止まった。何故なら十三階層の敵は俺が心配していた奴だったからだ。






 十三階層のフィールドは森林(昼)で、敵は三十体ほどのオーガ、二体のオーガロード、そしてオーガ系の最高峰である一体のユニークモンスターだ。


 セレンで冒険者をやっていた時に知ったが、オーガという種族自体が強靭な肉体を持つ戦闘種族であるため、下位である一体のオーガを倒すのにすら、普通なら四人以上のBランク冒険者のパーティーが必要らしい。


 そして、その上位種であるオーガロードを相手にするにはAランク冒険者クラスでないと戦いにすらならないそうだ。現に以前アドラメレクが率いていた四体のオーガロードを倒すのにかなりの苦労をしたし、倒した時のポイントもかなり高かった。


 だが、そのオーガロードですら、その上位種にして、オーガ系の最高位種である鬼族から見れば、子供も同然だ。


 そう、ダンジョン唯一の鬼族、サクラの前には。


「やはりここにいたのか、サクラ……」


 十三階層に侵入して襲い掛かってきたオーガ達を返り討ちにして、全てのオーガとオーガロードを倒した俺の前に現れたのは、ベリアル戦後に行方不明になったサクラだった。リリア王女にサクラ達が突如姿を消したと聞かされた時、もしやダンジョンに強制的に帰還されたと予測したが、どうやら当たっていたようである。


 俺は手を広げてサクラに再会の喜びを表すが、それに対してサクラはとても悲しそうな顔をする。


「どうしたサクラ……」


 今までの敵は、どいつも俺の事をこれっぽちも心配してくれていない奴らばっかりだったが、二か月ほど共に冒険者をやっていたのだ。まさか俺の事を嫌っているのはずはないと思ったが、サクラの顔を見ていると自信がなくなってくる。だが、サクラが悲しんでいた理由は別にあった。


「久しぶりです。元マスター……」


 サクラも他の者達と同じように、俺の事を元マスターと言う。事実ではあるが、特に信頼していた奴に言われるとかなりショックである。


「元マスター……ごめんなさい。私はあなたを倒さなくてはいけません」


 そう言うと、サクラ鞘から刀を抜き構えた。震えながらに刀を構えるサクラの姿を見て、俺は明らかに迷っているように感じられた。


「戦うしかないのか?」


 俺はサクラに問う。それに対してサクラは小さく頷く。


「……ごめんなさい。私だって本当は戦いたくはありません! でも、無理なんです。頭の中にマスターの命令が、侵入者を全力で排除しろという命令が響くのです。今は辛うじて体の制御ができていますが、もう持ちません。このままでは体が勝手に動いて元マスターを傷つけてしまう……」


 涙ながらに言うサクラを見て、俺は複雑な気持ちになった。これまでの敵、主にヴァンパイア達は、俺に対してそこまで思いやりはなかったため、ダンジョンマスターでなくなった俺に容赦なく攻撃してきた。そのおかげで、こちらも遠慮なく戦えたのだが、一緒にいた時間が長かったため、サクラは本心から戦いたくないようだ。


 俺と戦いたくないというサクラの気持ちは嬉しい。しかし、それがサクラを苦しめるのなら、解放してあげるべきだ。


 色々考えたが、サクラを楽にさせるために、この場において俺ができる事は一つしか思いつかなかった。


「サクラ、お前の気持ちは分かった。もう十分だ、ありがとう。お前の苦しみを俺が受け止めてやる。だから全力で掛かってこい!」

「……マスター」


 俺の気持ちが伝わったのか、サクラは、目から流れていた涙を拭きとり、改めて刀を構える。


「元マスター、一度戦い始めたら、恐らくもう自分では止められません。だから、遠慮なく私を倒してください。そして、私を倒し先へ進み、マスターを倒して、私達の元へ戻ってきてください」

「ああ、分かった……」


 俺も短く頷き、剣を構える。そして戦いが始まった。







 剣と刀が激しくぶつかり合う。しかし、刀のほうが明らかに押していた。


 鬼族固有の強靭な肉体は数多の敵を倒し、力を奪ってきた俺の身体能力にも十分対抗できるものであり、さらにサクラには、冒険者として戦ってきたという経験もある。単純な剣技ならサクラの方が数段上であった。 


 接近戦なら、サクラの方が上。それゆえに俺が取れる戦術は遠距離戦しかない。しかし、サクラ相手に遠距離戦持ち込ませるのは不可能であった。


「ハイドロ・ウェーブ!!」


 距離を開けるために、水魔法を発動させる。まるで津波のような水の激流がサクラごと森を飲み込むが、この魔法ではサクラを捉えられない。何故なら、


「ちっ! またか!」


 サクラは、アルカナ能力〈死神〉を発動させ、一瞬で俺の背後に迫れるからだ。それに対してこちらは全方位感知魔法センスと〈拒絶〉で対抗する。こちらがやられる心配はないが、攻め手に欠けた。


 このように、距離を取って遠距離からの魔法戦に持ち込もうとしても、サクラは〈死神〉を使って、一瞬にして距離を詰められるのだ。〈死神〉と剣士、戦うまで気付かなかったが、この二つの相性は極めて良かったみたいである。


「クッ!」


 とは言え、これ以上の長期戦はこの先も戦い続ける俺にとって良くないし、サクラも戦いたくない相手とこれ以上戦うのは辛いだろう。


 もう、そろそろ終わりにしてあげよう。そう決めた俺は、魔力の消費が激しい時間停止を使用することを決意する。


 そして、サクラが〈死神〉で背後に回った瞬間に俺にアルカナ能力〈世界〉の持つ時間停止を発動させた。


 時が止まる。振り向くと背後には、空中で刀を振り下ろさんとしているサクラがいた。


 最初は辛そうであったが、戦闘狂の血が騒いだのか今のサクラの顔を見るとその表情は若干喜びに満ちていた。


「じゃあな、サクラ」


 俺は停止した時間の中でしばしの別れを告げると、サクラの胸に剣を当てて能力を解除した。能力の解除と共に鮮血が辺り一面に飛び散る。


 サクラは何が起きたのか分からなかったようだが、負けたのにも関わらずその顔はとても晴れやかなものであった。


「マ、マスター」


 急所を貫かれ死ぬ一歩手前のサクラが発したのは、マスターという言葉だった。その言葉の対象が黒川に対してのものか、俺に対してのものなのかはもはやどちらでも良かった。


 俺はサクラの体から剣を抜き、その華奢な体を抱きしめる。


「か、勝って、くださ、い」


 その言葉は間違いなく俺に向けたものであったが、その言葉を聞いてさらに強く抱きしめようとした矢先にサクラの体は、他のモンスターと同じく光となって消え、代わりに扉が現れる。


 一人残された俺は、立ちあがり扉の前に立った。


 サクラ達は一時間後にはまた復活するが、次に彼女に会うためには、黒川達に勝たなければならない。そう思った俺はより勝利への執念の炎を燃やし、次の階へと進んだ。

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