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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第八章 俺が名誉大公?

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17.代用品?

 数日後、ヒューリアさんが今後の予定(スケジュール)案を持ってきた。

 親善大使にはあるまじき考え方かもしれないけど、この予定は俺の希望でハスィーの出産と子育てを中心にして組まれている。

「出産予定日の二月ほど前まで親善訪問を飛び飛びで継続します。

 ちょうど冬期ですのでハスィーとゆっくりお過ごし下さい。

 生後二ヶ月辺りから親善活動を再開する予定ですが、その後は流動的です。

 ユマの手紙によれば、その頃にはソラージュも片付いているということですが、ハスィーや御子様の状況次第ですね」

「なるほど。

 ありがとうございます」

 計画によれば冬になる前に大方の北方諸国を駆け足で回ってくるようだ。

 もちろん一回では無理なので、海岸沿いと内陸部、それから川沿いとかに分けてあるらしい。

「これによると、一度に3ヶ国か4ヶ国くらい回るんですね?」

「そうですね。

 海岸沿いの国は船で行けますが、護衛の問題もありますので後ろに回します。

 ソラージュが平定されて、襲撃の危険がなくなってからでもよろしいかと」

 平定って何をどうするんだろう?

 いや聞きたくない。

 俺は知らん。

「すると、とりあえずは内陸ですか」

「はい。

 エラを通るコースは、最初にエリンサに寄ってルミト陛下のご機嫌伺いをすることになっております」

「あー。

 それは必要でしょうね」

 ルミト陛下、怒っているだろうなあ。

 エリンサの親善大使館をほっぽったままでララエに恒久基地みたいなのを作ってしまったし。

 名誉大公とかにもされてしまって、これでは俺がララエに取り込まれたと見られても仕方がない。

 なるべく早く行って弁解しておかないと。

「ではこのコースを最初に」

「かしこまりました。

 早速手配をかけます」

 ヒューリアさんはそう言って去った。

 多分、随行団のみんなには相談済みなんだろうな。

 結論だけを持ってきたはずだ。

 親善大使は俺だけど、むしろ訪問が必要なのはセルリユ興業舎の派遣隊だからね。

 北方諸国もそれを望んでいるらしいし。

 俺が親善訪問するだけなら簡単なんだが、それではセルリユ興業舎の事業の拡大が出来ない。

 つまり巡業サーカス団を連れて行く必要がある。

 俺と護衛だけなら宿の手配くらいで済むんだけど、サーカス団を含む開発部隊が動くとなると凄い事になるからな。

 エラとララエで経験を積んで、セルリユ興業舎の北方開発派遣団は質量ともにまったく別のものとも言えるほど拡大している。

 イベント会場の開設や撤収もシステム化されているし、そもそも本隊の到着前に先遣部隊が色々と動くようになっているんだよ。

 ただサーカスを見せるだけではなくて、計画に従って現地法人を設立する手順も確立したらしい。

 結局、ララエでは7つの大公領の領都すべてに現地法人を作ったからな。

 サレステにあるのが本部なんだけど、どうして支社にしなかったのかというと、大公領がそれを拒んだからだ。

 考えてみれば、大公領ってそれぞれ独立国でした。

 面倒くさいけど仕方がない。

 そういうわけで、俺もすっかり慣れたんだけどね。

 北方諸国はよく知らないので、これからセルミナさん辺りに教えて貰わないと。

「すみません。

 わたくしがお役に立てると良いのですが」

「ハスィーは自分と子供のことだけを考えて。

 そういえば、女の人って妊娠中は精神的に不安定になると聞いたことがあるんだけど、俺がいなくても大丈夫?」

 マタニティーブルーだったっけ?

 他にマリッジブルーというのもあるはずなんだけど、婚約中のハスィーは特に不安定にはならなかったから忘れていた。

 俺のいい加減な知識によると、マリッジブルーというのは結婚が決まった女性が最初は嬉しかったのに、だんだん不安になっていくという症状だったはずだ。

 ハスィーの場合、婚約時代から完璧に自分を律していたから、例えマリッジブルーになっていたとしても俺には判らなかった。

 ギルドの執行委員を務めたほどの人だから、精神的に強いと言われれば納得なんだけど。

 でもマタニティーブルーは精神的なものじゃなくて、妊娠することでホルモンバランスが崩れて体調が悪化したり、感情が不安定になったりすることだとどっかで読んだ覚えがある。

 つまり身体の問題なわけで、ハスィーがいくら精神的に強くても影響が出るんじゃないかと思うんだけど。

「大公妃殿下の方々から窺っています。

 あの方達も、ご主人が多忙でなかなか構っていただけないことも多いようです」

 それもそうか。

 つまり、対抗策があると?

「はい。

 わたくしの場合、マコトさんがおられなくてもマコトさんを強く思い出せるものがあれば、きっと大丈夫と思います。

 何か、身の回りのものを頂けないでしょうか」

 そんなことをハスィーに言われて(うなず)かない男はいないだろう。

 しかし何を?

 俺、自分の持ち物と言えるようなもんは持ってないからなあ。

 増してハスィーに俺を思い出して貰えるようなものは皆無と言える。

 どっちにしても、私物のたぐいはソラージュに置いてあるから今は持ってないんだよね。

 長すぎるけど今は旅の途中なのだ。

 どうしようかと悩んでいたら思いついた。

 軽小説(ラノベ)でそういうのがあったっけ。

 よくある魔王と勇者が仲良くなってしまう話だった。

 勇者が仕事で長期出張(笑)したため寂しくなった魔王(女)が、勇者の下手な似顔絵を描いたカバーをつけた抱き枕を愛用するんだよね。

 アニメにもなったけど、俺は原作も読んだからな。

 原作はむしろ経済小説だったんだけど、このアイデアは使えるかもしれない。

 (ハスィー)の寝相の悪さから考えて、もうベッドから落ちるようなことは止めなければならないし。

 それでなくても(ハスィー)は抱きつき癖があるからな。

 抱き枕と一緒に寝ていれば、寝相も改善されるかも。

 俺は早速アレナさんを呼んだ。

「DAき……MAくRAですか。

 それはどのようなものなのでしょうか」

 案の定、こっちの世界には概念すらないようだった。

 いや地球でも日本以外の国にあるかどうか怪しいけどね。

 増して、キャラクターを描いたカバーをつけて抱いて寝るとかいう使用法は皆無だろう。

 最近は外国でも一部には広まっているらしいけど。

「布団……というのもないか。

 羽毛とか綿とかを詰めた袋を作ってですね」

 俺がうろ覚えの知識で説明すると、アレナさんはしばし悩んでから頷いた。

「とりあえず作ってみます。

 しばらくお待ち下さい」

 セルリユ興業舎の経済力なら何とかするだろう。

 数日後に届けられたそれは、まさしくアニメで見た抱き枕そのものだった。

 円筒形でのっぺりしている。

 抱えると軽くて、表面はすべすべしていた。

 力を入れると凹むが、緩めると元の形に戻る。

「このようなもので良いのでしょうか」

「十分です。

 ありがとうございます」

 いや、俺も実際の抱き枕なんか触ったこともないけど、まあこんなもんだろう。

 でもこれだけでは単なる得体の知れないブツでしかない。

 いいんだろうか?

 こんな悪ふざけみたいなものを(ハスィー)に贈って、信頼関係を損ねたりして。

 まあ何とかなるか。

 俺はハスィーを呼んだ。

「マコトさん。

 御用でしょうか」

「うん。

 ちょっと言いにくいんだけど俺がいない間、俺を思い出すためのモノとして作ってみた」

 さすがは傾国姫(ハスィー)、不気味な円筒を見せられても微動だにしなかった。

「これですか?」

「抱き枕という。

 俺の国では、一部の人が寂しい時にこれを抱いて寝るんだ」

 本当か?

 アニメの見過ぎかもしれんが、もう引き返せない。

「ですが」

「だから、これに俺の服とかを着せて抱いて寝たらどうかな。

 洗濯したら匂いは消えちゃうだろうけど、擬似的に俺と一緒にいるような錯覚が生まれる……かもしれないし」

 我ながらいい加減だ。

 いいのか?

 俺は固唾を呑んで(ハスィー)の様子を覗った。

 (ハスィー)は疑わしそうな表情でその物体を受け取って、じっと見つめる。

 やっぱ駄目か。

「マコトさん」

「はい!」

「上着を脱いで下さい」

「え?

 いや、はい」

 慌てて上着を脱いでハスィーに渡す。

 下は断るぞ。

 ハスィーは俺の上着の皺を伸ばしてから抱き枕に巻き付けた。

 眼を閉じて抱える。

「……マコトさん」

「はい!」

「これ、いいです!

 マコトさんに抱きついているみたいです!」

「そうなの」

 気に入ってくれたようだ。

 助かった。

 ちょっと間違えたら変態だぞ。

「マコトさん。

 お願いがあります」

 ハスィーが思い詰めた声で言ってきた。

「何でも聞くよ」

「なるべくたくさん、マコトさんの匂いがついた服を残していってくださいませんか?

 洗濯しないで取っておきたいので」

 断る!

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