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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第八章 俺が名誉大公?

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16.名誉大公妃?

 唖然としていると、用はそれだけだったみたいで思ったより早く解放してくれた。

 大公会議はまだ続くというので、俺は失礼してハマオルさんと一緒に部屋を出る。

 ハマオルさんが早速片膝をついた。

(あるじ)殿。

 おめでとうございます」

 めでたいのか?

「ありがとうございます」

 とりあえず返すと、ハマオルさんが苦笑して立ち上がった。

「親善大使館に戻りましょう。

 本日はもうお休みになられた方が良いかと」

「そうですね。

 お願いします」

 それから俺たちは無言で歩いた。

 いつの間にか前後に展開していた猫護衛の人たちも何も言わない。

 というのは、廊下ですれ違う人たちが全員壁に張り付いて深く頭を下げるんだよ!

 騎士の人たちは最敬礼するし。

 どうも、俺がララエの名誉大公になったことが知れ渡ってしまっているらしい。

「ここが大公宮殿だからでしょう。

 外に出れば少しはマシになるかと」

 ハマオルさんが囁いてくれたけど、駄目だった。

 エントランスには儀礼兵が並び、俺が通ると同時にピシッと姿勢を正す。

 馬車が回されて来るのを待っていると、どこからともなく楽隊のファンファーレまで聞こえてきた。

 確かに大公位にある人が動く時は、そんなもんだったと思うけど。

 まさか自分がそうなるとは。

「お疲れ様でした」

 エントランスを出た所で随行団のみんなと合流する。

 皮肉げではあるけど、まともな挨拶をしてくれたのはヒューリアさんだけだった。

 お役人の二人は畏まって拝礼するし、騎士団はわざわざ馬から下りて片膝をつく。

「「「おめでとうございます!」」」

「ありがとう」

 そう言うしかないよね。

 どこから呼び寄せたのか、倍くらいに増えた護衛隊に守られて親善大使館に戻ると敷地を埋め尽くした観衆に迎えられた。

 拍手が沸き起こる。

 ヤジママコトのシュプレヒコールまで聞こえるぞ。

 止めて!

「マコトさん。

 何か一言。

 でないと解散しませんよ」

 ヒューリアさんに言われて、しょうがないので馬車の御者席に上がった。

 こっちを見つめている大群衆に向かって適当に話す。

「私には身に余る名誉だが、その責任を受け入れよう。

 これも皆のおかげだ。

 従って、本日の夕餉は宴会とする!

 ヤジマ商会の奢りだ」

 大歓声。

 そそくさと馬車に戻ったら、ヒューリアさんに呆れられた。

「あいかわらずお見事ですわね。

 ここにいるのはララエ公国の労働者たちがほとんどですので、ますます人気が上がりますわよ」

 そうなんですか。

 いや、俺は何かあったらとりあえず宴会だと思ってるから。

 日本の会社だとそうなんだよ。

 上司が個人的に部下に奢ったりするのは、悪くはないんだけど変な(しがらみ)が付いてくる恐れがあるからね。

 その点、部署とか会社が宴会を主催するんだったら問題はない。

 まあ、上司は過分な会費を出す必要があるんだけど。

「この経費は俺につけといて下さい」

「お心のままに」

 いや、マジでこの程度の宴会費用なら全然大したことがない。

 日本のサラリーマン風に換算すると、夕食にステーキハウスで数人に高級なディナーを奢った程度かな。

 こないだ俺の給料を教えて貰ってたまげたからね。

 しかもそれ、俺の持ち株の配当とは別だと言われた。

 俺の口座にどんどん積み上がっていくばかりで、しかもジェイルくんが一部を再投資してさらに配当が振り込まれてきているらしい。

 金持ちは溜め込むばかりじゃ駄目だそうだ。

 ヒューリアさんにやんわり諫められてしまった。

 そんなこと言われてもなあ。

 日本のペーペーのサラリーマンにそんな発想ないもんな。

 何とかして金を使わなきゃならないことを思い出して助かった。

 俺の部屋に逃げ込んで儀礼服を脱ぎ捨て、お茶を2杯ほど続けて飲むと、ようやく落ち着いてきた。

 俺が名誉大公?

 笑っちゃうよね。

 うん、判っている。

 これは俺自身の評価じゃない。

 ララエ公国の政治的な決断だ。

 凄いと思うのは、この決定によってララエが被りそうな被害がまったくないことだな。

 俺が貰ったのは身分だけで、ララエ公国に対して義務も権利もないからね。

 俺はララエの施政に対して口出し出来ない。

 それでいて、この軍事基地を領土として与えられたことで納税義務や国防義務が生じてしまっている。

 返すこともできないしね。

 ここに親善大使館とヤジマ商会の子会社を置く以上、自分の領地だった方が絶対有利だからだ。

 つまり、俺にもメリットがあるんだよなあ。

 実によく考えてられている。

 ララエ公国恐るべし。

「ララエとしては、当然の決定じゃの」

 夕食でカールさんが言ってきた。

「野生動物を意のままに操るだけでなく、一国の経済を左右するほどの資金を持つ男。

 配下の企業は日の出の勢いで各国を席巻しておる。

 商業国家たるララエにしてみれば、どうあっても取り込みたい相手じゃろうて」

 そうですか。

 俺ってそんな風に思われているわけね。

 違うのに。

 そもそも俺、別に何かしようとか思ってないし。

「マコトさんご自身がどう思っていようと、事実として脅威です。

 普通ならこういう場合、統治者の一族に取り込むか、せめて嫁を押しつけて関係を作るものですが」

 ロロニア嬢が言った。

「既に母国の象徴とも言える正室がいる上に、逆に大公妃殿下たちが取り込まれてしまっているわけです。

 下手するとララエ公国自体が実質的にマコトさんに乗っ取られかねない所まで来ています」

「しかも身分は他国の親善大使ですからうかつに排除することも出来ない。

 行動に干渉することすら開戦の口実にされかねないんですよ。

 実際、今マコトさんが何かしようとしたらララエには止める(すべ)がありません」

 セルミナさんが真面目くさって言った。

 何なのそれ!

 でも、だったら俺を名誉大公なんかにしたらますます危ないのでは。

「それを逆手に取って、もういっそこっちから軍門に降ってしまえということになったわけじゃな。

 寝転がって腹を見せたと」

「身内にしてしまえばとりあえず危険はありませんからね。

 大公会議に参加させることで、マコトさんの意向をいち早く知ることも出来る。

 さすがはララエ公国です」

 トニさんも感心しちゃってるけど、それでいいの?

「いいも悪いも、既に起こってしまったことですので。

 まあ、マコトさんはお気になさらずとも良いです。

 後は私どもの仕事です」

 ヒューリアさんが言ってくれたので、俺は投げた。

 もう勝手にして。

「あなた。

 大公妃殿下の方々には本当にお世話になっております。

 ララエには優しくしてあげて下さいませ」

 ハスィーまで何だよ!

 俺は征服者(コンキスタドール)か?

 釈然としなかったけどまあいいやと思っていたら、次の日から俺は身動きがとれなくなってしまった。

 身分が大公と同じなんだよ。

 ソラージュで言えば国王陛下だ。

 ちょっと下がって王太子殿下並だと言ってもいいけど、それでも普通の貴族とは段違いの高位身分になってしまったのだ。

 どっかに行こうとしても、大名行列並の護衛がついてくる。

 サレステ領内はギルドが統治に責任を持っているので、名誉大公の警備はギルドの責任になるからね。

 もちろん俺自身の護衛が優先されるけど、その外側を十重二十重(とえはたえ)に取り巻くもんだから、動くのに物凄い時間がかかる。

 訪問先では馬車から降りると絨毯が敷かれていたりして、居心地が悪いったらない。

「お忍びでお出かけになるしかありませんね」

 ハスィーが言ってくれたので少しは助かったけど、でも俺は親善大使だ。

 どうしても公的な訪問をせざるを得ない場合があるんだよなあ。

 堪らん。

予定(スケジュール)を前倒しします。

 北方諸国への親善訪問に出かけてしまえば、少しは楽になるかと」

 ヒューリアさん、お願いします。

 ハスィーを置いていくことになってしまうけど、出来るだけ頻繁に帰ってくるから。

「わたくしは大丈夫です。

 ご心配なさらず」

 そういうハスィーは最近、少し楽になったらしかった。

 身体の中で赤ちゃんが育っているそうで、よく食うようになった。

「何でも美味しい、というよりはすぐにお腹が空きます。

 大公妃様方はどんどん食べなさいとおっしゃるのですが」

 太ることを心配しているらしい。

 正直、少しくらい太っても傾国姫(ハスィー)は変わらないと思うけどね。

「今は赤ちゃんのことを優先しようよ」

「はい。

 産んでからダイエットすればいいことですね」

 そういう意味じゃないんだけどね。

 リビングで寄り添って雑談していると、突然ハスィーが笑いだした。

「何?」

「マコトさん。

 覚えておいででしょうか。

 初めてのデートの時、わたくしが傾国姫などという不吉な名前で呼ばれたくないと言いましたでしょう」

「そうだっけ」

 いや覚えてるけど。

 俺が帝国皇子にされたら皇子妃と呼ばれるとか言っていたっけ。

「その望みが叶いました」

「そう?」

「マコトさんはもうララエの名誉大公なのですから、わたくしは名誉大公妃ですよね?」

 パネェ。

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