第67話 魔族と魔物に囲まれて
魔王がそんなことを企んでいるともつゆ知らず、アメリアは神官見習いとして今日も修行に励んでいる。聖女になるための修行を一年で切り上げてし余ったので、その延長みたいな感じなので、アメリアはとても楽しそうだ。
その傍らにはヘルハウンドのポチもいるので、アメリアは本当に充実した日々を送っている。
このヘルハウンドであるポチなのだが、そもそもは魔王が部下に命じて、アメリアの力を見るために送り込んだ刺客である。ところが、アメリアの防御を突破することができずに、さらには懐柔をされて名付けまでされて、今ではすっかり飼い犬と化してしまっている。
それだけで済めばいいのだが、このポチはというと、すっかり教会の番犬にまでなっていた。
怪しいのが来たら吠えつくどころか撃退までこなしてくれる。アメリアのいうことはもちろんだが、司教とタビラのいうこともきちんと聞いている。
恐ろしい魔物のはずなのだが、どうしてこうなったのだろうか。すべてはアメリアのせいである。
「わう?」
「どうかしましたか、ポチ」
ある日の掃除の最中、いつものようにアメリアにべったりしているポチが、教会の外へと反応をする。
ところが、アメリアが視線を向けても、そこには何もいなかった。
「ちょっと弱いですけれど、ちょっと変な魔力を感じますね。……気になります」
何もいないはずなのに、アメリアはしっかりと魔力を感じ取っていた。
「アメリアさん、仕事をさぼらないで下さい」
「あ、はい」
様子を見に行こうとした時、先輩神官から叱られてしまう。
こうなっては様子を見に行くことはできないので、アメリアは気になるものの仕方なく諦めるしかなかった。
「わうぅん」
しかし、ポチはどうも諦めきれないようで、アメリアを誘おうと悲しそうに鳴いている。アメリアだって気になるのだが、さすがに先輩神官に怒られてしまっては、持ち場を離れるわけにはいかなかった。
「しかたないですよ、ポチ。気になりますけれど、今は放っておきましょう」
アメリアは深追いすることを諦め、教会の仕事の続きを行うのだった。
そのアメリアが見ていた視線の先には、一人の魔族が隠れていた。
微弱に漏れ出ていたのは、彼女の魔力だったのだ。
「ふぅ、危ない。勘付かれてしまっていたわね」
女の魔族は、教会の方をじっと見つめながら、ちょっとほっとした様子を見せている。こっちに来られたら危なかったということだろう。
だが、この魔族は魔王から直々に命令を受けるほどの立場にある魔族だ。いくらアメリアが聖女だからといってもそこまで警戒するものなのだろうか。
「こういった偵察しか能のない私は、もし連中と戦闘になったら一方的にやられることしかできない。見つからなくてよかった」
そう、意外にも非戦闘員の魔族だったのだ。
魔王がこの魔族に声をかけたのは、その高い偵察能力を買ってのことだったのだ。
そんな彼女であっても、ヘルハウンドと聖女相手となると、さすがに分が悪い模様。早速見つかりそうになっていたのだから。
「甘く見ていたわ。ヘルハウンドも手懐けているとは聞いていたけれど、あのヘルハウンドも普通のヘルハウンドじゃなくなっている。……もっと隠密を強化するしかないわね」
魔族は自身の能力を強化して、アメリアの監視を引き続き行うようである。
教会という魔族にとっては因縁のある場所の近くで、女の魔族の戦いはまだまだ続きそうなのである。
夜を迎えて、アメリアはポチと一緒にタビラの部屋へとやってくる。中央の大神殿から派遣された神官見習いということで、タビラが直接面倒を見ることになっているからだ。
本来であれば聖女用の部屋に案内しているはずなので、苦肉の策とはいえどタビラは気に病んでいるようだ。
「アメリア様、不自由やお困りのことはございませんか?」
「いえ、特に問題はないですよ。みなさんは私のことを敵視しているようですけれど、ポチがいるおかげかなんともありませんからね」
「そうでございますか……」
タビラはとても申し訳なさそうにしている。
いくら最西国の王族たちを警戒しているとはいえ、本来は聖女としてお迎えするはずだった人物を、正反対の立ち位置の神官見習いとして扱わなければならないことに心苦しさを感じているからだ。
とはいえ、そんな状況でも聖女候補の修行に比べれば楽なために、アメリアはまったく苦に感じていないという。どれだけ厳しかったのだろうか。
「そういえばアメリア様。ポチはだいぶ白くなってきたようですけれど、本当にヘルハウンドでしたよね?」
「そうですね。だいぶ白い毛並みになってきてしまいましたね。このようなことはあるのでしょうか」
「いえ、聞いたことはありません。魔物は魔物ですので、飼いならしたところで性質が変化することは通常ありえませんから」
となると、目の前のポチは一体どういうことなのだろうか。
くすんだ灰色だった毛並みは、かなり色が抜け落ちて真っ白になってきている。
「もしかしたら、アメリア様の神聖力の影響かもしれませんね。これは初めての事態として、記録を残しておく必要がありそうですね」
「そうなんですね。ポチ、あなたは珍しい存在みたいよ」
「わうっ」
アメリアに声をかけられたポチは、どことなく嬉しそうに鳴いている。
こうして今日一日を終えたアメリアは、魔法で全身をきれいにすると、ポチと一緒にベッドで休むのだった。




