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引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第五章 王都解放編
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騎士団長

「また来たぞ」

「くそ、きりがない」


 王都の西門付近で地下水路から地上へと逃れた脱出部隊本隊はここから出ることを予期していたかのように待ち伏せしていた下級悪魔の軍勢と交戦していた。


「非戦闘員は結界の中から出るな、騎士団はかかれ!」


 本隊に派遣された二人の勇者の一人である橘樹のアルカナ能力〈皇帝〉よって作られたバリアのような結界の中に九百人近くの非戦闘員が収容させれたのを確認した王国騎士団長バルトライルは、残った百人の近衛騎士と共に、結界の外で下級悪魔と戦っていた。


 風を操ることができる魔剣グラムを振り回す騎士団長のの実力はAランク冒険者を優に越し王国最強であった。また彼の部下の百人の近衛騎士達も最低でBランク冒険者相当であり、中にはAランクに到達している者も多数存在していた。


 なので騎士一人で悪魔二、三体は相手できた。さらに傷を負っても、もう一人の勇者である桜井志穂のアルカナ能力〈女教皇〉によって瞬時に傷を癒され戦いに復帰することができた。勝利は確実だったはずだ。しかし、敵の援軍として現れた魔王の参戦で一気に状況が悪化した。


「第六魔王 醜悪のベルフェゴールか!」


 外見は中々のイケメンの青年だが、内包する魔力はここにいる人間全てと互角くらいの魔王の登場に騎士団長は心の中で焦りを感じ始めた。九百人もの非戦闘員を抱えて魔王に挑むなど正気の沙汰ではなかったからである。


 そんな騎士団長の焦りなど露知らず、ベルフェゴールは後頭部をかきながら人間達に告げた。


「すまないな。いつもならめんどくさいと言って見逃すんだが、あの女の依頼を上手くこなせなかったからな、点数稼ぎのためにあんたらの命をもらうぜ」


 ベルフェゴールの宣言が終わるとどこからともなくさらに多数の悪魔が現れて、本隊を包囲した。


「バルトライル諦めるな!者ども戦え!」

「左様、ここで魔王を倒せば英雄ぞ」

「バルトライル卿、ここが踏ん張りどころですぞ」

「「「騎士のみなさま、どうか頑張って!」」」


 橘の結界の中から、非戦闘員である王や貴族、市民達が近衛騎士達に声援を送る。だが、声援を受けた所で戦況は変わらない。それでも近衛騎士達は、己の職務を全うしようと、皆剣を力強く握りしめた。


 それから十分後、百人いた近衛騎士団はその数を半数にまで減らしてした。その光景を結界中から見て非戦闘員達には諦めムードが広がった。そして戦闘向きではない能力を持っているゆえ、後方支援をしていた勇者橘と桜井は戦う力を持たない自分達の無力さを噛みしめた。


 魔王の手によって次々と騎士達が倒れていくなか、一人食い下がったのは騎士団長バルトライルだ。全身血まみれになりながらも、両手にそれぞれ形状の異なるロングソードを持つベルフェゴールの前に立つ騎士団長の姿はまさに王国の守護神とも言えるものだった。しかしその騎士団長をもってしても魔王には遠く及ばなかった。


「なかなか、頑張るなおっさん。特に剣技は素晴らしい。本当に勇者じゃないくせに大したものだ」


 ボロボロになりがらも、ただの人間であるバルトライルの戦いぶりにベルフェゴールは最大の賛辞を送った。


「ふん、魔王に褒められるとは光栄だ。では私の名前を覚えておけ魔王。我が名はバルトライル・オーガス。ローレンス王国の近衛騎士団長にして王国の守護神だ」


 バルトライルの宣言を聞き、非戦闘員から歓声の声が上がった。ベルフェゴールもどこか嬉しそうな顔だった。


「そして、魔王よ、私を褒めるのはこれを受けてからにしろ!」


 バルトライルはこれが起死回生の一撃だと全魔力を集中させ、魔剣グラムの力を解き放った。


「凄い、魔力だ。これなら魔王も倒せる」

「流石、騎士団長だ。こんな隠し玉を持っていたとは」

「行けぇー騎士団長!」


 非戦闘員達からこれなら勝てるという声が響き渡る中、魔剣の輝きを見ながらなお、余裕の表情を崩さずにベルフェゴールは呟いた。


「グラムか、全くメフィストの野郎、対価と引き換えに人間にホイホイと魔剣を配るのは止めてほしいぜ」


 これだけの攻撃をしかけようとしても、焦り一つ見せないベルフェゴールを見て、バルトライルはこれでも通用しないのではと感じた。だが、いまさら後に引けない。先が見えているのにも関わらず、バルトライル最後の攻撃を決行した。


「食らえ、フェアリアル・ブレード!」


 魔剣に風蓄えられていた風の力を全開放して恐るべき風の刃の魔法を放った。上位魔法を遥かに凌ぐ威力だ。これは防げないと誰もが思ったなか、ベルフェゴールは不敵に笑った。


「大したものだ。では特別に俺の能力を見せてやろう」


 迫りくる風の刃を前にベルフェゴールは、自らのアルカナ能力〈醜悪〉を発動した。その瞬間に美しかったベルフェゴールの顔は肥大化し、できものだらけの醜い顔になった。スマートだった体形も歪なものへと変わり、さらに背中からは不気味な八本の触手なようなものが生えてきた。


 そして、ベルフェゴールは顎が外れたかのように口を大きく開け、バルトライルが放った渾身の風の刃を丸呑みしてしまった。 


「げぷっ、中々良い攻撃だったぞ」


 分かっていたとは言え、あっさりと最後の攻撃を防がれたバルトライルは力を失ったかのように肩を下げた。ベルフェゴールは絶望しきった顔のバルトライルに問う。


「俺の姿を見てどう思った?醜いだろう?俺の能力〈醜悪〉は魔法を食べることができる能力だ。食べた魔法には耐性を持ち、また使用することができる。まあ魔法を食べる度に体が醜くなるのが欠点だがな」


 あれだけ醜い姿になったというのに、声だけは変わっていなかった。そのことが一層おぞましさを感じさせた。バルトライルを含め、この場にいた人間達はベルフェゴールの強さよりも、自らのおぞましい姿に全く気にしないその内面に怖れを抱いた。この化け物は精神面で人間とは異なると感じたのだ。


「ともかく魔法では俺は倒せないぜ」


 陽気に告げるベルフェゴールに対し、魔力では劣り、剣技では互角の上、魔法も使えないとなるとバルトライルには対抗手段がもうなかった。


 結界の中で戦いを見守っていた者達からも先ほどのような歓声は上がってこない。みんなもう終わりだと感じたのだ。


「ふむ、少しつまらないが、まあ俺に弱者をいたぶる趣味はない。とっと楽にしてあげよう」


 悪魔達が生き残った騎士を取り囲むように迫る。バルトライルの諦めた姿を見て誇り高き近衛騎士達も諦めの目をした。この場にいる全ての人間が諦めかけたその時、知的な風に聞こえる男性の声が響き渡った。


「ふむ、まあ人間にしては良くやったと褒めてあげましょう」


 誰だ!と人間と悪魔の双方から声が上がった。それぞれが声の方を向くと建物の上に一人の男性がいた。


「久しぶりですねベルフェゴール」

「その声、大天使ウリエルか!」


 ベルフェゴール懐かしむように突然の乱入者であるウリエルと名乗る男性に声を掛けようした。した所で、話しかけるのを止めて、一瞬フリーズしやがて指を指して大爆笑した。


「ちょ、お前その姿はなんだ?」


 ベルフェゴールが知るウリエルの体形は細身で眼鏡をかけていた。いかにもな真面目な委員長キャラだった。それが、


「人の体を見てゲラゲラ笑わないで頂きたい!あなただって、以前見た時よりもさらに醜くなっているではありませんか?」

「俺ははいいんだよ。その分強くなっているから。だが、お前は…いやだってお前、脂肪は体の敵だと言っていた奴が、見事のデブになってたらそれは驚くだろう」

「私だって好きでこの体になったわけじゃないのです!」


 ウリエルは自分の体に天使を宿すことができる山城弘のアルカナ能力〈節制〉の能力でガイアに降臨していたのだ。天界から観察し、前々から不甲斐ない戦いをしていた勇者に憤りを感じていたウリエルは、山城が能力を発動し天使を呼び寄せた瞬間に本来呼び出される天使に割り込んだのだ。


 そして、山城の意識を奥底に押し込み、体の制御権を得たところまではよかったが、残念ながら異世界で堕落しきった生活をしていた山城の体形は見事な真ん丸な肥満体形だった。


「ちっ、分かっていたとは言え、やはりこの体は見た目も機能も良くはありませんね」


 ウリエルは山城の体に悪態をついたが、その姿を見ておもしろがっていたベルフェゴールが尋ねた。


「人の身に宿ったことで、お前本来の魔力は大分失われている。それでも戦うのか?」


 ベルフェゴールはウリエルを哀れに思ったが、ウリエルは心配ないと答えた。


「ご心配には及びません。私には勇者という味方がいますから。不甲斐ない連中ですが、多少は役に立つでしょう」

「そうか、ではそろそろ始めるか」


 西門の戦いは新たな段階へと進んだ。


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