第69話 国王の勘
最西国の教会とは裏腹に、いろいろと問題を抱えている場所がある。
それは、いわずもがな最西国の王都だ。
去年までは、存命だったニシアのおかげでかなり平和だったのだが、そのニシアが死んだという話が伝わると、露骨に怯え始めていた。
それというのも、ニシアが一人で展開し続けていた結界に守られているからだ。
ニシアが死んだとなれば、その結界を一体誰が維持をするというのか。その結界が失われてしまった時、自国は一体どのようになってしまうのか。ただひたすらにわが身を守りたいという心配にさいなまれている。
「大臣よ、教会の様子はどうなのだ?」
「はっ。特に変わった様子はないということでございます」
「そうか……」
国王の私室で、椅子に座った国王と、机を挟んで向かい側に立っている大臣が話をしている。
その表情は、見るからに不安に満ちあふれている。
なにせ、最西国の聖女であったニシアが死んでから、もうそろそろ半年が経過するのだから。
今の今まで聖女の力に守られ続けてきただけに、それが潰えた時の切望感といったら凄まじいのである。だからこそ、ここまでうろたえているというわけだ。
ただ、二人の話を聞く限りは、まだアメリアが最西国の教会にやって来たことを知らない感じである。アメリアを迎え入れた時に、司教とタビラが取った方策が、功を奏しているということだろう。
「はぁ、一応大神殿では次の聖女を育てるための教育が始まっているとは聞き及んでいるのですがね」
「ふむ……。少なくともあと二年間は待たねばならないというわけなんだ。なんとも気の遠くなる話だ。その間に魔族どもが攻め入ってきたらと思うと、まったく生きた心地がせんというものだ」
「まったくでございますね」
なんとも切迫した状況に、国王は頭を抱えてしまう。
もしこのまま結界が消えてしまえば、最西国としては責任問題に発展してしまう可能性がある。だからこそ、できる限り早く、次の聖女が欲しいと願ってしまうというわけなのだ。
「国王陛下、こうなってはもう一度大神殿に向けて使いを出してみましょうか」
「ああ、そうしてくれ。最西国はもう一刻の猶予もある状態ではない。すぐさま結界を展開できる神官を送るように要望するのだ」
「はっ!」
国王と話を終えた大臣は、部屋を出ると改めて最西国へと使いを出すのであった。
一方、部屋に残っている国王は、なんとも落ち着かない様子を見せている。
先程の大臣との話の間もずっとそのようだったのだが、一人になると国王としての威厳を崩して、なんともだらしない状態で椅子に座っている。
いつ誰が入ってくるか分からないのだが、それだけ国王として気を張った状態にあったということなのだろう。
そこから解放されて、ようやく力を抜いていられるわけなのだ。それだけ、国王というのは大変な立場なのである。
「使いを出した時期を考えると、もう新しい聖女かそれに準ずるような神官がとっくに到着しているはずだ。雪が深かったので無理ができなかったとしても、今はすっかりないのだからな」
一応、姿勢を正した国王は、いろいろと状況を考えている。
通例通りなら、要求した聖女か高位神官がやって来ているのなら、私のところに挨拶をしに来ているはずだ。
だが、いくら待てども挨拶をしにやってくる様子はなく、一体どうなっているのかとかなり疑問に感じている。そんなわけで、国王にはずっと不安がついて回っている。
あまりにもイライラとしてきた国王は、いてもたってもいられず、大神殿へと使いを出すことを命令した直後、自分の方は最西国の教会へと向かうことにした。
報告を上げてもらうだけでは状況を正確に把握することはできない。やはり、現場を見て回って直に情報を集めて回るべきだと考えたのだ。
「騎士団長! 騎士団長はいるか?」
「はっ、国王陛下、ここに」
思い立った国王が騎士団長を呼ぶと、颯爽と最西国の王国騎士団の騎士団長が姿を見せる。
やって来た騎士団長は、国王の前へと跪く。
「騎士団長、私は教会へと出向く。その間、私のことをしっかり守ってもらう」
「はっ! 国王陛下の剣であり盾である我々にお任せ下さい! 必ずや国王陛下をお守りしてみせますとも」
なんとも頼もしい返事をしてくれるものである。
というわけで、善は急げとばかりに、国王はすぐさま行動を起こす。
教会へは先触れを出さず、だまし討ちをするような形で訪問をするつもりらしい。どうやら国王には何か思うところがありそうである。
国王からの命令を受けた騎士団長も、国王陛下がお急ぎであると告げて、騎士たちに準備を急かしている。
こうして、翌日には出立するための準備ができ上がったのだった。
「国王陛下に申し上げます。我らが王国騎士団、国王陛下がお出かけをなさるための準備を整え終わりました」
「うむ、ご苦労」
「それで、国王陛下。此度はどちらへ参られるのでしょうか」
「教会だ。とにかく急げ」
「はっ、承知致しました!」
こうして、すっかり準備を終えた国王と王国騎士団は、教会へと向けて出発する。
なにゆえ国王はこのようなだまし討ちをするような真似をするのだろうか。
なにやら一波乱が起きる予感がするのである。




