エピローグ 勇者全滅!?
私の名前は朝倉楓、不本意ではあるが勇者の一人だ。
日本での私は文武両道の完璧美人で家柄もよくいわゆる生まれながらの恵まれた環境いや人生の勝ち組であったと自分でも思う。だが、私は生まれ持ったアドバンテージに満足しない。自分の人生に対してきちんとした将来設計を立て、それが成させるように日々努力して生きてきた。
模試の判定から日本最高峰の大学への合格は確実である。なので、大学では勉学以上にコネクション作りに邁進して卒業、一流企業に就職し、自分と釣り合う男性を見つけ結婚し、出産、子育てを経て職場に復帰し、更なる高みを目指す。
親からも絶賛されたこの将来設計を確実に実行する。ただそのためだけに生きてきた。だが、運命は残酷だった。何故なら大学試験間際という人生の重大局面でこの異世界に転移させられたからだ。
転移直後は人生の全てを失ったと思い、嘆き悲しんだものだ。しかし、幸いにも魔王を倒せば日本に帰れるというゴールがあった。そう、まだ私の人生は終わっていない。
ならば速攻で魔王を倒し日本に帰還しよう。そう考えた私は自分と同じく日本への帰還を考える仲間達と共に魔王討伐の旅を始めた。
旅の途中で、私はこの世界の光と闇を知る。光が手つかずの自然で、闇がこの世界に住む人間の民度だ。
この世界には、地球で言う世界自然遺産級の光景がゴロゴロ転がっていた。その点は素晴らしいと思うだが、代わりに住む人間の質が余りにも酷すぎる。
人がいるところで私はほぼ毎日、強盗、殺人、強姦、強迫の現場を目撃してきた。その光景を見て私はこの世界の人間達とは価値観も共有できないし、分かり合うこともできないと確信した。
こんな世界早くおさらばしよう。
私が輝けるのは、情報技術が発達し、国民全てが最低限の道徳を持ち、法が社会を治める日本もしくは地球という世界だけだ。
そして、この世界に対する嫌悪感と元の世界への憧れが、私達を強くさせると同時に驕りを高ぶらせた。そのせいで、どうせなら早いうちに最強を潰しておこうと身の程知らずに思い上がってしまった。
その結果が、今のこの惨状だ。
未開領域
「ハァハァハァ……」
「我を相手によく一か月戦い抜いた。褒めてやろう、人間」
全ての力を出し尽くし地面に横たわる私を見下ろす赤毛の少女の名は第一魔王サタン、最強にして最高の魔王だ。
魔王サタンは強すぎた。戦ってみて分かった。サタンは、私達が倒した魔王バールよりも遥かに高みにいることを。
「……それにしても、折角の自然が台無しだ」
彼女が言うように、美しい山々が連なる霊峰は、激しい戦いで言葉通り地獄と化していた。隕石が山を砕き、魔法により大気が悲鳴を上げ、剣の一振りが大地を切り裂く。
美しい自然を壊すのは気が少し引けたが、勝利のためには止む負えなかった。しかし、それでも、
「隕石を何度も落とすわ、最上級魔法を連発するわ、もう少し自然を大事にしたらどうだ!」
軽い感じで叱るサタンだが、彼女には、これらの天変地異にも等しい攻撃をもってしても大したダメージは与えられなかった。そして、
「貴様が最後の一人だ。〈審判〉の勇者よ!!」
私を除き、小町、竜崎、東條の三人の仲間達はすでにサタンに殺されている。つまり、私が最後の一人というわけだ。
「…うっうううううっ!」
私は心の底から泣いた。完璧なはずだった人生のレールから突然外されたばかりか、自分が蛮族の住む未開の地で死んでしまう自分自身の弱さと運のなさに。
「何度でも蘇ることができる貴様の〈審判〉にとって、能力を無効化する私の〈無神論〉は最大の天敵だろう」
もうサタンの声は一切耳に入らなかった。それに、仮に復活したところで彼女に勝てるとは到底思えない。。
「……何だ?もう気持ちの面で負けているのか? では、最後に我の実験に付き合ってもらうか……」
サタンが最後に妙な事を言った気がするが、気に留める力も沸かない。そして、サタンの持つ剣の刃が私の心臓を貫いた。
カナン大森林
第二魔王ベルゼブブを倒すため、大天使ウリエルとラファエルを引き連れ意気揚々とカナン大森林に乗りこんだ吉村アリサ率いる七人の勇者達、
戦いは熾烈を極めた、まさに死闘と呼べるものであった。しかし、
力及ばず、吉村達は敗北した。
「ごめんね津田君……」
遠い地で、ルキフグスと戦っているはずの仲間に一言謝罪すると吉村アリサは、全ての力を出し尽くし崩れ落ちた。
『あっらあ~、もうお終い? これから折角面白くなるというのに、残念だわ~!』
クリフォト能力〈愚鈍〉の真の能力を使い、巨大な蠅と姿を変えたベルゼブブの前に、大天使を含め勇者達はなすすべもなく敗れ去り、最後まで足掻いてい吉村もたった今、倒れた。
ベルゼブブは地面に転がる勇者達を一瞥すると、状況を整理する。
『ふむ、ふむ、どうやらルキフグスちゃんは敗れたか……そしてルシファーが帰還か、あちしとルキフグスが、ルシファーを嵌めようとしたことは、一緒にいると思われるアスタロトちゃんによって筒抜けよね~!困ったものだわ!』
千年前、ルシファーが異世界に飛ばされた際、他の魔王達がルシファーを探しに行こうとしたのをベルゼブブとルキフグスは止めた。理由はルシファーの支配から脱却し、自分達が新たな支配者になろうともくろんだからである。
『流石にルキフグスちゃんがいないんじゃ、ルシファーとやり合うのはキツイわね~!』
自分とルキフグスがいれば、ルシファーに対して勝機があったが、ルキフグスがいないとあっては流石のベルゼブブも勝算がない。
『サタンも音沙汰なし!仕方ない、ここは一旦身を隠そうかしら!』
ルシファーの報復を恐れたベルゼブブは、しばらく身を隠すためカナン大森林を離れるのであった。
セレン郊外 旧フィスの森跡地に建てられた塔の最上階
「ハッハッハッ、それにしても愉快だ! なんせあのガブリエルが今や私の手駒なのだからな!!」
最上階にある玉座に腰を下ろすのは、このダンジョンの新たな主である黒川華凛こと堕天使ルシファー、そして嫌々、玉座の前で膝を屈しているのは大天使ガブリエルであった。
「クッ、お前!! よくも!!」
「おっと! 主に対して口に聞き方がなってないぞ、ガブリエル?」
被虐の絶頂に浸っている気分で笑い声を上げるルシファーを苦々しい思いで睨め付けるガブリエル。かつては同格の存在であった二人の関係は今や完全な上下関係となっていた。
「クソ!!」
「まあ、そういきり立つな!!それよりも知ってるか?ガブリエル、アルカナの塔には様々な解釈があるがその一つに神の家というのがあるのを!」
ルシファーは手を広げながら、声を張り上げる。
「神の家!!! これから天界を滅ぼし新たな神となる私の仮住まいとしてはなんと相応しい名前ではないか!!ふっふふふふふ、はっはっはっははははーーー!!!」
従属を強いられる悔しさから言葉も出せないガブリエルとは反対に、勝利を確信したかのようなルシファーの甲高い声が、玉座の間に響いていった。
勇者残り、???
魔王残り、二名
ルシファー側、勇者二名、魔王一名
第六章はこれにて終了で、次回よりついに最終章 神の家編に突入します。
ここまで、読んでくださった読者の皆様どうもありがとうございます。あと少しで、完結です。最後までお付き合いして頂ければ幸いです。




