第66話 魔王の気になる聖女
最西国へとヘルハウンドを放って聖女へとけしかけたものの、その企みはあっさりと失敗してしまった。
聖女にダメージを与えるどころか、なんと懐柔されてしまい、名付けまでされて自分の支配下から逃れてしまった。
魔王の部下はどうしたものかと思いながら、魔王城へと戻ってきた。
「ただいま戻りました、魔王様」
「うむ、ご苦労」
魔王は玉座に座って、戻って来た部下を労っている。
「それで、どうだったかな」
かと思えば、早速成果を尋ねてくる。
部下はものすごく言いづらそうにしている。下を向いたまま、冷や汗のようなものを流している。
「どうした。さっさと報告しないか」
魔王は部下へと圧力を強める。
さすがに魔王からの圧力に耐えきれなくなった部下は、聖女へと魔物をけしかけた結果をは魔王へと報告し始めた。
報告を聞いた魔王には驚いた表情も見られたが、最終的にはなぜか楽しそうに笑っている。
「ほう……、さすがは余が目をかけた聖女だな。弱っていたとはいえ、ヘルハウンドを手懐けてしまうとはな。それはそれで実に面白いというものだ」
魔王は笑っている。
この時、魔王の部下はなぜか苛立ちを覚えた。
それというのも、魔族にとっては敵対勢力である聖女の話を、実に楽しそうに聞いているからだ。
自分たちにとって不利に働きそうな内容であれば、普通ならば表情を険しくしそうなものだ。
そのためか、この部下はここ最近の魔王の様子にかなり不信感を募らせてきているようである。
「どうした。そのような表情を浮かべて」
笑っていた魔王も、部下の様子がおかしいことにはすぐに気が付いた。
「まったく、聖女を気にかけているだけで、なぜそこまで不満そうな顔をする。実におかしなやつだな」
「そんな、私にそんなつもりは!」
魔王が少し突くだけで、部下はものすごく激しい反応を示している。まさしく痛いところを突かれたといった感じなのだろう。
「本当にお前は分かりやすいな。心配するな。余が人間に屈するわけではない。聖女を余に屈させるのだよ。余を信じろというのだ」
「しょ、承知致しました……」
ここまで魔王に言われてしまえば、さすがの部下も納得をせざるを得ないというものだ。部下はおとなしく引き下がることにした。
それというのも、これ以上魔王を疑ってかかれば、粛清される可能性だってある。ここで死ぬわけにはいかないので引いたというわけだ。
部下が部屋を出ていき、魔王は再び一人になる。
足を組みながら、腕を組んだ状態で、魔王はひとりでにやけている。
「ふっ。やはりあの聖女は、余の知る普通の聖女とはどこか違う。もしやすると、魔族の歴史に新たな時代を築くことができるやもしれんな。どうにかして手に入れることはできぬだろうかな」
どういうわけか、魔王はまったくにやけが止まらないようである。
だが、この様子を見る限り、部下の気持ちも分からなくはないというもの。
魔王と聖女というのは、敵対関係にある仲だ。興味を抱く場合にしても、どうやって打ち倒すかなどの攻撃的な意味合いがとても強い。
ところがだ。今回の魔王はどちらかといえば友好的な雰囲気を感じるものとなっている。この態度が、先の部下の不信につながっているというわけだ。
「アメリアとかいったな。あの聖女の動向を監視させて、時折報告をさせるかとするか」
そう思い立った魔王は、すぐさまに別の部下を部屋へと呼ぶ。
しばらくすると、女性の魔族が部屋へとやって来た。
「お呼びでございますでしょうか、魔王様」
跪いて、引き締まった表情を浮かべている。
「うむ。最近最西国に新たな聖女が赴任した。その聖女のことを監視して、余に報告をしろ。ただし、決して手を出すではない。あくまでも役目は監視だ」
「それはよろしいのですが、なぜその聖女だけを?」
魔王の命令を受けた魔族は、何度もまばたきをしながら魔王の命令に対して意見をしている。
ところが、その瞬間、魔王からとても冷たい視線を向けられてしまう。まるで余計な詮索はするなと言わんばかりの、冷淡冷酷な視線である。
「しょ、承知致しました。では、早速行ってまいります」
押し潰されそうな魔王の圧力から逃れるために、女の魔族はすんなりと命令を受け入れた。
すぐさま最西国へと向かうために、魔王の部屋から出ていく。出た後の魔族は、全身が震えていた。
「ふん、余計な詮索などしなくてよい。おとなしく余の命令を聞いていればいいのだ」
魔王は椅子に深くもたれかかっている。
しかし、魔王自身も、なぜここまでアメリアに対して執心するのかは分かっていない。今はただ漠然となにやら気になる聖女というのが、魔王にとってのアメリアの位置づけである。
とはいえ、ちょうど前任の聖女が死に、その後継として新しい聖女が赴任してきたのだ。動向を窺うという意味では、監視する意味があるというものである。
「さぁ、新たな聖女よ。お前の力というものを、とくと見させてもらうからな」
玉座に座りながら、魔王は実に楽しそうに笑っているのだった。




