八階層 全てを破壊する力
タイトルを変更しました。
三階層でエリザベスを倒し、四階層に進んだ俺を待っていたのは、草原(昼)とオークの大群であった。
そのオークの群れも一、二階層のゴブリンやコボルト達と同様に苦も無く倒すと、俺は先へと進んだ。
次の五階層にいたのは、かつてバズさん達、山賊達のほとんど殺した怪物、ビッグ・タートルだ。大抵の攻撃を防ぐ強固な甲羅に、フィールド・池という地形的有利を生かし、半永久的に水ブレスを放つモンスターではあるビッグ・タートル。
山賊達は池の中央から固定砲台のように水ブレスを撃ち続けるビッグ・タートルの前になすすべがなかったが、俺の敵ではない。
俺は、アルカナ能力〈世界〉の持つ地形変化を使い、池を荒野に変え、ビッグ・タートルを無理やり陸に上げさせると同時に、俺が使える最大級の雷魔法ライトニング・ドラゴンで甲羅ごとビッグ・タートルを消し炭にする。この階層唯一のモンスターにしてフロアボスであるビッグ・タートルを倒すと、次の階層への扉が現れる。
扉の先は第六階層だが、ここから本格的に黒川の手によって改造されていた。俺がマスターだった時は沼地だった第六階層のフィールドは砂漠(夜)となっており、ヴァンパイア・バットなどの下級ヴァンパイア系のモンスターが配置されていた。
次の七階層も、荒野(夜)同じくレッサー・ヴァンパイアを中心というヴァンパイア系のモンスターのみが配置されており、苦戦はしなかったが、次の階層には恐らくあいつがいると予感させるのに十分であった。
そして、現在第八階層、フィールドは古城。広大なフィールドの大部分はひっそりとした森に囲まれて、中心部にいかにもな怪しそうな古城が建つフィールドだ。またフィールド全体が霧に覆われているため、昼間だというのに不気味な気分にさせてくれる。
そして、このフィールドこそ、俺がかつて領地が欲しいと言っていたヴァンパイア・ロード、ブラドのために与えた階層だ。
林道をしばらく歩くと、朽ち果てた城壁と錆びれた城門が目の前に現れる。そして、城門の前に俺が来るのを待っていたかのように、ヴァンパイア・ホースに騎乗する三十騎ほどのヴァンパイア達と共に城の主であるブラドが出迎えていた。
「久しぶりだな、ブラド!」
エリザベスが言っていたように、今の俺は元マスターなのだろうか、ブラドは馬に騎乗したままこちらを見下ろしながら挨拶をする。
「久しぶりだ。元マスター! 否侵入者よ! 悪いが、貴様をここで成敗する!!」
ブラドは得物である槍を俺の方に向ける。ブラドの配下である三十騎ばかりのヴァンパイアの騎士達も同様に鞘から剣を抜いた。
「そうか、お前もか」
エリザベスと同様に、ブラドも元マスターである俺に対して特にこれといった感情は持ち合わせていないようだが、その方が気が楽でいい。下手に俺を崇めていたら戦いづらくなるかもしれないからだ。
「では、行くぞ!」
俺も剣を鞘から抜いて構え、対ヴァンパイア戦が始まった。
意外な事に戦いは拮抗した。三十対一なので、拮抗したという言い方はおかしいが、戦闘が始まって十分近く経過したが、俺は未だにヴァンパイアを一騎を倒せてもいなかった。
「ちっ、ちょこまかと!」
何故一騎も倒せていないのか、理由は三つ、一つはヴァンパイア達が騎乗するヴァンパイア・ホースの機動力が想像以上だったのと、後方から変幻自在に的確に指揮を出すブラド、そして最後に今まで俺が対して気にも留めていなかった三体のヴァンパイア貴族の存在だ。
特に想定外だったのは、三体のヴァンパイア貴族達だ。剣を扱うヴァンパイア・ナイト、魔法が得意なヴァンパイア・メイジ、大きな盾を持ち防御力が高いヴァンパイア・ガーディアン、金卵モンスターでもあるこの三体はブラド直轄の部下として完全に放置していたので、実はどの程度の実力があるのか俺は知らなかった。
だが、その実力は俺の想定以上だった。ヴァンパイア・ナイトの剣捌きは俺と同レベル。ヴァンパイア・メイジの魔法は実に多彩かつ強力。そして、上級魔法すら防ぐヴァンパイア・ガーディアンの防御力を俺はとっぱできていない。
一芸に特化しているとは言え、この三体の長所は俺に肉薄していると認めざる負えないだろう。そしてヴァンパイア・ホースに騎乗することで、俺を上回る機動力を手にし、ブラドという優秀な指揮官に率いられている。はっきり言ってかなり厄介だった。
こちらにはクリフォト能力〈拒絶〉があるので、ダメージは負わないが、攻撃が当たらないというのは俺を苛立てさせるのに十分である。
「食らえ、ホーリーカノン!!」
「防御だ! ガーディアン!」
「了解!」
俺は戦闘の合間を縫って、遠距離魔法を後方で指揮するブラドに向けて放つが、ヴァンパイア・ガーディアンに防がれてしまう。
「ちっ、厄介だな」
このように、何度か後方で指揮する敵の頭であるブラドを狙おうとしたが、鉄壁の守備を持つヴァンパイア・ガーディアンに阻まれている。そして、俺が攻撃している隙を突いて他のヴァンパイア達が襲ってくるのだ。俺の〈拒絶〉は認識していないと無効化できない。そのため、常に全方向に意識を集中する必要がある。要するに長時間使用していると精神的に疲れるのだ。
全方向に意識を向けつつ、ぴょんぴょん飛び跳ねる多数の敵を倒す。そんな疲れることを俺はずっと繰り返していた。
「仕方ないか……」
総魔力量も七割を切ろうとしている。これ以上この階で魔力の消費をするのは得策ではないと判断し、俺は切り札を使うことを決め、敵に背を向けて古城とは反対の方向へ走りだした。
「!?……どこへ逃げる気だ! 逃げ場などないぞ!」
ブラドの言うように、フロアボス(恐らくブラド)を倒さない限りこの階層から脱出できない。だが、俺は逃げるために、走っているのではない。少しの間の時間が欲しかったのだ。この魔法を放つための準備時間が。
「追え、奴を休ませるな!!」
俺が大規模魔法を使うとは予測していないだろうが、勝機を見たのか、ブラドは騎士達に追撃を命じる。初速こそ遅れたが、ヴァンパイア・ホースの機動力は高い。後十数秒で追いつかれるだろう。だが、その数十秒で十分であった。
俺は逃げるのを止め、追ってくる騎士達の方を向き、一気に集中して魔力を高める。そして、準備が整った俺は、最大規模の魔法を放った。
「メギド!!」
それは、ルキフグスを倒した時に入手した最強の光魔法。魔法の発動と同時に激しい光と熱量が解放され、中規模都市並みの広さを持つ八階層の全てを破壊しつくした。
「……まさか、これほどの威力とは」
凄まじい熱が何もかも焼き尽くした。しばらくして、視界が晴れたが、そこには何もなかった。森も城もヴァンパイアも全てが消え去え、焼けただれた大地に俺一人だけがぽつんと立っている。
俺がこうして無事なのは、〈拒絶〉のおかげだ。というか、これがなければ俺もお陀仏だったのは間違いない。認識さえしていれば、物理法則を無視して問答無用で肉体へのダメージを無効化する。この惨状を見て、俺は〈拒絶〉という能力がいかに規格外の能力であることを改めて認識した。
この大破壊を起こしたメギドだが、ルキフグスから奪った魔法の中で一番威力が高いということだけは分かっていたのだが、想像以上の威力の魔法だった。恐らくアルミの街を破壊させたあのキノコ雲の正体はこの魔法なのだろう。
隔絶された空間だったので、それほど被害はでてないが、外部で使った場合、確実に自然環境を破壊するだろう。外部で使う場合は安易に使って行けないとすぐに判断できた。
とは言え、多用できる魔法ではない。何故なら一発で魔力量の二割近く以上を消費したからだ。上級魔法ですら、この二十分の一くらいしか魔力を消費しないので、いかにこの魔法が燃費が悪いか分かるだろう。その分威力も凄まじいが。
さて、よく見ると、前方に扉があった。メギド一発で、大した会話もせず、一度も剣を交えることもなく手こずっていたブラドとヴァンパイア達を倒してしまったようだ。
このまま、次の階層に進んでもよいが、多少は疲労も感じている上、魔力も半分近く失っている。なので折角、敵がいない状況になったので、俺はここで一度休憩をすることにした。休憩といっても一時間経てば、扉は消え、倒されたモンスター達と破壊されたフィールドが復活するので、そうのんびりとはできない。
だが、それでも、一息つけることには代わりないので、俺はブラドが復活するまでの一時間弱をこの破壊されつくされた八階層で過ごした。




