第61話 最西国の教会
最西国の教会に到着したアメリアだったが、なんともいえない空気の悪さを感じていた。
「なんでしょうか。空気がピリピリとしていますね……」
教会を見るなり、タビラに聞こえるくらいの声で感想を漏らしてしまう。
ところが、タビラは咎めるどころか、実に残念そうな表情を浮かべてアメリアの言葉を肯定している。
「ええ、そうなのですよ」
怒られると思っていたアメリアからすれば、なんとも予想外な反応。きょとんとしたなんとも情けない表情を見せてしまう。
そんなアメリアに対して、タビラは理由を話し始める。
それというのも、ニシアが亡くなったことが大きな原因だった。
ニシアは昨年までこの教会でずっと対魔族の結界と最西国と近隣諸国のために祈りを捧げてきた。そのニシアが亡くなったことは、最西国の全体の不安となり、その影響がこの教会にも出ているというわけなのだ。
なんといっても、ニシアがカバーしていた範囲が広すぎたことが要因である。その負担が大きいことは、この最西国の教会は重々承知をしていた。だからこそ、まだ若いはずのニシアが亡くなってしまったと考えている。
だというのに、最西国の連中ときたら、聖女が亡くなったとたんに不安を教会にぶちまけてくる。護ってもらっておいて、この態度なのだ。教会の神官たちが頭に来るのも無理もない。
タビラもそのけんけんごうごうとしたやり取りは見ていた。しかし、大神殿からの呼び出しがあるので、やむなく出発したという経緯があったのである。
「それでは、タビラさんもただでは済まない可能性があるというのですか?」
「ええ。いくら大神殿の指示とはいえど、先代聖女様が亡くなられて混乱を極めている最西国を放置してきたのです。なんといわれるか、はっきりいって想像がつきません」
その苦しい胸中を口にしていた。
ずっと辺境の教会の中で暮らしてきたがゆえに、アメリアはこの世界の情勢というものに疎かった。なので、そういう人々のしがらみというのは、前世のニュースで見たくらいである。
この世界にもそのようなものがあるのと知った今、ただただ驚いた顔をするのが精一杯だった。
とはいえ、その最西国の教会に、新たな聖女としてやって来たのだ。まずはその不安をどうにか取り除きたいと考えるアメリアなのである。
しかし、その気配を察知したのか、タビラはアメリアの両肩をがっしりとつかんでいる。
「いけません。ニシア様に対する過ちを繰り返させるわけにはいきません。アメリア様がご就任なされたことは、当面の間、伏せさせて頂きます。ええ、少なくても聖女候補の修行期間であるあと二年の間は」
タビラの顔は真剣そのものだった。
そんな表情を見せられてしまえば、アメリアとしても黙って首を縦に振ることしかできなかった。勢いに押されてしまったのだ。
ちなみにだが、これは国境で警備にあたる兵士たちにもきつく言ってある話だ。
聖女が誕生したとなると、必ず国は聖女に頼りっきりになってしまう。それを阻止し、国として自立できるようになってもらわないといけない。だから、口止めをしているというわけだ。
というわけで、アメリアは当面の間、最西国の教会の神官見習いという立場に収まることになった。
教会に到着した馬車から降りると、アメリアはとある視線に気が付く。
その視線の方向を見ると、そこには自分と同い年くらいの少年がいるのが見えた。
アメリアに見られたと分かると、少年はそのまま走り去ってしまう。何だったのかと、アメリアは首を傾げた。
「今のは一体……」
「ああ、今の子は神官見習いのリオンです。あの年としては珍しく神聖力の高い少年でして、将来は司教になられるのではないかと期待されているのですよ」
「そうなのですね。でも、どうしてあんなところに……」
他の誰も迎えに出てきていない中、たった一人馬車のところまで来ていたので、アメリアはかなり気にしているようである。
「おそらく、アメリア様の神聖力を感じ取って、様子を見に来たのでしょう。そのくらいにあの少年は高い能力を有しているのですよ」
「ふーん」
タビラの紹介を聞いたアメリアは、なんとも興味なさそうな返事をしている。だが、その本心はものすごく気になっている。
だけど、そういつまでも見ているわけにはいかない。中に入って今の司教に挨拶をしなければならないからだ。
やむなくアメリアは、タビラに促されるようにして教会の中へと入っていく。
最西国の教会の司教は、見た感じは優しい人物のようだ。だが、最近の最西国からの無茶苦茶な要求が原因で、少々やつれているようにも見える。
その姿を見て、アメリアは先程タビラから聞いた最西国の現状をようやく理解したようである。
前世で社会人まで経験していたわけではないが、時々見たことのある父親がちょうど似たような感じになっていた覚えがあるからこその反応と言える。
聖女としてやって来た最西国だが、どうやらこの国はこの国でなかなかに苦労しそうな予感のしたアメリアなのである。
これから二年は聖女であるという素性を隠した上での生活になるものの、とてもではないが穏やかに過ごせる想像はできないアメリアなのであった。




