決着
隕石が堕ち、ヒィスの森はそのほとんどを消失した。後に残されたのは、森の代わりに生まれた巨大なクレーターと落下の際に生じた衝撃によって生まれた灼熱の世界だけである。
「これやばいな、一体何度だ?」
周囲は灼熱の世界であったが、勇者達は神宮寺の張ったドーム状の結界のおかげで、平時と同じように過ごすことができた。
「分からないわ、分かるのはこうして魔法を身につけていなければ、私達はこの世にいないということかしら」
「あらゆる、物理的接触を一度だけ無効にするイージス、分かっていたとはいえ隕石の直撃に耐えるとは驚いた」
東条の驚きは最もだが、朝倉には敵もイージスでやり過ごしたのではという疑念があった。
「小町、魔王達もイージスを使って防いだ可能性は?」
「ない、魔法の兆候を見ても周囲で発動していたイージスは私が張った奴だけ、それにすべての魔法が使える私が断言する、イージス以外で今の攻撃は防げない」
その言葉を聞き、勇者達は安堵する。
「その通りだな、煙で前が分からんが流石にあの二人もこれで死んだだろう」
竜崎の発言を聞き、それはフラグだ、と何人かは思ったが、それでもこれは勝ったと思っていいだろう。
「それにしても上手くいって良かったわ、どうやら吹き飛んだのは森だけのようね」
「全くだ。僕のアルカナ能力〈星〉は集中すれば、惑星軌道上にある手頃な隕石を地上に誘導できるが、落とす隕石のサイズまでは落ちてみないと分からないからな。小さい隕石なら大気圏で燃え尽きて不発の可能性もあるが、もし巨大な隕石だったら最悪ローレンス王国丸ごと消滅していた可能性もある」
「それを言うなら、この星の滅亡まで考えなさい。それにしても落ちるまでどうなるか分からないとは、究極のギャンブルね」
事前に打ち合わせをしていたとは言え、よく実行に移したものだと呆れ半分に竜崎を睨みつける朝倉。即座に、俺じゃないやれと言ったのは神宮司だと竜崎は主張した。
神宮司は朝倉からの冷たい視線に晒されるが、これで魔王は片付いたのだから問題ないと言う。確かに一番厄介と思われた魔王を二体同時に葬れたのだ。森の一つくらい消え去っても問題ないだろう。
勝利を手にしたと信じて疑わない勇者達、しばらくすると、煙が晴れ戦果が確認できた。だが、すぐに予想外の事態に気付くことになる。
「えっ、なんでこの塔無傷なの?」
そう、クレーターができていたため、森は地盤ごと抉られていたが、塔とその地盤だけは無傷で存在していたのだ。
「塔自体にも焼け焦げた後一つない」
一点の穢れもなく、白亜の塔は鎮座していた。
「戦闘中、この塔のことは完全に頭の外であったが、まさか傷一つないなんて、凄まじい防御力、これが、前回の勇者が使いこなすことなく消えた〈塔〉の力か」
津田が持つアルカナ能力が〈塔〉であることを知っていたため、この塔は津田が作ったものだということはある程度想定していた朝倉達だが、隕石落としにも耐えることを知り心の底から驚く。だが、同時に彼らの胸の内にある不安がよぎった。アルカナ能力で防げるのなら、クリフォト能力でも防げるのではという不安が。そしてその不安はすぐに現実のものとなった。
「けっほ、けっほ、まさか、空から隕石を落とすとは、〈星〉に相応しい攻撃だわ」
「全くだ。前任の〈星〉の勇者もこんな大胆な事はしなかったぞ」
ある程度熱が冷めギリギリ生存できそうな環境となったクレーターの中心に、何故か鶏くらいまで体が小さくなっていたベルゼブブと、相変わらず服装すら無傷のルキフグスがいた。
「「「「馬鹿な!!」」」」
数秒前にもしやと思ったが、本当に生きていたとは。勇者達の心の中は隕石落としで魔王が倒せなかった絶望よりも、生きていた驚きのほうが勝った。
「何を驚く勇者共、私のクリフォト能力〈拒絶〉の効果は、私自身が認識したすべての現象を私の肉体が拒絶するというものだ。あれほど目立つ隕石で私を倒せると思ったか」
〈拒絶〉のクリフォト能力持つルキフグスに取って、目に見える攻撃は攻撃に値しないのだ。
「あちしのクリフォト能力〈愚鈍〉は……まあいいか長くなるし、今説明するのはやめておくわ」
教えろよと突っ込む勇者一同であるが、事態は悠長に突っ込みを入れていられる状態ではない。魔力はほとんど底を尽きていた。朝倉のみ復活することで魔力は回復できるが、他の勇者達はもう限界である。
だが、それでも諦めない勇者達はそれぞれ武器を取り、魔王に挑む姿勢を見せる。その姿を見て思う所があったのか、ルキフグスは勇者達に問いかけた。
「勇者何故戦う?君達はこの世界の人間ではないはずだ。はっきり言って我々と戦う必要はないはずだ!」
ルキフグスの問いに対し勇者を代表して朝倉が答える。
「質問を返すようで悪いけど、ある願いをあなた達が叶えてくれたら、私達は戦うのをやめると言ったら、あなた達はどうする?」
「ほう、面白い、叶えられるかは分からないが、君達の願いを言ってみろ!」
顔を見合わせる勇者達、彼らの願いは一つだ。
「私達を元いた世界に帰して!!」
目を丸くして驚く魔王達、何故なら過去の勇者達はそんなこと一言も言わなかったからだ。
「お前達は、この世界に住む者、文化、権力、そして平和、そう言ったものには興味がないのか?」
「ない、この世界がどうなろうと知ったことではない。だからこそ、危険な隕石落としを躊躇わずにやった」
ベルゼブブとルキフグスは顔を見合わせるそして、
「「ふふふふふふ、はっはははははは!!!!!!」」
それは、魔王が勇者に見せた初めての笑顔であった。
「素晴らしい、己の欲望のためなら世界がどうなろうと構わないのか!」
「いいわね!最高よ、女神もとんだ人選ミスをしたものだわ」
こいつら最高に面白いと二人の魔王は大絶賛であった。だが、その絶賛が勇者達を救うことになる。
「では、そろそろお暇しようか、ルキフグス?」
「ああ、あの塔が無傷なのは気になるが、それ以上に目の前の馬鹿達の方に注目してしまうよ」
「ここで、殺すのはもったいないという意見でいいかしら?」
「ああ、それで構わない。どちらにしろ、私はともかくお前はこれ以上戦いたくないだろう」
意見が一致したと判断した二人の魔王は漆黒と透明の羽を羽ばたかせた。
「では、さらばよ、子猫ちゃん達、次にやる時までにはさらに強くなっていることね」
「〈審判〉の勇者よ、いつまでも遅れを取る我々ではないぞ、君用の切り札もある、覚悟しておくことだ」
そう言い残すと魔王達は南の方角に向け飛翔する。
「……助かったのか」
「そうみたいね」
後に残された勇者達は自分達の幸運に感謝した。
「それで、この後どうする?あの塔を探索する?か」
「これほど、派手に戦っても出てこなかったのよ。やっぱり臆病者の津田君は必要ないわ」
じゃあなんのために来たんだよと、他の三人は思ったが、確かに朝倉の言うことには一理ある。それ以前に自分達の魔力は空で疲労もピークに達していたのだ。。
とりあえず、セレンに行き、休息を取ってからその後の事を考えることにした朝倉一行は一路セレンをメ目指して歩きだす。
「ふふ」
道中、朝倉は楽しそうに笑っていた。小学校から付き合いである神宮司から見ても朝倉が笑うのは非常レアだ。何が彼女の琴線に触れたのか知りたくて神宮司は問う。
「何がおかしいの?楓」
「小町、私初めてよ、馬鹿者呼ばわりされたの」
朝倉は笑みを見せ、道中を軽やかなステップで進んだ。




