第50話 西よりの来訪者
雪の降りしきる大神殿に、一台の馬車がやって来た。
「懐かしいものだわね。もう20年以上も昔のことになるかしら」
馬車の中に乗っている女性が、ぽつりとつぶやいている。
この女性こそが、アメリアの聖女修行のために呼ばれた女性だ。
やって来たのは、最西国の神殿からだ。つまり、最近亡くなった聖女のところで、修業時代の縁が元で聖女とともに行動をしていた人物というわけなのだ。
普通であれば、まだ聖女は誕生する時期ではない。
それというのも、この女性のところにも、聖女候補を集めて修行を始めたところだという連絡はきていたからだ。なので、あと二年間はまだ聖女の代わりが出るわけがないと見ていた。
そんな彼女が、今回の要請に応じたのは、亡くなった聖女の死ぬ前の言葉にあった。
『時期に新しい聖女が誕生する。しかも、私が死んだすぐ後に』
という言葉である。
どうやら亡くなった聖女は、直前に神託のようなものを受けていたのだ。
この女性はその言葉を少し疑ったものの、しばらく後に亡くなった聖女の身辺整理を行っているところで、アメリアの話を聞いたのである。
事実であったことを知った女性は、聖女の言葉を疑ったことを恥じている。
そして、その疑ったことへの汚名返上をすべく、今回の要請を受けたというわけだ。
(あの方の仰られた人物なのです。それはもう、聖女としてとてもふさわしい方なのでしょうね)
もう少しで大神殿ということろで、改めて女性は新しく聖女となる聖女候補に対して、期待を膨らませていた。
大神殿に到着して大司教マカエルの部屋へと通された女性。そこで見たのは、まだ12歳という若さの聖女候補だった。
見た目としてはとてもおとなしい印象を受けた模様。それと同時に、体からあふれ出るものすごい量の神聖力に驚かされた。
(こ、この神聖力の量は一体……。亡くなられた聖女様よりも多いとは驚きですね)
女性はすぐに、アメリアの神聖力の多さを感じ取って驚かされていた。
しかも、亡くなる直前どころか、最盛期の神聖力量よりも多いときている。その眠れる才能に、女性は目を見張っている。
「こちらは、今回一年で見習いを卒業することになるアメリアです。アメリア、こちらは最西国の聖女ニシアのお仕えしていた元聖女候補の神官であるタビラです」
「タビラと申します。今回はアメリア様の修行を担当することになりました。同期のフォトニアが三年をかけて行う内容をひと月ほどに圧縮しますので、どうぞお覚悟下さい」
「分かりました。よろしくお願い致します、タビラ様」
アメリアは椅子に座ったままではあるが、深々と頭を下げている。
いずれ聖女になるとはいえど、今は教えてもらう立場なのだ。前世から謙虚なアメリアは、今も十分謙虚なのである。
なんとも礼儀正しいアメリアの姿を見て、このような子が過酷な聖女の任務を全うできるのか、少々不安を感じてしまう。
だが、大神殿からの要請を受けて、それに応えてしまった以上、タビラはアメリアを立派な聖女にするしかないのである。それ以外の選択肢はないのだ。
「タビラ、今日のところは疲れているでしょう。ゆっくりと休みながら計画を立て、明日からお願い致しますよ」
「承知致しました、大司教様」
大司教に気遣われたタビラは、おとなしくその言葉に従う。
頭を下げてから、改めてアメリアへと向かい合うタビラは、アメリアに声をかける。
「いいですか。聖女になると覚悟を決めた以上は、いかなることにも耐えるのです。その中で信仰心を揺るがすことがなければ、マーシエス様のご加護により、きっとやり遂げることができるでしょう」
「はい」
タビラの言葉に、アメリアはおとなしく返事をしている。
(マーシエス様の加護は、ありまくりなんですよね。直接お話しできるのも、きっと私だけでしょうし)
真面目に話を聞きながら、こんなことを思ってしまうアメリアである。
実際、すでに何度もマーシエスとは直接話をしている。なので、とっぽどのことがない限りは、アメリアは無事に聖女になることができると思われるのだ。
とはいえ、実際に聖女になるには、大司教と教育係であるタビラから認められないといけないだろう。油断は禁物なのである。
しかも、残り二年間で行う内容をたったのひと月に圧縮するのだ。この状況ならば、教える側からも不安が出てくるだろう。実際、大神殿からの話が来た時には、タビラは困惑していたくらいなのだから。
だが、それを実現できないようでは、亡くなった聖女ニシアが浮かばれないというもの。どうにか一か月に圧縮できるように、馬車の中で教育の計画を徹底的に練り込んできていた。
本当ならば時間が惜しいところだろうが、教える側も万全の状態が望ましい。それゆえ、タビラも大司教の休んでほしいという言葉を聞き入れたのだ。
こうして、他の聖女候補よりも一歩先に聖女となるためのアメリアの戦いが始めることとなった。
たったの一か月という期間のうちに、タビラとともに聖女となるための基準を満たすことができるのだろうか。
二人三脚の厳しい一か月の幕が、いよいよ上がる。




