第8話 聖女への道
翌日からいよいよ聖女になるための修行が本格化する。
まだ空が明るくならない頃に起きて、礼拝堂へと集まり祈りを捧げる。
それが終われば神殿の周囲の走り込みが行われ、その後に朝食を取る。
朝の時間は神殿の中の掃除を行い、その後に座学が行われ、終われば昼食。
昼からは昼のお祈り。
お祈りの後は、神殿の外周の掃除、もしくは街に出ての奉仕活動が行う。神殿に戻ってくれば夕方の走り込み。
夕食を食べて、お祈りを捧げ、そうして一日が終わる。
それなりにハードスケジュールだが、聖女ともなればかなり過酷なことを行うこともなるので体力、忍耐、知識、信仰心を鍛えることが重要ということなのだ。
聖女というのは、何も一人ではない。世界はかなり広いので、当然ながら一人ですべてをカバーするということは物理的に不可能なのである。
なので、今回の修行では一定の基準を突破できた聖女候補が、聖女として認定されることになる。
つまり、聖女になることができた人物が少なければ、それだけ一人一人の負担が増えるということだ。
歴代聖女の中には、世界中でたった一人という時代もあり、その時の負担は計り知れなかった。自然災害、疫病、魔物の襲来といったことももちろんだが、最悪の場合には魔王の出現によって討伐に駆り出されることもあったとか。
聖女という人物は、神に仕える女性陣にとって憧れの存在ではあるが、なりたいかといったらそうでもないという人もそれなりにいるのである。ある種のジレンマである。
少なくとも、今回神殿に集まっているアメリアを含めた四十名ほども、様々な事情を抱えているとはいえ、聖女を目指して集まっているはずである。
初日の修行をこなしている間にも、すでに数名が弱音を吐き始めている。この状況には、聖女を育成する役目を背負っているフォトニアも少々苦い顔をしていた。
無事に初日の修行を終えたアメリアは、他の聖女候補と言葉を交わす余裕もなく、自分の部屋へと戻ってきた。
アメリアに話しかける余裕がなかったというよりは、他のみんなに声をかけられる状態になかったという方が正しいかもしれない。
(やはり、まだ幼い子どもたちには大変のようですね。私は前世に運動部に所属していた関係もあってか、合宿で厳しい環境に置かれたことがあるので、この程度ではなんとも思いませんでしたけれどね)
自室に戻ったアメリアは、右頬にそっと手を触れながら、他の聖女候補たちのことを気にしているようだった。
この神殿にやってきた理由ははっきりいって自分のためではあったのだが、こうやって共同生活を送るようになってくると、アメリアの気持ちにも変化が出てしまう。このあたりの反応は、前世の性格のせいだろうか。
とはいえ、初日の修行を終えてアメリアもかなり眠い。
前世では運動部に所属して慣れているとはいっても、今は前世とは違う世界で生まれ育った12歳の少女の体だ。しかも、それなりにのんびりとした生活を送ってきたので、この体は思ったよりも貧弱だった。
(思っているよりも、前世の自分との感覚のずれが大きいですね。うまくやっていけるんでしょうか)
心では慣れていても、体が慣れていないというずれは、容赦なくアメリアの心を揺さぶってきている。
このままではあんまりよくない方向の考えに至りそうだと考えたアメリアは、余計なことはまったく考えずにさっさと寝ることにした。まだ修業は初日が終わったばかりで、まだまだ先が長い。無駄な体力を使っている余裕などないのだ。
ただ、その格好のままで寝ると寝床が汚れてしまうので、修行用の服を脱ぎ、シンプルな肌着になる。
「さぁ、明日に備えましょう」
アメリアはむんと気合いを一発入れて、ベッドで横になる。
疲れてしまった体は休息を求めており、アメリアの意識はすっと消え去ってしまい、そのまま穏やかな寝息を立て始めた。
だが、おとなしく寝たからといって、そのまま寝させてもらえないのが今のアメリアである。
「どうでしたか、修行の一日目は」
「ま、マーシエス様?!」
眠ったと思ったら、女神マーシエスに呼び出されていた。
「えっと、結構大変ですね」
「そうでしょうね。ですが、この修業は乗り越えてもらわないと大変ですからね」
「えっと、どういうことですか?」
素直に答えたアメリアに対して、女神は頬に手を当ててなぜかため息をついている。そんな態度を取られては、アメリアは気になってしまうというものだ。
「実は、しばらく前から魔王が復活する気配がしているのです。いえ、復活はしているかも知れませんが、活動が活発になる兆しを感じるのです」
「それって、ものすごく大変なことなんじゃ……」
「そうですね。ですが、アメリアの運命には大きくかかわることですので、申し訳ございませんが、私はこのまま静観させていただきます。もちろん、お力添えは致しますのでご安心を」
驚くアメリアに、女神は淡々と語っている。
だが、アメリアとしてはそんなことを言うなと、反論したくなってしまう。だが、女神に仕える聖女を目指すとあって、アメリアはぐっとこらえている。
とんでもないことを告げられてしまったアメリアだが、自分と大きくかかわることになると言われては、頑張らざるを得ないというもの。
仕方なく、アメリアは女神の言い分を全部受け入れることにした。やれることをやるだけである。
女神との話が終わると、アメリアの意識は、再び眠りの闇の中へと消えていったのだった。




