第52話 残される聖女候補たち
アメリアが別の修行に移ってしまってからというもの、フォトニアの下で修業を続けるクレアは、かなりアメリアのことを気にかけている。
この大神殿における厳しい修行をなんとか乗り越えられてきたのも、アメリアの存在が大きかったのは事実なのだ。
その修行中の最中はさすがに集中しているクレアだったが、食事時など緊張が途切れる時には、ちょくちょくアメリアがいる大神殿の祈祷室の方へと視線を向けていた。
「クレアさん、だいぶぼーっとしていますけれど、大丈夫でしょうか」
修行中に、他の友人たちに声をかけられて、クレアはハッと我に返っている。
「な、なんでしょうか。わたくしは、なにもぼーっとなどしておりませんよ」
腰に手を当てながら、威張るような姿勢で友人たちに言い返すクレアである。
しかし、その手が長らく止まっていたことを指摘されると、クレアはずいぶんとばつの悪そうな表情をしてしまっている。
「そ、それは……」
クレアはまったく言い返せなかった。
「やはり、アメリアさんのことが気になりますかね」
「一人だけ一足先に聖女になられるということで、特別な修行を受けていらっしゃるようですからね」
他の聖女候補の友人の話を聞きながら、クレアはずっと目が泳いでしまっている。実際にその通りなのだから、何も言えないのである。
「クレアさんとアメリアさんは特に仲良しでしたものね」
「ええ。国王陛下がいらっしゃられた時も、収穫祭で舞を奉納することになった時も、ずっと一緒でしたしね」
「ずっとご一緒にいらっしゃられるかと思われましたけれど、このようなことになりますとはね」
友人たちはアメリアへの嫉妬のような心を見せつつも、クレアのことをずいぶんと気にしている。
結局は、友人のように振る舞っていただけで、その心の内では、アメリアに対してかなりの劣等感を抱いていたようなのだ。
「あなたたち」
友人たちの言葉を戸惑いながら聞いていたクレアだったが、本心が透けて見えた瞬間、どことなく怒りを覚えたようだ。
「私のことをどうこう言おうと構いませんわ。ですが、アメリアさんのことを悪く思うのはやめてちょうだい。仮にもわたくしたちは友人なのですからね」
クレアは間違いなく怒っている。
「しかも、アメリアさんは本来三年かかる修行を、たった一年で終えられるような優秀な方でいらっしゃいますのよ? そんなアメリアさんを見返す方法は、きちんと修行の期間を終えて、聖女になるにしろ神官になるにしろ、きちんと実績を残すことですわ」
友人たちに人差し指をしっかりと向けて、クレアは言い放っている。
正直なところ、一番悔しいのはクレアだ。
一番近いところでアメリアを見てきただけに、自分との能力の違いを一番しっかりと認識している。
それでも、アメリアはずっと自分のことを友人として接しており、しかも、いろいろとアドバイスまでくれている。
クレアが嫉妬しないわけがないのだ。
それでも、一番近しい存在として、アメリアが聖女になることを喜んでいる。
「私はアメリアさんを見返すために、絶対に聖女になります。そして、わたくしの名を後世に残してやるのですわ」
掃除のほうきをぎゅっと握りしめながら、クレアは友人たちに言い放つ。
そして、その宣言をさっそく実行するかのように、さっきまで止まっていた手を動かし始めた。
だが、聖女になるという決意は、聖女となったアメリアと二度と出会えなくなる可能性を示している。
クレアは実家にいた頃から聖女についてはいろいろと話を聞いているので、そのことも重々承知している。それでも、その隣に立っていたいからこそ、聖女になると強く決意しているのだ。
クレアにこれほどの覚悟を見せつけられた友人たちは、しばらくその場で動けなくなっていた。
嫉妬に駆られていたなどどんなに恥かということを、クレアに見せつけられたからだ。
「あなたたち。今は掃除の時間です。しっかり手を動かしなさい」
「は、はーいっ!」
フォトニアの手伝いである神官から注意をされて、友人たちも掃除を再開させている。
掃除をしながら、クレアに言われたことを改めてじっくりと考えている。
仲良くしていたつもりだったのに、実はそんな歪んだ感情を抱いてしまっていたのかと、友人たちもしっかりと反省したようである。
大神殿にやって来てから、あと25日くらいでまるっと一年になる。
全員がそれなりに身体的に成長をしている。しかし、精神的な面と聖女としての能力の成長については、かなり個人差があるようだ。
現在残っている聖女候補のうち、聖女となれるのはほぼ半数の十数人といったところ。
厳しい修行が続く中ではあるものの、ずいぶんと残っていると思われる。それだけ聖女候補になるということは名誉だし、聖女となるのもまた名誉なのだ。
アメリアのような特殊な事例がなければ、残る聖女候補から選ばれる聖女が判明するのは、ほぼ二年後である。
はたして、残った聖女候補のうち、どれだけがその時まで残っているのだろうか。




