第5話 聖都シエス
今日を旅立ち、長い道のりを経て神殿へとやってきた。
(こ、ここが神殿……っ! まるで一つの街だわ)
護衛の声で間もなく神殿に到着することを知ったアメリアは、馬車の窓から外を眺める。
奥にはどこかの有名な神殿を思わせるような巨大な建物が建っており、その手前には居住地区が存在している。ここが、マーシエス教の総本山である神殿なのだ。
アメリアが街だと評した通り、手前にある居住地区は実際に一つの街となっており、偉大なる女神の名前から名を拝借し、シエスと呼ばれている。
この神殿は、かつて慈悲の女神であるマーシエスがこの地に降り立った場所とされており、その中心地を保護する目的で建てられたと伝わっている。そして、その恩恵にあやかろうとする人たちが集まり、このような街へと発展していったのだ。その規模は、一国の首都にも匹敵する大きさである。
アメリアを乗せた馬車は街の中へと入っていき、真っすぐと神殿へと向かっていく。
女神マーシエスの姿が模られた紋章が付いた馬車が通り抜ければ、人々は跪いたり脱帽して頭を下げたりなど、信仰する態度を見せている。それだけ慈悲の女神であるマーシエスが生活に浸透しているというわけだ。
その様子を見たアメリアは、そんな相手と会話をしただなんて信じられない気持ちになってくる。あまりに外を見てもよろしくないかも感じたアメリアは、途中からおとなしく座席に座っていた。アメリアを迎えに遣わされたグイードは、ただ黙ってアメリアの様子を見守っていた。
やがて、アメリアを乗せた馬車が神殿の入口に到着する。
神殿の前には、先に戻っていた護衛の報告を受けて、かなり大勢の神官たちが待ち構えている。
馬車が止まると、グイードはアメリアに声をかける。
「では、私が先に降りますので、私が合図をするまでそのままお待ち下さい」
「分かりました」
こくりと頷いて、アメリアは言われた通りに座席に座って動かない。
グイードが先に降りると、神官たちから声をかけられている。
「お帰りなさいませ、グイード様」
「出迎えご苦労。新たな聖女候補をお連れしたので、これよりお連れいたします。無礼のないようにして下さい」
「はいっ!」
やり取りは最小限だったのだが、なんとも物々しい雰囲気を感じ取るアメリアである。
少々ぎょっとした表情を浮かべていたアメリアだったが、中へと振り向いたグイードが手を差し出して頭を下げる姿を見て、座席を立ち上がる。グイードの手を取って馬車から降りると、その姿が集まった神官の前にさらされる。
普通ならば聖女候補ということで歓迎される雰囲気なのだろうが、どういうわけかどちらかといえば動揺している雰囲気がある。どうしてだろうか。
それは、アメリアの着ている服装が原因である。
アメリアの住んでいた街は、かなり小さな街で貧乏な場所だ。教会は中でも少しは裕福な状態にはあったが、質素倹約が進められていたので、アメリアの服装もまたみすぼらしいものであった。
ここまでやって来る間も、ずっとその服装であった。なので、髪や顔などはそれなりにきれいにしていたのだが、服装の汚さだけは結局解決されずにそのままだったというわけだ。それが、神官たちをざわつかせているというわけである。
「申し訳ございません。きれいな服装を用意できればよかったのですが、最低限の路銀しか持たされなかったものですので……。私どもの落ち度でございます」
今さらではあるが、神官たちの反応を見てグイードは申し訳なさを感じているようだ。
「私は大丈夫です。グイード様は私はここまで連れてくるという使命を果たされたのです。それで十分だと思います」
「もったいないお言葉ですね。では、中へとご案内致します」
神官たちがひそひそと話をする中、グイードはアメリアを中へと案内していく。
まずは大司教への挨拶を済ませてから、アメリアは自分の部屋へと案内されることになっている。ちなみにその部屋は一人部屋で、狭いながらもプライベートが保たれる。
神殿の中を歩いていると、部屋の前に神官戦士が立っている部屋へと到着する。がっしりとした扉の向こうに大司教がいるとのことで、アメリアはものすごく緊張している。
「大司教様、グイードでございます。聖女候補の一人、アメリアを連れて参りました」
「入りなさい」
グイードが中へと呼び掛けると、少し年のいったと思われる男性の声が返ってきた。
この返答を受けて、神官戦士が扉を開ける。がっちりとした扉は、重苦しい音ともに廊下に向かって開いていく。
扉が開き、部屋の中の様子がはっきりと見えるようになる。
そこには、ひときわ立派な衣装に身を包んだ人物が立っており、背中側で手を組んで窓の外を眺めている。アメリアは、この人物が大司教だとすぐに分かった。
「よくここまでおいでなさった。歓迎しようではないか、聖女候補アメリアよ」
くるりと振り返り、大司教の人相がはっきりと分かるようになる。
立派なひげを携えた、齢五十はあろうとかというような男性。この人物こそが、現在のマーシエス教の大司教なのである。
「わしが、現在の大司教マカエルである」
アメリアを見たマカエルは、それは柔らかい笑みを向けているのだった。




