まだ先輩の家に着かない。
黄門先輩の家の敷地内を歩く歩道に乗って進んでいると(敷地内とは言ってもどうみても市街地にしか見えないが)前方にどでかい屋敷のようなものが見えた。いや、屋敷というよりは要塞の方が適切な表現かもしれない。
「あれが黄門先輩の住んでいる家ですか……」
ただ視界に入っているだけなのに、威圧感が半端ない。大統領が住んでいるって言われたって納得できるそんな建物だったからだ。
すると、黄門先輩は眉根を一瞬寄せて、「あれは俺の住んでいる家じゃないよ。あれはペットの太郎の家だよ」と少しむっとした感じで言った。
って、ぺ、ペット!? あのどでかい家が!? くそうまたしてもやられたよ。今日何度目の衝撃だよ。こんな衝撃はこの世に生を受けた時以来だよ。そう初めてお腹の中から外の光を見たあの眩しさ以来だよ。って覚えているわけないじゃないかよ。この馬鹿!
僕は一人ぼけ突っ込みを脳内でした。
「それにしても黄門先輩の家で飼われている犬は幸せですね。だってあんな大きな屋敷で暮らしているんですから。もしかして、放し飼いだったりします? その犬の太郎は」
「はあっ? 誰が太郎が犬だって言った?」
「えっ? 太郎って言うのは犬の名前ではないのですか? すいませんでした。もしかして猫の名前だったりします?」
「ちょっとふざけないでくれよ。俺は犬も猫も嫌いなんだよ。まあ、正確に言えば、好きと嫌いの天秤に乗せたら、ほんの僅か嫌いの方に傾く程度なんだけどね。というか俺基本哺乳類好きじゃないんだよね」
「ええっ、じゃあ人間もあまり好きではないということですか? 黄門先輩は」
「ああそうだね。基本的にはね。人間は裏切るし。まあ犬や猫はどうだかは知らないけれど、昔犬には噛まれた経験があるし、猫には鳴かれた経験があるし」
「いや、犬にかまれたから嫌いっていうのは分かるんですけど、猫に鳴かれたから嫌いって……そりゃあ猫は鳴きますよ。猫ですもん」
「そんなもんなのかね」
黄門先輩は少し意外そうにそう言った。
「じゃあ、一体あの屋敷では何を飼われていらっしゃるのですか?」
「ああ、あの小屋ではね……」
黄門先輩はあの屋敷を小屋と呼び、それにも衝撃を受けつつ先輩の言葉を待っているとゆっくりと先輩の口から言葉が漏れた。というかあまりに衝撃的なことの連続で僕の脳内が白昼夢じゃないけど、常に走馬灯状態になっている気がする。これを黄門覚醒走馬灯と呼んでもいいかもしれない。誰が呼ぶか!
それにしても僕は驚きの連続でもしかしたら家に帰る前に驚きの連続で驚き死してしまうかも。
「蟻を飼っているんだよ」
黄門先輩の口の動きと洩れた言葉はスローモーションとなって僕の視界と耳朶を包み込んだ。まるで世界が時を止めたかのようなそんな一瞬だった。
「あ、蟻ですか……」
しかし、またしても予想を大幅に上回る事実に僕はもうリアクションをする気力すらなくしていた。たぶん僕はこの駅を降りてから衝撃の連続で3歳ほど老けたかもしれない。




