表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり勇者がダンジョンマスターになったら  作者: ニンニク07
第五章 王都解放編
55/87

ウリエル

時は少し遡る。


「また来たぞ」

「西門までもう少しなのに」


 津田と別れたメイルとリサそして吉村アリサが率いる囮部隊は、脱出部隊本隊と合流すべく西門を目指していた。だが、この辺りにはまだ敵地だった。次から次へと悪魔が押し寄せてきて激しい戦いになったので、津田がつけた護衛のヴァンパイア達ともはぐれてしまった。


 次々と迫りくる悪魔の群れを見て、本隊は大丈夫なのかという不安に駆られながらも、吉村達は必死に多戦った。


「仕方ない、ここを一気に突破するために天使を憑依する。みんな俺の後に続いてくれ」


 天使をその身に宿すことができる〈節制〉の能力を持つ山城弘が能力を使うことを宣言した。天使をその身に宿すことができるのは、一日に一回で一時間程度だ。使い所が難しい能力であるが、この場を突破するには止む負えないと判断をし、みんなそれに同意した。


 能力を発動した山城の体を光が包む。黒の学ランから白いローブの姿に変わる、いつも通りの光景だ。しかしここから先はいつもと違った。


 まず、普段は二枚の翼が生えてくるのに、今回は六枚だったのだ。そして、声も山城とは別の男性の声だった。


「ふむ、ようやくガイアに降り立てたか。む?なんだこのたるんだ体は!」


 いつもなら、天使を宿しても山城の声のままで、山城の意識もあるのに今回はそれらが感じられなかった。山城の能力を知っている勇者達はすぐに察した、今の山城の体を支配しているのは山城ではなく別の誰かということを。


「あなたは誰ですか?」


 吉村が恐る恐る尋ねた。すると山城の体を乗っ取った者は安心しろと両手を広げた。


「心配しなくとも良い、不甲斐ない勇者達よ。私の名前は大天使ウリエル。君達に加勢するために来たのだ」


 新たな大天使の登場に一同歓喜した。だが、吉村だけは不安を感じていた。


「山城君はどうなったの?」


 消えた山城の意識を心配するが、ウリエルはまず敵を倒すと言い放つ。外見がデブのウリエルだが、機敏に動き魔法と体術を駆使してあっという間に悪魔の群れを始末した。


「やはり、動きづらいな」


 山城の体に不満を抱きながら、ウリエルは先ほどの吉村の質問に答えた。


「私はこの男に憑依しようとした下級天使に割り込んだ。この男の意識がないのは、私がこの男の意識を精神の奥底に追い込んだのだ。こうしておけば時間制限に気にせず、いつまでも私はこの男に憑依し続けられるからな。だから安心しろ死んではいない」

「何故そんなことを」


 メイルとリサだけはこの世界では神の使いと崇められる大天使に膝をついていたが、吉村だけではなく勇者達全員はウリエルの行いに疑問を持った。自分達を助けてくれたのは感謝するが、このままでは山城本人はずっと体を奪われたままだからだ。そのことをウリエルに伝えると突然ウリエルは激怒した。


「何故?、かわいそうだと!自分達の今までの行いを振り返ってもまだそんなことを言うのか?」


 そう言われると思い当たる節があり過ぎて勇者達は皆顔を伏せた。


「あえて何が間違いだったとは言わん。だが、この世界に来てから今日までのお前達の行いは決して褒められることではなかったぞ!」


 勇者達からは言葉は出なかった。


「女神様はお前達なら大丈夫だと信じていたが、私はそうは思わない。よって私自ら来たのだ」


 勇者達に反省の色が見れるのを確認したウリエルは告げた。 


「説教は戦いが終わった後にしよう。この先に魔王が一人いる。私がこれより君達に策を授けるので、まずはそやつを倒すぞ」


 こうしてウリエル指揮の元、魔王ベルフェゴール退治が始まった。







 魔王ベルフェゴールと無数の雑魚悪魔達に取り囲まれている脱出部隊本隊を救うため、ウリエルの作戦が始まった。 


「では行くぞ、ベルフェゴール、ホーリーカノン!」


 ウリエルは巨大な光弾を放つ。それに対してベルフェゴールは口を開けて叫んだ。


「忘れたのかウリエル、俺に魔法は効かないぞ」

「忘れてないさ、鈴木君!」


 ベルフェゴールがウリエルの魔法を飲み込む瞬間を見計らって建物の影から飛び出した。鈴木翔馬は自身のアルカナ能力〈吊るされた男〉を発動した。鈴木は某蜘蛛男のように手首から糸のようなロープを噴出させて、身動きの取れないベルフェゴールの体を巻き付かせた。


「〈吊るされた男〉の糸か、確か一分間は何があっても切れないんだったな」


 能力を知られていたことにビビる鈴木、さらに糸を出せば体を拘束し続けられるが、堕落しきった生活を送り能力を上手く扱えない鈴木ではこれが精一杯だった。


「動きは封じたられたか、ならばこうだ。イージス!」


 闇の頂点に立つ魔王が、光系統の最上級魔法を使えることに驚く人間達、ちなみに全魔王の中で光魔法が使えるのは、光の呪いを受けた第三魔王ルキフグスと魔法を捕食できるベルフェゴールのみだ。


 一度だけあらゆる攻撃を無効化するイージス効果を持つ結界がベルフェゴールを包みこむ。さらにベルフェゴールは他にも各種防御魔法を連発して身を守った。


 身動きを封じられたベルフェゴールは鉄壁の守りで、〈吊るされた男〉の効果が切れる一分をやり過ごすつもりだった。橘の結界の中で戦いを見ていた非戦闘員達からは悲嘆した声が聞こえ始めたが、全てはウリエルの計画通りだった。


 その後、ウリエル達もベルフェゴールも何もせず時間が過ぎていき一分が経過し〈吊るされた男〉の効果が切れて、ベルフェゴールは自由の身になった。


「何がしたかったのかは、分からんが策謀に優れているお前の事だ、何か企んでいるのだろう。ウリエル?」


 動けるようになったベルフェゴールは防御魔法を解いていった。そして一歩足を踏み出した時に、小さな違和感を覚えた。


「もしや、この感覚は幻術か!」


 知らないに内に幻術を掛けられていたことに、驚くベルフェゴール。すぐに意識を集中し、幻術の解除を試みる。


「な!?」


 幻術を解いたベルフェゴールが見た光景は、配下の悪魔達が他の勇者や騎士達の手によって全滅させられた光景だった。


「馬鹿な、魔法に耐性がある俺には幻術は効かないはず」 


 ベルフェゴールには一度受けた魔法に対して強い耐性を発揮するクリフォト能力〈醜悪〉があった。当然、幻術系魔法を過去に何度も受けているため、ベルフェゴールに幻術にかけるのは容易ではない。どんな魔法使いでも精々掛けられても一瞬が限度だろう。だが、ベルフェゴールには一つだけ自分に幻術をかける手段に心当たりがあった。


「そうか、アルカナ能力〈月〉か」


 ベルフェゴールの予想は的中していた。建物の影から対象に幻術をかけることができる〈月〉の能力を持つ花田透がこっそりベルフェゴールに幻術を掛けたのだ。〈月〉の能力は魔法ではないため、ベルフェゴールは耐性を持っていなかった。また、ウリエルの予想通りにベルフェゴールは体を一切動かさず結界の中に籠っていたため、すぐに気付くことができなかったのだ。


 幻術を掛けたタイミングは、花田が糸で拘束した瞬間だ。ベルフェゴールがその後会話していたのは、幻術で作られた架空のウリエルだ。その間にウリエルと勇者と事情を察した騎士達の手で悪魔達は全滅させられたのだが、幻術に掛けられていたベルフェゴールがその事に気付くことはなかった。


「確かに俺一人になったが、ゴミ悪魔達を殺して何が変わるというんだ!」


 ベルフェゴールの言う通り配下の雑魚悪魔は全滅したが、悪魔が全滅したところでベルフェゴールの優位は揺るがない。ここにいる人間全てを足してもなお上回るほどの魔力をベルフェゴールは持っていたのだ。だが、この状況はウリエルの描いた通りの状況だった。


「行くわよ、レーヴァテイン!」


 事前にウリエルが指示した通りに、バルトライルと同様に炎の魔剣を持つメイルが魔剣の魔力を解放した。


「まだ、魔剣があったのか!?だが、魔剣の一撃は魔法と扱われる。俺には効かんぞ」


 ベルフェゴールは先程バルトライルの魔剣の一撃を防いだのと同じように、魔剣の攻撃を飲み込むべく口を大きく開けた。バルトライルの攻撃が通用しなかった光景を見ていた非戦闘員達やバルトライルからは無駄な事をするなと声が上がるが、その声を無視してメイルは魔剣を解き放った。


 迫りくる飛ぶ炎の斬撃を前にベルフェゴールはまた魔力を補給できるとニヤリと笑った。だが、次の瞬間に自分の魔力が一瞬にして減少したのを感じ、初めて心の底から焦りを覚えた。


「いかん、このままでは」


 すでに手遅れだった。ベルフェゴールは炎の斬撃を捕食するも、炎を食べきれずにいたため体が焼けてきたのだ。


 ベルフェゴールの〈醜悪〉は他の能力と同様に精神力で強さが増すが、精神力だけではなく魔力も必要とした。本来は凄まじい魔力を持っているベルフェゴールだが、未知の手段で魔力を大幅に減少させられたため、〈醜悪〉の能力を万全に発動できず、炎の斬撃の全てを飲み込めなかったのだ。


「くそ、これでは耐えられないーーちくしょう!」


 炎を食べきることができなかったベルフェゴールはそのまま炎の刃に飲まれていった。




 しばらく経った後、黒焦げで地面に横たわるベルフェゴールの傍にウリエルがやってきた。


「ぐは、ウ、リエル」


 異形の姿であったため人の形をしていなかったが、全身焼けただれて虫の息のベルフェゴール。そして彼の肉体はもう限界であった。


「な、何故魔力が」


 最後にベルフェゴールはウリエルに問う。ベルフェゴールが長く持たないと知ったウリエルは素直に答えた。


「お前も知っているだろうが、小林千里という勇者が持つアルカナ能力〈正義〉のおかげだ」


 〈正義〉と聞き、ベルフェゴールは納得した。〈正義〉の能力は一定範囲内の者全ての魔力量を一定時間自分と同じにする能力だ。他の勇者同様に能力を扱えきれていない小林だが、一分にも満たないが圧倒的魔力を誇るベルフェゴールの魔力量を自分と同じにできたのだ。ちなみにメイルだけは能力の影響を受けない魔剣の魔力を使用したため、いつも通りの威力を放つことができた。


「な、なるほど、それで」


 ベルフェゴールは、何故ウリエルが幻術を用いて雑魚悪魔を狩ったのかを理解した。勇者小林の魔力はAランク冒険者クラスだ。それに対して悪魔達の魔力はBランク冒険者程度、つまり、悪魔達がいる状態で使えば、悪魔達を大幅に強化させてしまうため、先に始末する必要があったのだ。


「ふ、ふっ、負けたぜ」


 最後にそう言い残すとベルフェゴールの体は灰となって風と共に空を舞った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ