第3話 慈悲の女神の空間
すうすうと、アメリアは寝息を立てている。
その時のアメリアは、不思議な夢を見ていた。
「う、ううん……」
目を覚ましたアメリアは、白い地面と青い空の広がる殺風景な場所にいた。
「ここ、は……?」
目をこすりながら辺りを見回すも、何も見当たらない。見たことのない景色に、アメリアは戸惑いを隠せなかった。
「アメリア、こちらにいらっしゃい」
突然、アメリアを呼ぶ声が聞こえてくる。声の方へと振り向くと、そこにはテーブルと椅子が用意してあり、全体的に白と黄色の目立つ女性が立っていた。
だが、アメリアはこの女性には見覚えがあった。
「マーシエス様、お久しぶりです」
そう、この世界の神様である慈悲の女神マーシエスである。
実は、アメリアに治癒の魔法などを教えたのは彼女。アメリアが現在の地位に収まっている原因を作った神様である。
「さあ、アメリア。腰掛けてちょうだい。今回は伝えることがあって呼び出しましたのでね」
「はい、マーシエス様」
体の前でぎゅっと両手を握りしめ、軽く頭を下げたアメリアは、テーブルのところまでゆっくりと歩いていく。
椅子に座ったアメリアの前には、マーシエスが魔法で用意した紅茶とお菓子が置かれる。このようなものが用意されるということは、少々長い話になりそうだ。アメリアは直感した。
少し表情が硬くなったことを察知してか、マーシエスはアメリアに向けて柔らかな笑顔を見せている。
さらにもう少しお菓子を用意すると、マーシエスは改めてアメリアの顔をじっと覗き込んでいる。
「どうやら、神殿から司祭がやってきたようですね」
「は、はい。そうなんですよ」
しばらく間を置いて、マーシエスはアメリアに確認するように話しかけている。ちょっとびっくりしたアメリアだったが、小さく首を縦に振りながら答えている。
アメリアは胸に手を当てて、ゆっくりと呼吸を整えていく。
「あの、マーシエス様」
「なんでしょうか、アメリア」
「私は、聖女になるべきなのでしょうか。その……、前世での記憶のせいで、聖女に対してあまりいいイメージを持っていませんのでね……」
アメリアは、正直な気持ちをマーシエスに告白している。思わぬアメリアからの言葉に、マーシエスはちょっと驚かされている。
そうかと思えば、マーシエスは軽くあごに手を当てている。
「そうですね。聖女というのは私に仕える聖職者の頂点ですからね。いろいろと無茶な注文を割り振られることもあるでしょうね。そういうことを思えば、まだ12歳というあなたの年齢を考えれば、厳しいかもしれません」
やっぱりかと思うアメリアである。
「ですが、今回はまだ聖女の候補の一人です。様々な試練を乗り越えなければ、聖女にはなれないでしょう」
「では、無理にならなくてもいいということでしょうか」
マーシエスの話を聞いたアメリアは、とんでもないことを言い始める。しかし、これにはマーシエスが首を横に振っている。
「いえ、あなたの前世での約束を果たすのであれば、聖女になった方がよろしいと思います」
「約束……?」
「そうです。あなたは想い人と生まれ変わっても恋人になると、約束をしたのでしょう?」
マーシエスに言われて、アメリアはハッとする。
そうだったのだ。前世では不幸な事故によって命を落としてしまったアメリアは、その時の恋人とそのような約束をしていたのだ。
「聖女になれば、様々な場所に出向くことになります。今に比べれば、格段に行動範囲が広がります。そうすれば、出会える可能性は上がるというものですよ」
「それは……確かにそうかも知れませんね」
アメリアはなるほどと何度となく頷いている。
実際、現在はあの小さな街の教会が行動範囲のすべてなのだ。
もちろん、待っているという方法もあるのだが、相手も転生しているかどうかも分からないのであれば、自分から動く方がそれは確実というものである。
もう一押しと感じたマーシエスは、何か確信めいた表情を浮かべ、小さく首を縦に振る。
「アメリア」
「なんでしょうか、マーシエス様」
マーシエスに名前を呼ばれ、アメリアは顔を上げる。
「とっておきの情報をお渡ししましょう」
アメリアはごくりと息をのむ。
女神であるマーシエスからのとっておきの情報なのだ。当然、気になるというわけである。
「あなたの恋人も、この世界に転生してきています。あなたが聖女になることで、きっと出会うことができると思いますよ」
なんと、アメリアの前世の恋人もこの世界にいるのだという。思わぬ吉報に、アメリアの目が段々と見開かれていく。
なにせ、転生してから十二年間、半ば諦めていたことが叶うというのだから。
そうとなれば、アメリアの心はがっつりと固まることになる。
「分かりました! 私、必ず聖女になってみせます。そして、あの人と再会して、結婚してみせますとも」
満面の笑みにガッツポーズまで決めて、アメリアはマーシエスに対してはっきりと宣言して見せていた。
うまく乗せられた感じではあるものの、この世界に希望を見出せたのだ。このくらいならば乗ってやるというのが、アメリアの心の内である。
これにはマーシエスも大満足。
しばらくは紅茶にお菓子で雑談をして、楽しいひと時を過ごすアメリアなのであった。




