かつて俺がいじめた相手は魔王よりも強くなっていた
かつて、いじめてしまった相手、津田健也と久しぶりに再会した俺は開口一番になんて言おうか悩んでいた。だが、俺が話す前に向こうから語りかけてきた。
「久しぶりだな、高木。異世界に来てすぐにお前に追い払われた以来だな」
その強気な口調から、かつてのひ弱な印象は微塵も感じられなかった。魔王との戦闘で人が変わってしまったのか、俺はそう推察した。
「確か最後の言葉は、逃げるのか津田。また引きこもるのか?じゃあ今度は俺達がお前を探して出して更生してやるよ、だったか?俺は今までこの言葉に怯えながら生きてきた。いつお前らが俺を見つけてまた昔のようにいじめてくるのではないかと心配で夜も眠れなかった」
よく、覚えているな。俺は忘れてしまっていたよ。やはり被害者は加害者の事は脳裏から忘れないのだな。自分がいじめられた経験があったので、津田の気持ちが良く分かる。
「だが、ありもしない恐怖に怯えるには止めにした。何故なら今の僕はお前達よりも強いからだ」
ここまでの豹変ぶりは黒川を彷彿させた。彼女と同じように津田も闇の中に落ちてしまったのだろうか。
「何故驚かない?何故罵倒しない?昔のお前なら、俺が生意気な態度を取るとすぐに嫌がらせをしたくせに。やっぱり佐伯達と同じでお前も俺の事を認めないのだな!」
静かにただ聞いていただけなのに、津田は突然切れた。そして、怒りに身を任せながら剣を持ちこちらに突っ込んできたので俺も剣で応戦する。
剣と剣がぶつかり合う中で俺は尋ねた。
「今、佐伯と言ったが会ったのか?」
「そうだ、あいつらは僕を貶め入れようとここに来た。だから殺した。さらにあいつらの能力を奪ってやったよ!」
津田が佐伯達を殺した!?、俺は弱者であった津田の豹変ぶりに驚くばかりだ。
「その顔信じてないな。ではこれでどうだ」
次の瞬間、津田の魔力が倍近くに膨れ上がった。驚くべきことに王宮に現れた魔王をも超える魔力だ。だが、俺は魔力の上昇に心当たりがあった。
「まさか?!」
「そう、これは西村が持っていたアルカナ能力〈力〉だ。それだけではないぞ。お前らが馬鹿にした僕のアルカナ能力〈塔〉はダンジョンを作る能力。今は待機させているが、多数の協力なモンスターが生み出せ配下にできる。さらに、このダンジョンで死んだ奴の能力、魔力の一部、魔法、技術も奪えるんだ!」
なんと言うことだ。あの時馬鹿にした能力がまさかここまでのチート能力だったとは、津田の持つアルカナ能力の真の怖さを俺は即座に理解する。
「佐伯達は常に五人で行動していたと聞く、ということは、他の能力も?」
「そう、多数のBランク冒険者、魔王とその幹部、そして佐伯達五人の勇者、その力の全てを僕は持っている」
津田は自身満々で言うが、これはとんでもないことである。しばらく見ぬ間に津田は凄まじい化け物になっていた。だが、これはチャンスでもある。強力な味方になるからだ。
日本では俺は津田よりも格上の存在だった。それは間違いないだろう。しかし、俺も異世界に来て無能呼ばわりされ、いじめも経験し、クラスカーストの底辺を知った。だから、今の俺と津田は同格のはずだ。それならば、きっと津田も俺のことを理解してくれるに違いにない。
「聞いてくれ津田、お前が王宮を出た後、俺もクラスの連中からいじめを受けた。幸いにもお前と同じように俺も強くなったおかげで認めてもらったから、いじめも解決しみんなと和解できた。ともかく俺もお前と同じでいじめられた経験がある人間なんだ!」
俺がいじめられた事に驚いたのか津田の動きが止まった。
「今、王都は魔王の襲来を受けて危機的状況だ。しかし道中に聞いた話だが、クラスの連中がいる王宮には魔王の侵入すら拒む結界が張られているからまだ無事である可能性が高いそうだ。当然、お前から見れば、王都に残っている人間は憎い敵だろう。だが、今のお前の強さを見せればあいつらだってお前の事を認めてくれるはずだ。だから頼む!!俺と一緒に王都に行って、魔王を倒してあいつらを救ってくれ!」
望みは少ないが道中で聞いた結界の話が本当なら白雪も無事である可能性が高い。僅かな希望を手繰り寄せ、俺は戦闘中にも関わらず頭を下げて津田に協力を願い出た。その姿に思う所があったのか津田はしばらく無言を貫く。
「ふざけるなよ?!」
このまま上手く行くのではと思った矢先、津田はすさまじい怒りを露わにした。俺は初め、何故津田が怒っているのか理解できなかった。
「ふざけるなぁー!!!、お前が無能の烙印を押されたことも、いじめられたことも、二か月近く意識を失っていたことも、外部に部下を送って知っている!!。当然王都が魔物に襲われ、国王やあのクソッたれなクラスの連中が結界の中で生存している可能性があることもなぁ!。それでなんだ?俺もいじめを経験したからお前の事はよく分かる、だから過去の事は忘れて俺と一緒に王都を救おうとでも言うのか、ふざけるな!!それに僕とお前が同類だと、そもそもお前が僕をいじめたのが全ての始まりだろうがぁー!!」
今の津田の発言を聞き俺は思い出した。今まで忘れていた過去を。そう、津田がみんなからいじめられる原因を作ったのは、俺の津田に対するちょっとした嫉妬から始まった嫌がらせだったという事実を。
それだけではない、俺は自分もいじめを経験したからといって津田と同じ土俵に立っていると錯覚してしまった。考えてみれば、俺がいじめを受けた期間は二週間くらいだ。それに対して津田は半年近くもいじめられて、引きこもりにまでなってしまった。
いじめに対する捉え方は人それぞれだ。ある行為に対し、俺がいじめだと感じなくても、津田はいじめだと感じるかもしれないように、人間は皆、精神的強さや考え方は異なるのだ。
「待て、津田もう一度きちんと説明してくれ!」
失敗した。きちんと津田の事を考えて津田と向き合うべきだった。俺は慌てて弁明を求めた。だが、
「いらん!そしてもう一つ教えてやる!。この塔は二十三層からなっており、合計三千体のモンスターがそれぞれに階層に配置されている。本来であれば、侵入者はこれら三千体のモンスターを倒して最上階で俺と戦うはずなのに、何故俺がこの第一階層にはいるか分かるか?それはお前をこの手で叩き潰すためだぁー!!!」
もはや、津田は聞く耳はもたんと言い切った。こうなってしまっては俺は力づくで津田を抑えて話を聞いてもらうしかない。俺も剣を持つ方の手に力を込め戦い臨んだ。
「サンダードラゴン!」
津田が放った雷の竜を躱す。上手く躱せたが当たれば即死だろう。凄まじい魔力、多彩な魔法、剣技と体術、今の津田は各技能の頂点を極めていた。それらの攻撃を受け流すにはこちらも魔力を全開にしなければならなかった。
「ふん、高木、よく少ない魔力で戦えるものだ。なるほど、魔力を常に全開にして肉体を強化しているのか。魔力の制御に関しては俺より上と認めてやる。だが、その少ない魔力量ではすぐに尽きるぞ!」
俺は未だかつてないほど経験したことがない戦いを繰り広げているつもりだが、津田にはまだ余裕が感じられた。
あれだけの魔力を持つ津田に対して俺がどうにかついてこれたのは、俺が津田よりも魔力の制御が上手かったからだ。だが津田言うようにこの方法ではすぐにバテる。早めに勝負を決めなければ。
だが、俺は同時に妙な違和感も感じていた。津田の魔法や剣技はどれも一流のものだが、それらの動作の間に奇妙な間があるのだ。もう一つある。発動する魔法の選択にミスが目立つ、先程のサンダードラゴンのように動きが遅い魔法ではなくもっと早い魔法を撃てば当てられたのにそれをしなかった。油断しているのか?
「元長距離走の選手だったお前が、今は短距離選手並みに魔力を飛ばしているとは」
津田は余裕な表情を浮かべ、熾烈な攻撃を繰り返す。だが、やはり攻撃の間に奇妙な間があった。これはもしやと思い勝負仕掛けた。
「正面から飛び込んでくるとはな、ダーク・ランス!」
俺は正面から飛び込む振りをして攻撃を誘った。闇属性を帯びたランスが俺の体をめがけて飛んでくる。俺はランスを躱すと持っていた剣を津田に向かって投げつけた。
「むっ!?」
突然、剣を投げつけたことに意表を突かれた津田は魔法を使わずに自分の剣を振り払って弾いた。俺はその瞬間を見逃さず津田の懐に潜み、剣を持っていた津田の右手首を掴んだ。
「何の真似だ!」
と津田は叫んだが、すぐに俺のアルカナ能力〈愚者〉の効果に気付いたようだ。その証拠に使用していたアルカナ能力〈力〉も効果が切れ、津田の魔力が半減した。
「クソッ?!なんだこれは、アルカナ能力はおろか魔力を碌に出せんぞ」
幸運なことに俺の精神力は津田よりも圧倒的に高いようだ。そのため、アルカナ能力だけでなく魔力まで封じることができた。
「くそ!本当にどうなっている?この手を離せ!!」
津田俺に掴まれている右手を暴れさせて強引に離そうとした。対して俺は手を離させまいと開いている方の手で津田の鳩尾に拳を入れた。
「ぐはっ!」
口から吐血するも倒れない。魔力だけではなく肉体的にもタフになっているようだ。こちらを睨みついた津田は、器用に掴まれている右手に持つ剣を宙に投げ、掴まれていない反対の方の手でキャッチし、剣を振るった。
俺は慌てて手を離し、投げ捨てた自分の剣を回収しつつ距離を取った。少しはダメージが入ったのか津田も片手で鳩尾を抑えながら距離を取り、アルカナ能力を再び発動させ魔力量を倍化させた。
「やはり、掴んでいる間だけ能力や魔力を無効にするのか!」
オタクの印象がある津田だ。こういった事に対する分析力は高いようだ。その証拠にすぐこちらの能力を見破る。
「〈愚者〉か、部下の情報では無能の能力と呼ばれていたが、やはり使い方の問題だったか!」
まるで、〈愚者〉について何か知っているような口ぶりだったが今は置いておこう。少なくとも接近戦であれば十分にダメージが与えれることが分かった。後はどうやって近づくかだ。
「どう近づくか考えているのだろう。触られれば無効化されると分かった以上もう近づかせん。食らえファイアーボール!」
津田は魔法を唱えたが発動しなかったが、何も起きなかった。不発かと思ったその時、突然俺の体に高温の物体が当たった。
「ボハッ!」
まともにあった。体中が燃えるように痛い。よく見ると上半身のほとんどが焼けたような状態になっていた。
「こ、これは?」
攻撃がようやく当たったことに満足したのか、津田は嬉しそうな笑みを浮かべて答えた。
「大村の奴が持っていた〈隠者〉の能力だ。奴は自分の姿を隠すことにしか使ってなかったが、このように工夫すれば自分が放つ魔法も消せる。サンダーランス!」
本来なら激しい雷を纏うはずの槍が姿なきまま襲ってきた。




