ロイヤルニート生活
アドラメレク討伐より二週間が経ち、僕は未だに人と接するのは少し怖いが、相手が自分に忠実な部下であれば問題ないということを知った。
僕は今、新しく拡張した塔の最上階である二十階層に建てられた城の中の一室にいる。魔王と山賊達の文字通り、命で作られたこの私室は完璧だ。西洋風の城なのに、この部屋のみ畳八畳の小部屋である。日本の小市民である僕にはこれくらい環境が丁度いい。敷布団を敷き、日々ゴロゴロしている、文句を言う奴も蔑む奴もいない最高だ。
食事についても農業エリアと牧場エリアの設置により大幅な改善が施された。新鮮な食材を調理するのは、ホムンクルス(メイド)(執事)だ。前回の戦闘では防衛用として極寒の七階層に配置していたが、それは間違いだった。彼らの真の使いどころはマスターである僕のお世話だ。
(誰か来い)
心の中で念じると、一分もしないで、私室にホムンクルス(メイド)がお伺いにきた。
「何か御用でしょうか、マスター?」
ホムンクルス(メイド)の年齢はどの個体も二十歳くらいで、顔の造形や体格はクローン人間のようにどれも同じで最初は気味が悪かったが慣れればどうってことない。顔立だって悪くないし、なにより、文句一つ言わずに仕事をこなしている。
「今日の晩御飯は?」
「はっ、今日の献立カレーライスだと料理長から伺っております」
カレーか辛いと嫌だな。
「できるだけ甘くしろと伝えよ!」
「はっ、それとガイアールダンジョン防衛室長が至急指令室に御越しくださいとのことです」
ガイアールか、金卵から出た竜人型のモンスターで、指揮能力に優れているということで、このダンジョンの防衛指揮を任せている奴だ。各階層を繋ぐ通信機の設置したことで、一々僕が指示を出さなくても良くなった。なので、ダンジョンの防衛も全部モンスター達に丸投げしたのだが、時折僕に相談を持ち掛けてくる。そもそもあれから侵入者は一人もいない。
ついに誰か来たか。同じ階層内を移動するには歩くしかないので、僕は重い腰を上げ、城内に設置した通信作戦室に向かった。
通信作戦室、最上階の城の中に設置されている部屋だ。壁一面に塔の外部と内部を映すモニターが並び、各階層との通信機も設置されている。数人のメイド常駐し二十四時間監視をしている、まさにこのダンジョンの心臓部とも言える場所と言える。
「わざわざお手間を取らせてしまい申し訳ありません。マスター!」
通信室のトップにして、ダンジョン防衛の総責任者であるガイアールが頭を下げる。年齢は二十代後半に見えるが、頭に角と尻尾が生えている。普段は人型で生活をし戦闘時には巨大な竜の姿となって戦うのだ。
「それで、何があった?」
「勇者が来たぞ!」
ガイアールの代わりに何故か通信室の中央にある司令官用の席に座るガブリエルがフライドポテトを食べながら答える。おい、そこの席は僕専用だぞ。
「画面に表示します」
ガイアールがメイドに指示を出すと、メイドは付属しているリモコンを使い、塔の入口付近の様子をモニターに映した。
「まだ、ダンジョンに侵入していませんが、勇者と思われる服装の者が四名、塔入口付近におります」
モニターにはうちの学校の制服を着た者達が映っている。というか、あれは朝倉達だ。僕のような負け犬の事など、これっぽちも気にかけていないはずの人間がどうしてここにいるのか、謎である。
「もっと、拡大して音を拾え」
朝倉もそうだが、一緒にいる奴らも文武両道で学業に秀でた者達だ。あいつらは僕に興味がないので、クラスの中でも数少ない僕をいじめてこなかった奴らでもある。助けてもくれなかったが。
今のダンジョンの戦力であれば、ガブリエル抜きでも勝てると思うが憎き敵ではないため、会話を聞き向こうに敵対の意思がなければ交渉しようかと思った時、突然ガブリエルが声を荒げた。
「!?…おい!勇者達の上空というか、あいつらが向いている方を映せ!」
彼女にしては珍しく焦っているようであるが、彼女の言うようにどうやら勇者達も空に何かいるのに気付いたようで、その方角を向いていた。
上空、百メートルくらいだろうか、そこには二人の人間が空中に静止していた。もっとも背中から翼が生えた者を人間と呼んでいいのか微妙であるが。
一人は銀髪のイケメンで、黒いロングコートを着て、背中からまるで堕天使のような黒い翼が生えていた。もう一人は長身で筋肉質な肉体を持つおっさんで、顎が割れていた。また、背中から昆虫のような透明な羽が生えていた。
「あ~終わったわ!マスターお疲れ様でした!」
突然、ガブリエルが憐れむような目で僕を見た。もうなんか、すべて諦めたような口ぶりだ。
「あいつらがなんだって言うんだ!」
ガブリエルは空に浮く二人を知っているようだったので問い詰めた。
「あの、おっさん、いや、オカマの方が第二魔王ベルゼブブ、イケメンの方が第三魔王ルキフグスで、アタシら大天使でも一人では敵わないほどの猛者だよ!」
!?今、なんて言った! ガブリエルよりも強い奴が二人同時に来ただと。
「十体いる魔王の中でも、第一、第二、第三魔王は桁外れの力を持っている。三体しかいないのに、一気に二体も来るとは、あんた終わったね~!」
ガブリエルは他人事のように呟く、確かに彼女は僕が死んで自分が天界に帰ることを望んでいた。きっと他人事なのだろう。
「マスター直ちに防衛体制を敷きます!」
ガイアールは冷静に判断するが、ガブリエルは無駄だと言う。
「このダンジョンは外部と隔絶した空間になっているから、お前達には、あいつらの魔力が分からないと思うが、王国中に張られている結界を抜きに考えても、あの二人にはここにいる誰も勝てないよ」
王国の国土には魔の者の力を抑える結界が張られている。具体的には、魔王達の魔法の威力や身体能力を下げる効果があるが、残念ながら、このダンジョンはその結界の範囲内に建設されているが、ダンジョン内自体が閉鎖空間なので、結界の力はダンジョン内には及ばない。つまり、悲しい事にダンジョンの中の方が魔王は全力を出せるのだ。ただしダンジョン内であれば、僕以外のモンスターは死んでも復活できるというメリットと殺した相手の力を奪えるというメリットはあるが、
「では、ダンジョンを出て戦うか」
現在ユニークモンスターの数は十二体にのぼる。外で戦うほうが戦闘に有利でれば、全員でかかれば勝機があるはずだ。防衛室長のガイアールも僕の提案に同意した。
「確かに復活できませんが、外部で戦う方が勝機があると思います」
だが、こちらの最大戦力であるガブリエルは消極的であった。
「まあ、外で死んでも天界に帰れるからどちらでもいいけど、折角ならあの勇者達の戦いの後にしない?仮にも勇者なんだし、少しは追い詰めるでだろう!」
確かに朝倉達が僕に興味がないように、僕も住む世界が違い今まで接点がなかったので、あいつらがどうなろうと構わないのも事実である。
「ガイアール、各防衛隊長並びに全フロアボスと各階の精鋭を一階に集結させろ。勇者がやられた時点で、撃って出るぞ!」
「御意!」
魔王達も勇者の存在に気付いたのか、ゆっくりと降下し始めた。対する朝倉達もそれぞれ武器を構え、向かえ撃つようだ。
かくして、人ん家の前で、勇者と魔王の決戦が始まった。
階層ボス言い方をフロアボスに変更しました。




