第58話 意外な事実
アメリアたちは、予定よりも遅れてしまったものの、無事に国境へとたどり着いた。
ただ、ここからも山道が続くので、国境の砦で一泊していくこととなった。
明らかに浮いた格好をしているソノに対して、国境警備の兵士たちは懐疑的な視線を向けているものの、アメリアたちが大丈夫だというと、どこか納得していない顔をしながらも、自由にさせることにした。さすがに聖女となったアメリアの言葉を疑うはしても、否定するわけにはいかないのである。
砦の中にある客間に案内してもらうも、さすがに砦にはそこまで立派な宿泊施設はない。本来は客人を招き入れるような設備じゃないからだ。
しかし、これだけ双方に山道が続くのであれば、街のひとつはありそうなものである。
実際に、国境の鳥での少し手前には街があるのだが、盗賊騒ぎで遅れてしまったアメリアたちは、その看板を見落としたのだ。
それに加え、馬車を操る御者を含めた最西国側の人間が、誰一人としてその街の存在を知らない。それゆえに、砦に直接の乗り入れとなったわけなのだ。
「まったく、今日は大変な一日でしたね」
「盗賊に襲われるとは、本当についていないな。ここ最近すっかり雪が融けてなくなったがために、いつもよりも盗賊の活動が早まったようだな」
「あら、本来ならまだ雪がかなり残っているのですかね」
アメリアがため息をつきながら話をすると、ソノが反応をしている。
どうやら、ソノはこの辺りのことに詳しいらしい。
「ああ、本当ならば、ひと月先まで雪が残っていて、盗賊どもも簡単には身動きが取れないはずなんだ。特に、今年はあれだけ雪が降ったのだから、残っていてもおかしくはなかったんだがな」
「そうなのですね。どうして早く融けたのでしょうか」
「俺に聞かれても分からんぞ」
説明を聞いたアメリアが真面目に返すものだから、ソノは返答に困ってしまっていた。
「それよりも、あれだけの土砂崩れを一瞬で元に戻してしまうとはな。あれが聖女の力なのか」
「私もあれほどの力を見たことがありませんね。取り除いて脇に退けるのならまだしも、まさか元あった位置に戻してしまいますとは。アメリア様が一年で聖女の修行を終えられてしまったことにも納得がいくのですよ」
「一年とはどういうことなのだ」
「あっ……。部外者の前で失礼をしました。あなたには関係のない話です、余計な詮索はしないことですよ」
思わず口にしてしまったことを詫びながら、タビラはソノに対して厳しく当たっている。
聖女の存在については秘匿しないが、聖女になるための修行は機密扱いなので仕方のないことである。
ソノの方は自分から聞いたわけではないので釈然とはしないようだが、そういうものなのだろうなとおとなしく引いたようである。
とりあえず、遅めの夕食を取って今日のところは休むことにする。
最西国にある大神殿に関係した施設まではまだ先が長いのだ。道中の体力の消耗はなるべく抑えておくべきなのである。
それに、いよいよ明日からは、アメリアが今世に転生してから初めての国外である。興奮して眠れない可能性があるので、早めの休息はどうしても必須なのだった。
その夜、ソノはこっそりと国境の砦を抜け出していた。
向かった先は、日中に盗賊に襲われた場所である。
そこには、襲ってきた盗賊連中が放置されている。
「ふん、いい気味だな。よもや様子を見に来たら、あの女を襲おうとするとはな。実に運のない連中だ」
そのは盗賊たちを見下しながら話しかけているが、盗賊たちには反応がない。アメリアがいる手前、殺しはしなかったのだが、おそらく騒ぎ疲れて気を失ったのだろう。
この状況はソノにとってしてみれば都合のいいものである。
「魔王様。お呼びでしたでしょうか」
「うむ。こやつらを魔物どもの餌にしてやってくれ。ただし、すべてを持っていくな。一部はここに残しておけ」
「なぜでございましょうか」
ソノはなんと魔王だった。
それにしても一部を残すとはどういうことなのだろうか。
「ここで盗賊に襲われたことは、他の人間に報告済みだ。そこで、服や体の一部をわざと残していくことで、獣に襲われて食われたのだろうと思わせることができる。今は魔族の気配に気づかれる時ではない。なにせ余は、聖女とともにいるのだからな」
「なんですと?! でしたら、殺してしまわないのですかな」
ソノの口から出た言葉を聞いて、部下は驚いている。驚きのあまり、物騒な言葉まで飛び出てくる始末だ。
だが、ソノは首を横に振っている。どうやらアメリアを殺すつもりはないようである。
「盗賊を殺すことをためらうような少女だ。ここはひとつ、様子を見てみることとしよう」
「しょ、承知致しました」
「変に騒ぐなよ。余は、あの聖女を確かめてみたいのだ。あやつが最西国の教会に到着する頃を狙って、ケガをするなりして弱った魔物を教会へ放ってみてくれ。その時の対応で、余は考えることとする」
「弱った魔物をですか? 聖女のところにたどり着く前に、神官戦士に殺されませんかね」
「だから、捨て駒になるような弱った魔物をと言っているのだ」
あまりに理解の悪い部下に、ソノはため息をついている。
これ以上の話は無駄だと判断し、ソノは話を打ち切ることにしたようだ。
「余は、聖女を教会まで送る約束をしているので、しばらく監視を兼ねて同行をする。城のことは頼むぞ」
「はっ」
ソノからの頼みごとを聞いた部下は、そのまま姿を消した。
まさか、聖女と敵対する魔族のトップであるソノ。アメリアを見守る彼の目的とは一体何なのだろうか。
聖女と魔王の不思議な組み合わせは、もうしばらく続くことになりそうだった。




