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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
最終章 神の家編
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十九階層 輝く太陽

 十三階層でサクラと戦い、改めて勝利することを決意した俺はさらに塔を駆け上がる。


 十四階層以降で待ち構えていたのは、スライムのような特殊なモンスター、スケルトンやリッチーを初めとするアンデッド系のモンスター、ワイバーンやリザードマンなどのドラゴン系モンスター達だった。


 特に苦戦したのは、ドラゴン系のモンスター達のボスである竜人ガイアールだ。元々ダンジョン防衛の責任者に任じていた彼は、十八階層のフロアボスとして立ち塞がった。


「元マスター、お久しぶりです。と言いたいですが、今のあなたは我々の敵です。お覚悟を」


 ガイアールは与えられた任務を忠実にこなす、とても真面目な性格な奴であるため、俺の事をヴァンパイア達よりは心配してくれていたが、サクラのように悩まずに割り切って俺に襲い掛かる。


 幻獣魔法〈竜〉を駆使し、巨大なドラゴンに姿を変えたガイアールの力は強大であり、上級魔法ですら跳ね返す鱗に大苦戦したが、竜の弱点で逆鱗のある同じ場所に何度も魔法を撃ち続けてようやく倒した。


「お見事です。元マスター……」

「いいや、お前が以前逆鱗の場所を教えてくれてなかったら、こんなに楽には勝てなかったよ」


 俺がダンジョンマスターであった時に、ガイアールは自身の弱点である逆鱗の場所を教えてくれていた。そのおかげで、少ない魔力消費で勝てたのである。もし、逆鱗の存在を知らなかったら、最悪メギドを使っていた可能性もあった。そうなれば、俺の魔力量は三割を切っていただろう。


「元マスター、今後の健闘を祈ります」


 そう言い残し、ガイアールの体は消え、扉へと姿を変える。俺はその場で一時間弱の休憩を取り、先へ進んだ。





 そして、十九階層にたどり着く。


 この階層のフィールドは、ダンジョン建設時に最上階に設定していた麦畑だ。その後の改変で十階層から十九階層に俺の手で移動させていたのだが、その部分は現マスターである黒川は弄らなかったみたいである。


 ただし、配置されていたモンスターが異なっている。以前は農夫として沢山のホムンクルス達が働いていたこの階層には今一体のモンスターしか存在していなかった。


「ここにいたのか、クーアン……」


 十九階層で一人待っていたのは、妖狐のクーアン、サクラと同じパーティーメンバーの一人である。


「元マスター! 久しぶり!!」


 無邪気に笑いながら、挨拶をするクーアンを見て俺は少しだけ懐かしさを覚える。


「でも元マスターは今は侵入者なんだよね? ってことは敵なんだよね」


 首をかしげながら、自問自答するクーアン。小動物的な可愛さを抱かせる仕草を見て、俺も口元が緩んでしまう。


「ふふ、相変わらずだな」


 本当は相変わらず可愛いなと言うべき所だが、恥ずかしいので途中で区切ってしまった。だが、同時にはっきりと分かった。確かにクーアンの事は好きではあるが、それは恋愛感情のようなものはものではない。どちらかと言うとかわいいペットもような感じだ。


 そのため、薄々感じていた自分はロリコンではないのかという疑問が晴れ、身軽になった俺はついずっと気になっていたことを尋ねてしまった。


「こんな時になんだが、以前お前の書いたと思う日記を読んだんだが、あれに書いてあった普段は幼い少女を演技しているというのは事実か?」


 その瞬間、暖かな春のような雰囲気が氷河期にように冷くなり、同時に天真爛漫だったクーアンの顔が一気に冷めた顔になった。心の奥底で、日記を読まれて慌ててふためくクーアンを期待したが全く違う。怒りで我を失いかけているような目をしている。


「……やはり、あれを読んでいたのか。女の秘密が書かれた日記を!」


 無邪気さが残る幼い声も冷酷な大人の女性のような口調になり、俺は地雷を踏んだと瞬時に悟った。


「えっと、読んだというか……」


 どうやら俺は生まれて初めて本気で女を怒らしてしまったようだ。


「いや、もうよい、元マスター、秘密を知ったからには生かしてはおけない。とっと死ね!」


 取りつく島もなく、怒り心頭な様子でクーアンはいきなり襲い掛かってきた。






「ちっ、とっと燃え尽きればいいものを!」


 アルカナ能力〈太陽〉と幻獣魔法〈妖狐〉を使いクーアンは文字通り、怒りの炎を体に纏わせ、激しい肉弾戦をしてきた。


 クーアンの操る炎は強力ではあるが、俺の〈拒絶〉を破ることはできていない。防戦一方ではあるが、当分はこれでいいだろう。というのも荒ぶるクーアンが怖くて攻撃できないからだ。


「ちっ! 何だこの異様な防御力は?」


 ああ、昔は可愛い幼女だったのに、今は〈拒絶〉に対して悪態と舌打ちをつく、ただただ怖い女である。


「死ね! 紅蓮百裂拳!!」


 両手を激しい炎で覆い、俺の体に高速連打するクーアン。〈拒絶〉によってダメージは受けないが、鬼気迫る連打に気合で負け一歩引いてしまう。


 連打が終わり、俺に対してダメージを与えられないと判断したのか、クーアンは後方に下がって距離を取る。


「もう分かった。普通に戦っても勝てない」


 どうやら、俺の〈拒絶〉を破れないと悟ったのかクーアンは怒りを抑えながら言う。


「元マスター、知っての通り、私は嘘つきだ。自分のためなら幼女の面だって被る。そんな私をあなたは信じてくれるか?」


 戦闘中に、突然言い出したことに俺は理解できなかった。幼女の面を被るも何も、お前見た目は幼女じゃないか。年相応の行動をしてもおかしくはないはずだ。


「クーアン、信じるもの何も、お前は俺の能力から生まれた存在、いわば子みたなものだ。だからお前の事を信じるよ」


 そもそも、日記に匂わせていた黒クーアンは、そう言うキャラ設定だと今まで思っていたので、嘘つき少女などと考えてもいなかった。


「……そうですか」


 今の俺の発言を聞き、少しばかり嬉しそうな顔をしたクーアンは、何かを決意したようだ。


「元マスター、私の事を信じているのなら、今からあなたにぶつける炎から逃げないでください!」


 そう言うと、クーアンは右手に黄金に輝く炎を玉を出し手を掲げる。この階層のフィールドが黄金色の小麦に覆われているため、クーアンの掌の炎を一層美しいものへとさせた。


 その光景は、まるで金色の野原に輝く太陽である。


 フィールドの麦畑と合わさって、非常に美しいが、どう考えても威力がヤバそうな攻撃だ。これを無防備で受け止めるのは、普通に考えて馬鹿だ。しかし、クーアンが信じてと言う以上信じるしかない。それに心のどこかに助けにきた仲間に裏切られるのなら、所詮自分はその程度だったという気持ちもあった。


「分かった。お前の全力の炎を受け止めよう!」


 俺は両手を広げて、金色の太陽を迎えることにした。


「信じてくれてありがとう」


 クーアンの感謝の言葉が耳に届いた直後に、俺は光り輝く太陽に呑まれた。









「う、これは!?」


 気が付くと、激しい炎に晒され燃え尽きているはずの俺の体が暖かな光に包まれているのを感じた。


「これは、炎ではない?!」


 どうやら、この黄金の炎は熱を帯びていないみたいで、俺の体を焼くどころか、魔力を回復させているようだ。


「クーアン、これは一体?」


 俺は疲れた感じで目の前に立っているクーアンに尋ねる。


「ハァハァハァ……マスター、あなたは私に預けたアルカナ能力〈太陽〉の能力を詳しく知らないでしょう?」


 クーアンの言うように、めんどうだからとクーアンに丸投げしていたため、俺はアルカナ能力〈太陽〉については炎を出すくらいしか知らない。


「この〈太陽〉は能力者の魔力を糧にして五色の炎を出せます。赤は普通の炎、青は物体を焼く炎、紫は魔力のみを焼く炎、緑は肉体を回復させる炎、そして、金は相手の魔力を回復させる炎です」


 今まで、クーアンは赤と青の二色の炎のみで戦っていた。にも関わらず今回は、魔力を回復させる金色の炎を繰り出した。これは一体、どういう事だ?


「ふふふ、どうやら、上手く行ったようですね。侵入者を倒せと命じられていますが、その前に侵入者を回復させてはいけないとは命じられていませんからね。私の全魔力をあなたに注ぎ込みました。おかげで、立っているのもやっとです」


 魔力を一度に大量に失うと死に至る。人も魔物を本来はそうならないように無意識にブレーキを掛けるのだが、クーアンは自分の意思でブレーキを掛けなかったのだろう。


「クーアン、お前……」

「ハァハァハァ……勝手に日記を見たことを怒っていますが、それは、あなたが私のマスターに戻ってからにしましょう。ハァハァ……それと私が猫かぶっているのは他言無用で、特にサクラには」


 クーアンはそう言い残すと、最後にいつもの表裏がなさそうな天真爛漫な笑顔を見せ、地面に倒れ込み、光の粒子になって消えた。


「クーアン……」


 クーアンは最初から、俺に魔力を渡す気で戦っていたみたいだ。もしかしたら、そのために、わざと怒ってみせて、俺ができるだけ攻撃しないように誘ったのかもしれない。


 現に怒れるクーアンにビビりろくに攻撃できなかった俺はこの戦いで、ほとんど魔力を消費していない。それどころか、彼女から貰った魔力でほぼ全回復さえしている。


 話を聞くに、本当は嘘が嫌いそうなクーアンだが、その嫌いである嘘をついてまで俺の手助けがしたかったのだろう。そのために、サクラのように黒川の命令に逆らって自分を見失わないように多少の戦闘まで演じきった。


「クーアンありがとう」


 もはや、その一言しか出ない。 


 夕暮れと風に揺られて稲穂が輝く、黄金の草原で俺は一人ただひたすらにクーアンの献身に感謝するのであった。

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