永遠の敗者
そうか、僕は負けたのか。
高木の最後の一撃を受けた僕の体は宙を舞った。普通なら顎に一撃を受ければ脳震盪を起こしそうだが、魔力のおかげかそのような症状はない。代わりに今までの光景を走馬灯のように脳裏を駆ける。
まだ十八年しか生きていないとは言え、我ながらつまらない人生を送ったと思う。内向きな性格だったため僕は中学の時から孤立していた。友達も数えるほどしかいない。それも当時流行っていたゲームで親しくなった友達だ。なので、ゲームが流行らなくなると自然と集まることはなくなった。
つまり、薄い人間関係しか今まで作ってこなかったのだ。中学卒業時にそのこと認識していた僕は、もっと深い絆が欲しくて高校ではインドアだった自分を捨て、思い切って陸上部に入部した。
それなりに上手く行ったと思う。俗に言う高校デビューのような派手さはなかったが、体育会系という今まで接してこなかったタイプの人間ともそれなり上手くいっていたのだから。
とは言え、性格も暗くて、部の練習について行くのがやっとの僕が部内で親友を作るのは大変だったが、そんな時ある機会が訪れた。それは中学の時から僕の得意だった携帯ゲームが部内で流行ったからだ。
部の中心にいた高木のような極少数の根っからの体育会系を除き、部員のほとんどがそのゲームに嵌った。僕は部の誰よりも上手かったので、一時期だが部の中心にいることができた。だが、一瞬の栄光だった。そのゲームが廃ると僕はまた一人になった。
つまり、僕は運動部に入っても自分を変えることができなかった。そして親の言うままに部活を辞め、本当の孤独になった。結局、今までの根暗な自分を変えるのが怖かったのだ。
運動部デビューは失敗した。だからこそ、新たに掴んだ異世界では今度こそ自分を変えようと決意した。だが、結果はどうだ?クラスの連中から爪はじきにされた所はいい、問題はその後だ。情報収集はヴァンパイアやホムンクルス達に任せて、僕はこのダンジョンを建造してから一歩も外に出てないではないか。
宙を舞った僕の体は重力に従い、地に落下した。落下時の衝突で全身に痛みが広がる。だが、思考までも妨げるほどではなかった。
高木の言う通りだ。僕はダンジョンの最上階で構えて何もしなかった。いや違う、何もしなかったのではない。最初から最後まで相手の前に立って戦おうとしなかったのだ。
最初に来たバズさん達山賊は、ビッグ・タートルがほとんど倒した。魔王アドラメレクの部下である四体のオーガロードはサクラとメイル達が倒した。肝心のアドラメレクも僕がその強さに怯え泣き言を言い出した時、幸運にも戦う気になったガブリエルが倒してくれた。佐伯達もネームドモンスター達が倒した。
僕は今まで来た侵入者を誰一人として倒していない。つまり、僕は幸運に恵まれていたのだ。それなのに侵入者から力を回収して、さも自分の成果だと息巻いてしまった。
今思えば佐伯を殺した時だ。あれほど変わりたいと願った僕が怒りに身を任せて変わる振りをしてしまったのは。力に溺れて、強い口調や言葉で自分を偽ってしまったのは。あの時僕の中にあったのは、クラスの連中に自分の事を認めて欲しいという欲求だけだった。
今の自分には複数のアルカナ能力と無数の魔法がある。例え勇者や魔王と言えど僕の勝つのは不可能だろう。僕は自分の力に驕れて他のすべてを見下していた。
だからこそ、高木が一人でここに来た時歓喜した。一番復讐して上だと分からせたい相手が一人でのこのこ来たからだ。集めた情報では王都が魔王の襲撃を受けて大変な目にあっているそうだが、そんなの知ったことではない。高木自身も随分苦労したみたいだがそれもどうでも良い。高木に僕の力を分からせて屈服させることしか頭になかった。
黒星続きの僕の人生だが、圧倒的な力を持つ今こそ、白星にそして勝ち組になれる最後のチャンスだ。僕は自分の力の全てを使って高木をねじ伏せようとした。
で、結果はどうだ?いくつかのアルカナ能力をネームド達に与えたとは言え、それでもアルカナ能力三つにクリフォト能力一つ、それに数々の魔法と剣技を持っていた。にも関わらず、僕は負けてこうして地に伏している。複数の能力を持っている僕は、たった一つの力を極めた高木に負けたのだ。
いや、まだだ!!まだ、負けていない!これだけの好条件で負けたら、今度こそ高木に屈服することになる。永遠の敗者になる。僕はもう負けたくない、そして自分を変えたいという一心で立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。
「もうここらでいいだろうマスター、あんたの負けだ!」
無常にも審判は僕の敗北を告げた。
「ガブリエル、まだだ。まだ僕は負けていない!」
高木は突然現れたガブリエルに驚いていたが、それはどうでもいい。まだ負けてないと痛みに震える体に鞭を打ち僕は立ちあがり、この戦いを見守っていた彼女に突っかったが、彼女は優しく慰めた。
「マスター、あんたにしてはよくやったよ。アタシはあんたを見直した。今までのあんたを見ていたら、正直途中で不利なったら上階に逃げ出すと考えていたからな」
その言葉を聞き目から一滴の涙が出てきた。
薄々気づいていた。ここのモンスター達は誰一人として僕のことを認めていないと。ダンジョンマスターの僕に逆らうことはできない、好感度などどうでもいい。僕が認めてほしいのは僕を見下していたクラスの連中だけだと思い、そのことに気づかぬふりをしてきた。
だが、今それを事実だと告げられた上で撤回された。
ようやく一人、クラスの連中ではないが、僕のことを認めてくれる人が現れて僕は嬉しかった。
「そもそも、マスターこいつはあんたに敵意はあったのか?」
ガブリエルは高木を指しながら尋ねた。そう、それこそが僕がこの戦いで最も避けていた一つの事実だ。
ゲスト登録できるのは、ダンジョンマスターに対して敵意のない者だけだが、僕は最初に高木の前に顔を出していた時にゲスト登録できるか確認して答えは可だった。つまり高木は本当に最初から僕に助力を求めるためにここに来たのだ。
高木はかつていじめた僕に頭まで下げ助力を求めた。高木は守りたい者のためにここに来ただから敵意がなかった。しかし、向こうは敵意がないのに、僕にはあった。それも自分の事を認めて欲しいという子供の我儘のような理由だ。その時点で僕は勝負に負けていたのかもしれない。
「結局、僕には何もないんだ。高木のような、守りたいものも、辛い過去も、誇れる過去も、胸を張れる夢も何もない。空っぽな人生だ」
僕は自分の人生を振り返り空を見ながら呟く。
「津田、俺はお前に謝らないといけないことがある」
高木は意を決したかのように、そう言いなんと土下座した。あのプライドの高かった高木が僕に土下座したのである。
「俺はお前に嫉妬したんだ!」
高木が俺に嫉妬?どういうことだ。
「以前、部内でゲームが流行っただろう?あの時俺は蚊帳の外だった。初めて疎外感という物を味わったよ。そして同時にこの輪の中心にいたお前に嫉妬した。今まで眼中になかったボッチがそれまで俺がやっていたみんなのヒーローを奪ったんだぜ。本当にショックだった。幸いにもブームは一過性だったが、俺はお前がブームが過ぎても部の中心にいることを恐れた。だが、お前は折角掴んだ好機を捨て、また元のボッチに戻った。おかげでホットしたよ」
驚くことに高木が言ったことは、僕もずっと引っかかっていた頃の話だった。
「とは言え、飛ぶ鳥を落とす勢いだった俺を落としたのは許せなかった。軽く仕返しをしてやりたいと考えていた。だからお前が部活を辞めたと聞いて絶好の好機だと思った。怖い顧問の目もあるし、部内でいじめなんてやったら目立つからな。クラスでちょっとした仕返しをするくらいならいいだろうと思った。だが、それがクラス全体を巻き込んだいじめに発展するとは夢にも思わなかった。担任が黙認したのが決定的だったな、俺も調子に乗っていじめに加担してしまった」
高木は涙を流しながら、僕に慈悲を乞う。
「許してくれとは言わない。虫のいいことを言っているのは自分でも分かっている。でもせめて白雪をクラスの連中だけは助けてくれ!あいつらを助けられるのはお前だけなんだ。頼む!一生のお願いだ!」
勝者であるはずの高木は何度も何度も地面に頭をこすりつけて頼みこんだ。その姿を見て僕は立ってくれと言う。そして、
「歯を食いしばれぇーー!」
僕は残された力の限りを込めて無防備になっていた高木の顔面を思いっきり殴った。高木の体はそのまま闘技場の隅まで飛んで行く。
高木の顔は見るも無残になっていた。だが、どこかすっきりとした顔だった。その顔を見て怒りを覚えた僕は高木の体を何度も蹴る。
「ふざけるなぁーー!確かに僕の人生は空っぽで何もないかもしれないけど。お前の気まぐれで台無しなることはないはずだぁ―!!」
怒りと同時に、僕も目から涙がこぼれてきた。
「……すまん、すまん、すまん」
それに対して高木は一切抵抗せずにすまんとしか言わなかった。その後何度も蹴ったが、うちにふいに蹴るのを止めた。何だか空しくなったからだ。そして、僕は天井を見ながら思った。
そうか、高木も俺と同じで嫉妬していたのか。日本では雲の上のような高木が底辺にいた僕嫉妬したことに驚くと同時に少し後悔した。折角ゲームが流行って僕を見る回りの目が変わったのに、自分を変えなかったことを、そして変えることのできる絶好の機会を自ら手放したことをだ。高木も悪いが、自分にも悪い所があるのもまた事実だ。
「高木、いや高木君、一つ聞く君が恐れた僕にもう一度なれるかな?」
その質問に彼は笑って答えた。
「高木でいいよ、お前が変われるかは俺にも分からないない。ただ変わろうとしない奴はいつもでも変わらないままだぞ。そしてこれだけは言っておく、部の中心にいた時のお前は全てを持っていたと思っていた俺が嫉妬するほど凄く輝いていたぞ」
その答えを聞き、少しだけ気が晴れる。
「分かった。正直、クラスの連中は未だに許せない。お前にはあいつらと一緒に土下座してもう一度謝ってもらう。だから、今回だけは助けてやる。その代わり僕の事を認めろ!」
そう言い残し、僕も力尽き、地面に大の字になって地面に倒れた。
今日はもう一本投稿します。
大幅に加筆、修正しました。
第4章は次のエピローグで終わりです。
次の第5章は主人公勢無双回です。




