第49話 つなぎの時間
アメリアが正式に早めに聖女に選ばれたことになったのだが、その特殊な修行を行うための神官はすぐには用意できなかった。
どうやら、大神殿でそれを行えるのはフォトニアだけのようなのだ。
そのフォトニアは他の聖女候補の育成を担当しているため、その特殊な神官を呼ぶ必要があった。
今年は雪がかなり多く降っており、どうやらその神官を呼び寄せるまでにひと月ほどかかってしまうらしい。もはやぐだぐだの域である。
以前に話に出た時に決意を固めてくれれば、その半分程度で呼ぶことが可能だったらしいので、一概にも大神殿側の不備で済まされないところはある。そう、断ったアメリアが悪いのだ。
とはいえ、以前に選ばれた聖女の数が減っていっている中での新たな聖女の誕生に、大神殿は喜ばないわけがなかったのである。
「では、担当の神官様が到着なされるまで、私の方で座学をお教えしましょう」
「グイード様がですか」
何もしてないわけにもいかないので、どこの国に行っても大丈夫なような教養を身につけるために、ここぞとばかりに男性神官であるグイードに出番が与えられていた。
聖女に必要なものは、なにも神聖力うんぬんばかりではない。
そちらは聖女という役割上、女性にしか教えることができない。だが、世界における一般常識においては、グイードのような男性神官でも教えられる。
それで、なぜグイードがその担当となったのかというと、ここまでアメリアを連れてきた神官だからだ。
神殿の命令とはいえども、聖女候補を連れてきたのだから、最後まで責任をもって面倒を見ろというわけだ。まったくもってひどい話である。
しかし、アメリアはグイードに関してはそこそこ心を許していることもあり、他の神官が教えるよりはかなりマシのようなのだ。
アメリアは大神殿の中にある出番の少ない祈祷室を使い、グイードから座学を受けている。
聖女候補たちは幼い頃から教会や神殿で過ごしていることが多いので、世間から疎いことが多い。だから、聖女として外に出る前に、一般常識について教えておく必要がある。
この辺りは昔から何度も失敗があったことだ。最悪の場合は、せっかく派遣した聖女を派遣した先の国によって殺されてしまったこともある。
国による風習の違いなどを理解していなかったこともあって、最悪の結果になってしまったのだ。
神殿側は一時的にその国へと神官を派遣しないという対抗策を講じたものの、こちらも勉強不足であることを認めて、こういった座学を行うようになったのである。
前世で国による風習の違いがあることを知っているアメリアは、納得できる話だった。
だから、卒業旅行で外国に行くことになった時、その国についてあれこれと調べたものである。
最終的にはそんなことに関係なく、事故に巻き込まれるという最期になったわけなのだが……。
「おそらくは、最近聖女様が亡くなられた最西国への派遣が有力視されております。聖女に対して奴隷のような扱いをしていた国になど、私たちとしては派遣をするわけにはまいりませんからね」
座学の授業をしながら、グイードはそんな感じで話をしている。
比較的真面目な人だと思っていたグイードも、さすがに聖女のこととなると少しばかり雰囲気が違っているようだ。
どうやらこの世界にも、有能な人物を自分たちの都合のいいように道具にしてしまう人間はいるらしい。この話には、さすがにアメリアも心を痛めるばかりである。
世界は変わっても、人間というものの根本は変わらないのだと。
「アメリアは安心して下さいね。最西国はそのような野蛮な国ではありませんからね。少なくとも問題を起きないようにするのが、私たち神殿の役割なのですからね」
「分かりました。では、手解きのほどをよろしくお願い致します」
アメリアもこの世界のことにはあんまり詳しくない。なので、グイードからしっかり教えてもらえようとものすごく謙虚になっている。
こうしたグイードとの座学の勉強は、聖女育成のための神官が到着するまでとにかく続けられた。
いつもは寒いだけで済むような冬も、今年はかなりの積雪すらあるので、いつ到着するのか分からない。最悪、一か月よりも長くなる可能性もあった。
アメリア自身も、自分の寝床との移動の際に外を見て、相当に雪深いことに驚かされていた。
前世はあんまり雪の多くないところだったこともあり、ここまで振っている様子を見て驚かされている。
(私に聖女の指導をして下さる神官様が、無事に大神殿に到着なされますように)
アメリアは心配のあまり、つい朝晩祈りを捧げてしまうほどである。
そして、聖女に決定してから二十日が経過した時のことだった。
大神殿に早馬が飛び込んできた。
「朗報でございます。要請を出しておりました神官様が、三日後にご到着なされるということでございます」
「おお、いよいよ到着なさいますか」
報告を聞いた大司教が、安どの表情を浮かべている。
待ちに待った神官の到着。はたしてどのような女性が大神殿へとやってくるのだろうか。
アメリアは少々興奮したようです、少し落ち着きをなくしてしまうのだった。




