他力本願で最強になった者VS自己努力で最強になった者
「くそっ」
姿なきサンダーボールが、俺に迫る。全く見えないが、雷の槍が空気中を切り裂く音が聞こえる。俺は耳を研ぎ澄ませ何とか回避に成功した。
「その様子、やはり音で躱せるのか」
あっという間に俺に弱点を突かれて津田が忌々しそうに呟く。よしっ、これで〈隠者〉は攻略できた。問題は残りの能力だ。幸いにもいじめられている間に、佐伯達のアルカナ能力をサンドバック代わりのその身に受けていた。なので、津田が持つ残りの能力には心当たりがあった。
「確か、〈太陽〉〈死神〉〈女帝〉だったか?」
図星を突かれたように津田は驚きの顔をしたがそれ以上は何も言わなかった。佐伯達のようにペラペラ自分の手の内を晒す馬鹿ではないな。しかし、それにしては先ほどから見られるミスや戦闘の間にある奇妙な間はなんだ。罠か、それとも、いや津田がさっき言っていたことと照らし合わせれば、向こうの不手際よりもこちらの方が可能性はあるな。
「どうした?黙りこんで、おとなしくしていても魔力は回復しないぞ。ほら、残り少ない魔力で逃げ回って見せろ。フレイム・ドラゴン!」
炎の竜が一瞬だけ姿を現したがすぐに消えた。各属性の上級魔法には、~ドラゴンという属性を纏った竜を生み出し、一定時間自在に操る魔法がある。今までの撃ったら操作ができない魔法と比べて、自在に操れる分厄介だ。だが、これは逆を言えばチャンスだ。あの系統の魔法は発動中は他の魔法が使えないからだ。
「何!?」
津田が驚くのも無理はないだろう。俺は見えない炎の竜がいるのにも関わらず一直線に津田目掛けて突撃したからだ。
「この瞬間に全てを賭ける」
魔力も残り少ない、足に力を込め大地を蹴り津田を目指した。途中見えない炎の竜に何度も飲み込まれた。熱い、というより痛い、それでも俺は足を止めずに、軌道も変えずに津田の元に走った。魔力を全身に纏うことである程度防げるとは言え、全身やけどは免れない。それでもこのチャンスを見逃すわけにはいかない。そして、
「もらったぁー」
再び至近距離で剣を投げつけた。また同じ手は食わないと津田は今度は剣で弾かずに躱すことを選んだ。武器は失った。だが、津田が躱すという動作をした一瞬で俺は再び奴の懐に入りこんだ。
「しまった!」
「食らえぇー」
俺の拳が津田の顔面に命中した。勢いよく殴ったおかげで、津田の体は宙を舞った。なので俺は流れるような動作で着地の瞬間を狙う。
「くっ」
宙に舞う津田は俺の攻撃を防ごうと、腕を交差させ防御の構えを取ったが残念ながら守るべき場所が違う。俺は左足を軸にして、右足で津田の背中を蹴り上げた。
勝った、不覚にもそう確信した。背中を打たれた津田の意識をもうないと勝手に想像し俺は勝利を確信した。だが、それは油断だった。津田はまだ意識を失ってはいなかった。そして地面に叩きつけられる直前で、手に持っていた剣を投げつけた。
投げた剣は俺の首筋深くを切り裂いた。首筋の辺りから血しぶきを出し、俺の血が飛び散る。俺と津田の体を含め、周囲は赤に染まった。
「ハァハァハァ、何故、俺に近づけたのだ?」
背中を抑えながら津田が立ち上がった。背中をやられるのは戦闘中にとってはかなりヤバいが、津田よりも俺の方がヤバかった。
血を流し過ぎた。今は魔力で膜のような物を作り出血箇所を抑えているが、これはかなりの神経を使い、さらに魔力の消費を激しい。残りの魔力をすべて使ってどうにか維持している状態だ。対する津田も立ち上がるので精一杯のようだ。だから俺は津田の問いに答えた。
「ハァハァ、津田、お前の戦い方に不自然な点があった。魔法の選択ミスと行動の間に見れた奇妙な間だ。最初は罠かと思ったが、お前が自分の能力を言った時の事を思い出した」
津田、辛そうな顔をしながらも疑問符を掲げた。
「お前の〈塔〉は今まで見てきた能力の中でも上位に位置するほど強い。なんせ自分が戦わなくても、配下のモンスターが代わりに戦い、お前は見ているだけで倒した相手から力を回収できるのだからな」
津田もその辺は分かっているのだろう。理解の表情だ。
「自分が戦闘しなくても、他人から力を奪える。だが、津田。その中に戦術や知識、経験は含まれているか?」
津田は俺が言いたいことに気付いたようで、顔をピクリと動かした。
「そうだ!最初に言っていたな、魔力の一部と魔法と、技能や能力を奪えると、だが、それだけだ。何もせずに、この塔の最上階でふんぞり返っていたであろうお前は、強大な力を得てもその使い方まで完璧に得られていない」
俺は畳みかけた。
「お前が戦闘中に、効果的ではない魔法の選択をしたり、攻撃の間に奇妙な間があるのは、どういう攻撃をすればいいのかという判断ができていないからだ!」
津田は事実だと受け止めているのか、無言を貫く。
「女神からチート能力を貰ってから三か月経ったが、この世界に転移してからお前は何も変わっていない!突然得た、多彩な力に酔いしれ、使いこなそうとしていない。先ほどの〈隠者〉のように簡単に破れるくらいの事しか思いついていない。ようは、能力を浅く知っただけで、使いこなしたと勘違いしている馬鹿だ!」
津田は徐々に体をプルプルと震わせていく。
「へへへ、俺はそんな連中知っているぞ、突然得たチート能力を使いこなそうとせず、ただ見せびらかす奴らを、そう今のお前は、まるで王都にいた連中や佐伯達のようだ!」
俺の言葉を聞き終わった津田は、一瞬で怒りを貯めてすぐに放出した。
「てめえー、僕をあの糞共と同じにするなぁーー」
それは今までに見たことのない激高ぶりだった。佐伯達と同類と思われるのはそれほどまでにショックだったのだろう。
「もういい、死ね!ダークネス・ブレイブ!」
聞いたことのない魔法だ。だが、その魔法が放たれることはなかった。
「ん!?何故だ、何故!魔法が出ない!」
一瞬また〈隠者〉で姿を隠したのかと思ったが、津田の反応を見る限りどうやら違うようだ。何故魔法が出ないと喚く津田の姿を見て俺はあることに気が付いた。
「魔力も下がっている」
つい言葉に出してしまったが、津田の耳も聞き取ったようだ。そしてお互いすぐにあることを確信した。
「まさか!?」
「幸か不幸か、俺も知らなったが、どうやら俺の血も俺の体の一部と認識されるみたいだな」
先程の戦闘で俺の血を全身にもろに浴びた津田。血も〈愚者〉の無効化能力の影響下に入るならば、津田は今、アルカナ能力も魔力も出すことができない!完全な無能力者だ!!
「魔法も使えない。これでは水魔法で血を洗い落とすこともできない!」
能力は封じた、魔法は使えない?魔力で身体能力の底上げもできないのか?血で力を封じられるとは思っても見なかったが、これはチャンスだ!俺は傷口を抑えるのに残りの魔力全て使わざる負えないだろう。お互いに能力も魔法も使えないのであれば、勝機が見えてきたからだ。
「ウオオオオオーーー」
チャンスと見た俺は叫び声を上げて、津田に突っ込み顔面に一発拳をぶち込んだ。だが、浅かった。津田はその場で踏みとどまり、今度は向こうが俺の胸の辺りに拳を打ち込んだ。
「グハッ」
「クッ、痛え、ちくしょう!」
津田は右手で口を抑えている。どうやら前歯が折れたみたいだ。それに対しこちらはアバラ骨を損傷したみようだ。
「俺は佐伯達みたいな雑魚とは違うんだぁ~!」
津田は泣きながら、拳を振るってきた。俺達はしばらくの間、言葉を交わしながら、お互いを殴りあった。
「俺は、佐伯達よりも上なんだぁ~」
「クッ、だが、俺から見ればお前とあいつらには大した違いはない。他人からもらった力を、さも自分の物だと勘違いして、弱者に見せつけているクズだ!」
「ブハッ、じゃあ、お前はどうなんだ?高木だって女神から貰った能力を見せびらかしているだけではないかぁ!」
「ハァハァハァ、俺はな津田…、この〈愚者〉の能力で酷い目にあったんだ。なんせあの時は触れた相手も無効化するなんて芸当できなかったからな。ただの無能力者という扱いを受けて、今まで手下だと思っていたクラスの連中に見下されたんだぜぇ」
俺は転移直後の暗黒期を思い出しながら語った。
「そんな時だ、クラス中が俺を蔑んだ中、白雪だけが俺に手を差し伸べてくれた。俺はそれだけで救われて気になったよ」
津田は白雪って誰だ?という顔をしていた。在学中あまり女子と接点がなかった津田は、どうやら女子の名前までは覚えていないようだ。
「……俺は白雪達の協力もあり、俺は肉体を捨て、精神のみで悪魔が住まう魔界の地に降り立った。俺が二か月昏睡状態だったのは、このせいだ」
「ハァハァ、そうか、それで魔界はどうだったんだ?楽しいところだったのか?」
「おうぇ……魔界はな、ハァハァ…常に戦いしかない世界だ。俺はその世界で昼夜問わず戦った。なんとか帰ってこれたがおかげで毎日魔界での生活を悪夢として見てしまうよ」
「…なんだ苦労話か」
「その一言で片づけられと悲しいな…だが、あの地獄は直接体験しないと分からないだろうぜ。ともかく俺は魔界で戦闘技術と自分のアルカナ能力を限界まで知って高めることができた」
「ハァハァハァ」
「俺の魔力は他の勇者よりも少ない、だが、魔界で培った魔力制御によって効率的に魔力を操る術を得た」
「だから、なんだ?自分は苦労したからお前より強いと言っているのか?」
「そうだ、俺とお前達との最大の違いは女神から貰った力を戦いの中で理解し使いこなしたかどうかだ」
「その割には、さっき血でも能力が発動したことに驚いたようだが?」
「新たな発見だよ。やっぱり人は戦いの中で進化するということだ」
何発、何十発、殴っただろうか、ここで俺達はお互いに距離を取った。津田の体は俺の血と自分の血が混ざりあって赤く染まっていた。鏡がないので分からないが俺も同じだろう。
「最後に俺とお前達との徹底的に違う点を教えてやる」
息を切らしながら津田は俺の前に立っていた。魔力の力で肉体を強化できたとしても、日本にいたころの津田では俺とタイマン張るなんて真似しなかっただろう。そう考えると津田もこの異世界で成長したと見るべきだ。
「俺には好きな女がいる。共に切磋琢磨したい仲間がいる。そいつらを守りたい。そのための力が欲しい。ここに来たのもそれが理由だが、お前らにいるか?自分を捨ててでも守りたいものが」
俺は津田の背後に今は亡き佐伯達の幻影を見た。そして俺の問いに幻影ではなく、この場にいる津田が答えた。
「知るかぁー、このリア充がぁーー」
ここにきて目に見えるほどの怒りを纏って津田は吠え、拳を振るい襲い掛かる。どうせ俺はボッチでコミュ障だ、だと叫びながらこちらに向かってきた。
正直これだけ語って聞かせたのに、最後の感想があれだとちょっと切ないなと思うが、俺の残りの魔力から考えるとこれが最後の勝負だ。
俺も拳を構え、迫りくる津田に備えた。とは言え魔力以上にもう体力がない。なのでギリギリ躱してカウンターを入れることにした。
だが、そう身構えたのに関わらず、津田は俺の手前で足を滑らせ体勢を大きく崩した。俺はその隙を見逃さなかった。
「これで、終わりだぁーー!!!」
俺は残りの全ての力を込め全身全霊の一撃を津田の顎に向けて放った。そのまま宙を舞う津田。その時、俺は僅かだが笑っているように見える津田の顔を目に焼き付けた。
地面に打ち付けられる津田。そのままピクリとも動かなかった。
「ハァハァ…何とか勝てたかな」
思わず呟いた矢先、信じがたい光景を目の当たりにした。
「クッ、まだ終わってないぞ」
なんとあれだけきれいに決まったというのに、うめき声を上げながら津田は立ち上がろうとしたのだ。だが、傷が深いのか、骨を折ったのか立ち上がることができないようだ。
こちらの魔力はもう限界だ。後一分も持たない、さてどうするかと悩んだ時、白い翼を持つ美少女津田の傍に舞い降りた。
「もうここらでいいだろうマスター、あんたの負けだ」
それは、山城のようなパチモンではなく本物の天使だった。




