第7話 聖女修行の始まり
礼拝堂には、確かにそれなりに多くの少女たちが集められていた。
少し遅めに礼拝堂に姿を見せたアメリアの目には、下は自分よりも幼そうな子から、二十歳前くらいの女性までいるように見えた。
案内をしてくれた女性がアメリアに声をかけてくる。
「お席はどこでも構いません。空いている場所におかけになってお待ち下さい。どうやら、まだ全員そろっていらっしゃらないようです」
「分かりました。ここまで案内ありがとうございました。私は行ってきます」
アメリアは女性にお礼を言うと、礼拝堂の椅子に向かって歩き出す。
それにしても、これだけの人数が集まりながらも、みんな辛抱強く黙って座っている。
それだけ集まった少女たちは、聖女を試験に目指しているということだろう。アメリアが近くを通りかかっても、椅子に腰かけても、誰一人として視線を向けてくるだけで話し掛けてくることはなかった。
空いている席に座ったアメリアは、両手を膝の上に置いて、他の少女たちと同じように前を向いている。
しばらく待っていると、数名の少女が礼拝堂に入ってくる。そうすると、入口の扉の前には神官が立ち、封鎖されて出入りができなくなる。どうやら、全員がそろったということのようだ。
それでもさすがは聖女候補となった少女たち。まったく動揺することなくしっかりと前を見ている。
しばらく待っていると、礼拝堂の中に大司教マカエルが入ってくる。
マカエルは礼拝堂の正面、慈悲の女神マーシエスの像が飾られている正面へと移動し、そこから礼拝堂の中に集まった聖女候補たちをじっと眺めている。
「聖女候補たちよ、よく我らが神殿の呼び掛けに応じて下さった。我らは女神の代理人として、とても喜ばしく思う」
静かにマカエルは挨拶を始めている。なおもアメリアたちは黙ってマカエルの言葉を聞いている。さすがは敬虔な聖職者と選ばれてきた少女たちといえるだろう。
だが、マカエルの言葉はつらつらと長い。とにかく長い。
とはいえ、大司教の言葉である。誰も眠れるわけがない。じっとマカエルを見つめて、必死にその姿勢を保ち続けている。
正直なところ、この状況はあの街一番の敬虔な人物といわれたアメリアでもかなりきつそうだ。
「では、これより早速、聖女となるための修行へと入ることとしよう。ここからは、神官フォトニアにお任せするとしよう」
マカエルは話を終えると退場していく。
聖女の修行ということで、男性では相手ができないということなのだろう。入れ替わるようにして女性が前へと出てくる。
帽子こそ違うものの、アメリアをここまで連れてきたグイードと同じような服を着ている。アメリアの直感からすれば、30代くらいの女性だと思われる。
「聖女候補のみなさん、初めまして。私は聖女育成の任を預かっておりますフォトニアと申す者でございます。これより三年間、みなさまを聖女となれるように鍛えていくのが、私の役目でございます」
フォトニアが三年間と口にした瞬間、初めて礼拝堂の中が騒めいている。
このように騒ぎが起きるということは、ここまで期間が長いとは思っていなかったということなのだろう。
だが、アメリアだけは静かだった。前世の知識があるためか、一人前になるのは大変だということが想像できるからだ。職人によっては十年以上という期間を要することだってある。三年ならまだ短い方といえるだろう。
それにしても、フォトニアの話もまた長い。さすがにほぼ全員が飽き始めている。しかし、これも修行の一環と、アメリアは必死に耐えている。
話が終わると、全員そろって礼拝堂から退出し、神殿の外へと移動していく。一体何を始めるつもりなのだろうか。アメリアはじっと警戒をしている。
「聖女たるもの、まずは体力が基本です。神殿の周りで走り込みを行います。本日は初日ですので、私が引率し、ゆっくりと二周いたします」
なんということだろうか。まだ夕方まで時間があるということで、聖女となるための修行のひとつである体力づくりに挑むことになった。
神殿の周囲を二周するとのことだが、その神殿はかなり大きい。しかも、神殿の建物そのものなのか、神殿の敷地全体なのかで、まったく距離が変わってくる。後者であるのなら、一周だけで神殿の建物周りを二周するよりも長い距離を走ることになる。
短い方を期待したのだろうが、その期待は軽く裏切られてしまう。神殿の敷地全体を二周するというかなりのロングコースである。
フォトニアが説明するには、これを毎日朝と夕方の二回行うとのこと。当然ながら、多くの聖女候補が顔を引きつらせる事態となった。だが、これが今までも行われてきている修行なので、今回から特別に変えるというわけにはいかなかった。
そうはいったものの、さすがに不慣れな少女たちは一周も走らないうちに音を上げている。この光景には、フォトニアも仕方がないと、初日ということでと区別に一周で切り上げることとなった。初日から大量脱落者を出すわけにはいかないのだ。
その後は体を軽く布巾で洗体し、夕食を食べた後に祈りを捧げるというスケジュールをこなした。これはみんな慣れたもので、疲れがあってもなんとかこなせたようである。
いよいよ始まった聖女となるための修行。はたして、アメリアは無事に修行を乗り切り、聖女となることができるのだろうか。




