第4話 街に別れを告げて
アメリアが目を覚ますと、すでにひと晩が経過していた。
当然ながら、朝のお祈りの場に姿を見せれば、司祭やシステアや同じ教会で過ごす聖職者たちにものすごく心配をされてしまっていた。
あまりにもみんなから心配をされてしまったので、アメリアはみんなに謝っていた。もちろん、マーシエスのことは話せないので、聖女候補の一人として指名されたことに、強いショックを受けたということにしてごまかしていた。
そんなことをいえば、司祭の方から聖女候補の件は断ろうかという話が出てくるも、アメリアは首を横に振った。
このアメリアの行動には、司祭たちは不思議そうな表情を浮かべてしまう。ひと晩眠り続けるほどのショックを受けたにもかかわらず、なぜ受け入れるのか。それが理解できないからだ。
「私、ひと晩ぐっすり眠って、自分の役目というものを再認識しました。この力でより多くの人を救うために、聖女になるしかないと。ですので、私は神殿へと参ります」
アメリアがはっきりと決意を語ると、先程までの動揺はぴたりとやんだ。
「分かりました。アメリアの意思はグイード様にお伝えしておきます。では、朝のお祈りを始めましょうか」
「はい。ありがとうございます、司祭様」
どうにか朝のお祈りの場が落ち着きを取り戻し、いつものように静かな祈りが捧げられた。
神殿から遣わされたグイードは、アメリアが聖女候補として神殿へと出向くということを聞いて、ほっとした様子を見せていた。
どういう理由かは知らないが、この世界の宗教であるマーシエス教の頂点である大司教から、絶対に連れてくるべきという指示を受けていた。なので、最初に断られた時には、それは相当に落胆していた。
ところが、ひと晩が経って、断る態度を示していたアメリアがくるりと態度を翻した。
よく分からない判断にグイードはしばらく考え込んでしまったのだが、目的が達成できるとしてひとまずはよしとしたようである。
朝食を終えると、アメリアのところにグイードがやってくる。
「アメリアさん、ちょっとお話があります」
「はい、何でしょうか」
今日のおつとめを始めようとしたアメリアだったが、グイードに呼ばれて司祭の部屋へと向かっていく。
当然ながら、そこにはこの教会の司祭も一緒にいる。
「アメリア、今日は教会の仕事は何もしなくよろしいですよ」
「えっ?」
司祭から告げられた言葉に、アメリアは思いっきりびっくりしている。昨日までしてきたことを急にしなくていいと言われれば、それは戸惑って当然である。
だが、これには理由があった。
アメリアは翌日、この教会を発って神殿に向かうことになる。そこへと向けた準備がいろいろとあるのだ。
まずは持っていく必要のある荷物をまとめること。基本的なものはすべて神殿で準備されているのだが、人によってはそれ以外にもなにかと必要なものがあるだろう。
過去には、教会で使っていた枕でないと眠れないと言っていた聖女候補もいたらしい。
そして、もうひとつは、聖女候補になるにあたっての心構えだとか、神殿での生活についての注意事項といったもろもろの説明だ。
そのことを聞いたアメリアは、納得してグイードと向かい合って座っている。
「それでは、グイード様。アメリアのことをよろしくお願い致します。私は、この教会の司祭としてしなればならないことがございますので、これで失礼を致します」
「うむ、お任せ下さい。大切な聖女候補でございますから、そのことは重々承知しておりますとも」
グイードのしっかりとした返答を聞いて、司祭はアメリアへと視線を向ける。
「アメリア、私たちはずっとあなたのことを持っておりますからね。神殿に行かれても頑張って下さいね」
「はい、司祭様」
アメリアは返事をしながらこくりと大きく頷いた。
司祭が部屋を出ていくと、アメリアはグイードと向かい合う。
これから長らく過ごすことになる神殿のことについて、納得のいくまで聞いたのだった。
そして、迎えた翌日。
教会の前には神殿の馬車が待機しており、いよいよアメリアが神殿へと旅立つこととなった。
離れ離れになるということで、アメリア以外の聖職者はもちろんだが、どこからともなく話を聞きつけた街の人たちも教会へと駆けつけていた。
「お姉ちゃん、本当に行っちゃうの?」
さみしそうに話しかけてくるのは、先日ケガを治してあげた少年である。
「ええ、私は聖女様になるために、神殿に行かなくてはならないの。君はさみしいでしょうけれど、私も同じ気持ちですよ」
「だったら行かないで!」
アメリアが話し掛けると、少年は必死に訴えている。だけど、アメリアは首を横に振っている。
「もう決めたの。私は聖女になって、もっと多くの人を助けなくちゃいけないの。もちろん、君のこともね」
少年向けて笑顔でアメリアは話しかけている。頭を軽く撫でてあげると、少年はぐずり始めてしまった。
「アメリアさん。もう出発しますので、ご準備を」
「……はい」
アメリアは立ち上がり、馬車へと向かって歩いていく。
「お姉ちゃん!」
少年が声をかけると、アメリアはぴたりと足を止める。
「絶対……、絶対に聖女様になってね。約束だよ!」
「ええ、必ずなってみせます」
少年に背を向けたまま、アメリアはしっかりと答えている。振り返ってしまっては、泣いてしまうかもしれない。アメリアはそう考えたからこそ、振り返らなかった。
馬車へと乗り込み、アメリアはグイードたちと一緒に神殿へと向かって出発する。
その姿を、司祭や少年たちは、それぞれの思い思いに見送っているのだった。




