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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第五章 王都解放編
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アリク砦の攻防

 津田達一番隊が王都で暴れている頃、セレン王都間にある最後の関所、アリク砦をサクラ率いる二番隊が攻めていた。


 王都に至る道には全部で三つの関所である砦があったが、一つ目と二つ目の砦は先行していた一番隊が戦闘の末に守備隊全滅させていたので後続の二番隊は素通りできたが、最後の関所は無傷で残されている。


そう、一番隊は高木の提案を受けて最後の関所アリク砦を迂回してしまったため攻め落とさなかったのだ。


 一応、一番隊からの伝令でアリク砦を迂回して洞窟を通ることは知っていたサクラだが、後顧の憂いは取り除くべきだと判断し、王都への到着が遅くなったとしてもアリク砦を落とすべきだと判断する。


 そして、攻城戦が始まり、その判断は正しかったと認識した。何故ならアリク砦には第九魔王リリスがいたからだ。


 攻めるのはサクラ率いる約三百体のアンデッド部隊、砦を守るのはリリス率いる約百五十体のオーク部隊である。


 サクラ達二番隊は苦戦していた。攻城兵器を持たない上にオーク達は砦から出ないで城壁の上から投石や弓矢で攻撃し続けていたからだ。


「しもべ達よ、敵を打ち払え!」


 城壁の上でオークを鼓舞するのは、小太りの体形をした第九魔王リリスだ。魔王最弱トリオの一角と侮られているリリスに取ってこの戦いは負けられない戦いでもあった。


 配下のオーク達もリリスがモンスタースポットで召喚した魔物だ。そのため士気は高かった。それに対してサクラ率いる二番隊の主力は雑魚モンスターの代表格スケルトンである。数では勝っているが単体の戦闘力は低かった。


 ましてや、敵は高い城壁の上にいる。スケルトン達は弓矢で城壁の上にいるオーク達を狙うが戦果は芳しくない。オークを一体倒している頃には、スケルトンは三体近くやられていたのだ。


 この劣勢を覆す手段として、サクラには自分が与えられたアルカナ能力〈死神〉という切り札があった。視界にいる相手の背後に移動するという能力で、城壁の上で身を晒している敵兵の背後に移動できるので楽に城壁を越えられる。とは言え、サクラ一人が城壁の上に移動しても勝機は薄いだろう。


  後方から戦いを見ていたサクラは、能力を使うには準備がいると判断をし、温存していた精鋭であるリッチー隊とデュラハン隊を呼び出す。


 銀卵上クラスの戦闘力を誇るリッチーが十体、同じく銀卵上クラスのデュラハンが十体、サクラはこの戦力を出して駆使し砦を落とすことにした。


「右丸、左丸、作戦を授けるので、それぞれスケルトン達の指揮を取ってください」


 サクラに右丸、左丸と名付けられた、副官である二体のオーガロード達も行動を開始する。


 そして、サクラの指示通りに、まずリッチー隊が城門付近で火魔法スモークを発動した。スモークは広範囲に煙を発生させる魔法だ。しかもリッチー隊は風上から放ったため、砦全体が煙に覆われた。


「ごほっごほっ、前が見えないぞ」 


 魔王であるリリスはこの程度の煙ではビクともしないが、部下のオーク達は煙を浴びて蒸せたため、攻撃の手が止まる。


「皆、しっかりせい、この煙だ。向こうも攻撃の手が弱まるだろう」


 敵も煙で参っていているだろうから、攻撃できないから安心しろとオーク達をなだめるリリス。だが、煙で視界が見えないオーク達の前に、突如として鎧を纏った上位スケルトンであるデュラハンの刃が襲いかかった。


「ぐあ、」

「敵襲!、敵は城壁の上にいるぞ!」

「馬鹿な、この煙の中、どうやって城壁に登ったのだ」


 戸惑うオーク達を尻目にリリスはあることに気が付く。


「そうじゃ、スケルトンには肺も目もない。煙の影響を受けないのだ」


 しかし、それでも梯子のような攻城兵器を持っていない敵が城壁を登ってきたことが分からなかった。その謎はしばらくして煙が晴れてから判明した。


「なんと!?」


 リリスとオーク達の目に飛び込んできたのは、スケルトンが組体操のように、お互いの体を支えあい、城壁の上にまで届く階段を作っている姿だった。


 骨でできた巨大な階段だ。この階段を作るのに、百体以上スケルトンを使ってしまったため、数の上では互角になってしまったが、二番隊は何とか城壁の上に到達できたのだ。


「総員、突撃!」


 先に城壁の上に登ったデュラハン達を孤立させないために、サクラは残ったスケルトン達を率いて骨の階段を駆け上がる。地上からはリッチー達が魔法で援護射撃を掛けた。


「くっ、皆のもの、敵の侵攻を食い止めよ!」


 リリスは、オーク達の敵の侵入を防げと指示を出すが手遅れだった。階段付近はほとんど、スケルトン達によって埋め尽くされた。


 部隊が城壁の上をある程度占領したのを見届けたサクラは傍にいた右丸に指揮を任せて、自分はアルカナ能力〈死神〉を発動して一気にリリスの背後を取る。


「魔王覚悟!」


 サクラは愛刀を振るいリリスの首を刎ねようとするも、寸での所でサクラの体が凍ったように動かなくなった。


「ふんっ」


 リリスはその手に持っていたこん棒を振るいサクラの体を弾き飛ばした。そして、そのままサクラの体は城壁から落とされてしまった。


「一体何が?」


 地面に叩き落とされて困惑するサクラ。体中が痛いのでしばらく休みたかったが、上からこん棒を持ったリリスが降りてきたため、慌てて立ち上がる。


「お主がリーダーじゃな」


 サクラに背後を取られた瞬間にリリスは、クリフォト能力〈不安定〉を発動した。この能力はリリスの周囲にいる者の不安な気持ちを増大させ、行動を停止させる能力だ。


 そのため、敵味方問わず、戦場にいた全ての者の動きが止まる。


 状況は分からないが、敵将がのこのこと自分達の領域に来たのに関わらず、戦力がいない状況を知りサクラは小さく舌打ちをした。


 こうなっては仕方ない。ここで一騎打ちで魔王を倒すと腹を括ったサクラに対して城壁の上にいる部下のオーク達がリリスの能力の影響を受けて行動を停止している様子を見てリリスはため息を溢す。


「難儀なものじゃ、妾のクリフォト能力〈不安定〉は、不安な気持ちを抱く者の動きを止める能力だ。味方にまで効果が及ぶので使いたくなかったのだが、仕方ないのぉ」


 城壁の大部分ではリリスが発動した能力のせいで、敵味方問わず、行動を停止していた。先ほどまで満ちていた戦いの喧騒も今は聞こえてこない。


「何故、お主がアルカナ能力を持っているのかは分からないが、おかげで、随分と早く妾の能力から逃れたものじゃの」


 こうして戦場で唯一動けるリリスとサクラの一騎打ちが始まった。


「良い剣捌きじゃ」


 サクラの剣術を見て、リリスは感嘆の声を上げた。褒めらえれて内心喜んだサクラではあるが、刀とこん棒が激しくぶつかり合うが筋力で劣っているため、力負けしてしまうためスピードで勝負することにした。スピードのサクラとパワーのリリスの戦いである。


 サクラは持ち味のスピードに加え、アルカナ能力〈死神〉の瞬間移動でリリスの背後を取りに行くも、弱小と言われても流石は魔王、リリスは戦闘経験から能力の発動の瞬間に行動し防御されるため、決めきれずにいた。


 鈍重なリリスの攻撃ではサクラを捉えることはできないが、魔力量ではリリスの方が多い。つまり長期戦なればなるほどサクラは不利に陥っていたのである。


(まずいですね。このままでは負ける)


 焦りの余り、剣先が鈍った。そしてその瞬間をリリスは見逃さなかった。


「ここだ!」


 リリスのこん棒はサクラの脇腹を直撃した。サクラの華奢な体は宙を舞い、そして刀を手放してしまった。地面に打ち付けられるサクラ、リリスは止めとばかりにサクラに迫る。


(もう使うしかない)


 醜い姿を人前に晒したくなかったため、幻獣魔法〈鬼〉の使用を最後まで躊躇っていたサクラだが、大ダメージを負い武器まで手放してしまった。諦めて幻獣魔法を使うと決めたその時、突如飛来した炎の渦がリリスを襲った。


「!?…ぐあ、熱い!」


 側面から突然襲ったため、回避が遅れたリリスは炎を直撃を受けて火だるまになった。


 ピンチを救われたことになったサクラだが、顔は晴れない。何故なら最も助けて欲しくない奴に助けられたからだ。


「とっわぁー!! クーアン参上です!」


 そこには、サクラのライバル、三番隊隊長、妖狐のクーアンが満遍の笑みで立っていた。


「ふふん、どう?クーアンに助けられてどんな気分です?」

(うざい、そして最悪だ)


 サクラは心の中で呟いた。この狐に助けられるくらいだったら、あの姿を晒した方がまだましだと思っていたからだ。


「どうしてあなたがここに?」


 三番隊がアリク砦に到着するには速過ぎると考えていた。とは言え、その謎はすぐに解決した。クーアン以外のモンスターの姿が見えなかったからだ。


「あなた、まさか」


 恐る恐るサクラは尋ねる。


「うん、遅いから他の連中はコボルトキング達に任せて置いて来たです」

「やっぱりか」


 隊長であるクーアンが隊を見捨てて一人で来たことに頭を抱えるサクラ。いくら強いからと言って隊長にさせたのは間違いだと心の中で決定者であるガイアールに向かって叫ぶ。


「このガキ共がー」


 サクラは声のする方を振り向くと、怒りの声を上げるリリスがいた。服が破け、焼き焦げた痕が見えるがサクラが驚いたのはそこではなかった。


 実はリリスは顔が見えないようにマフラーのようなもので顔の半分を隠していたのだが、クーアンの炎がそのマフラーを焼いたため、素顔が丸見えになったのだ。そして、リリスがオークの体を依代にしていた。なので、体は丸く、鼻は豚の鼻だった。


 同僚である魔王達からもその事をずっと隠してしたリリスだが、とうとう露見してしまったのだ。


「ぷぷぷ、豚さんだ」


 サクラは気を利かせて触れないようにしようかと思ったが、クーアンが無邪気にも笑ってしまったため、思わず、自分も笑みをこぼしまう。


「このガキ共が、この姿を見られてからには生かしておかないぞー」


 激高するリリスの魔力が場を満たしていくが、サクラとクーアンは平常のままだった。何故なら、


「あれ?魔王にしては魔力が思ったよりも低いです~」

「まあ、ダンジョン内で一番魔力を持っているクーアンから見れば大したことないわね」


 ガブリエルを除けばクーアンの魔力はダンジョン一だ。その魔力は第七以上の中位魔王にも匹敵していた。全魔王の中でも特に魔力が低い、下位魔王のリリスでは足元にも及ばない。その分クーアンは頭が弱いが、


「じゃあ、全力で一気に潰すです!」


 クーアンは幻獣魔法〈妖狐〉を発動する、魔法の効果で九本のモフモフの尻尾は炎の尻尾に変わる。そして、


「全力の力を見るです!」


 クーアンは津田から与えられたアルカナ能力〈太陽〉も同時に発動させる。クーアンは炎を操り体を纏わせ、オレンジ、ピンク、赤、青、紫、金等の色が異なる炎を着物のように一枚一枚纏う。その姿は十二単を思わせるものだった。


「悔しいけど、きれい」


 サクラは悔しながらも、クーアンの姿を褒めた。惜しむべきはクーアンがまだ幼女であることだろう。身長が低いのでいまいち映えない。しかしそれでもその美しさは敵であるリリスですら見惚れてしまうものだった。


「紅蓮羽衣突撃です!」


 そしてその炎の羽衣を纏いながらクーアンは突進をする。

 

「綺麗じゃないか、ガキの癖に」


 それが、リリスの最後の言葉だった。まだ未完成の技ではあるが、炎を纏ったクーアンの突進を正面から受けたリリスは一瞬にして黒すみとなった。


「ハァハァハァ流石に疲れたです。しかし、魔王一体撃破です!」


 大きくブイサインをするクーアン、決して本心からではないが、魔王を倒した功績は認めてサクラはクーアンに見えないように小さく手を叩いた。


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