第2話 悩める少女
アメリアの前世は、地球という惑星で生まれ育った人間だった。
その時のアメリアは、学生時代から付き合っている恋人の存在もあって、ネット小説というものをよく読んでいた。そのため、聖女に対してちょっとばかりよろしくない印象を持っているのである。
作品によっては奴隷のように扱われたり、むしろ正反対の存在の悪女であったり、アメリアの聖女に対する偏見が形成されていた。
「私、もし転生することがあったら、聖女だけにはなりたくないなぁ」
「なんでだよ。聖なる女性っていう字面なら、なってみたいと思うじゃないか」
転生前の、まだ高校生の頃。アメリアは恋人とネット小説についていろいろと話をしていた。
その中の一つが、聖女という存在についてだった。
過酷な試練を背負うことが多く、当時の自分たちからしたら、とてもできる気のしない立ち位置である。
何作品か読み漁ってみた結果、二人揃って聖女は嫌だという結論に達していた。
そんなわけで、グイードから聖女候補として神殿に来て欲しいと言われたアメリアは、ものすごく躊躇した。
だけども、司祭や先輩聖職者であるシステアたちの立場もある。そこで、アメリアはすぐには結論を出さなかった。
「申し訳ございません、グイード様。私にはすぐの結論は出せません。少々、考えさせていただいてよろしいでしょうか」
胸の前で手を組みつつ、一度目を伏してから、相手の顔をじっと見つめ、アメリアは猶予を求めていた。
このアメリアの発言を聞いて、司祭とグイードは驚いて互いに顔を見合わせている。
すぐさまグイードはアメリアへと再び顔を向ける。
「分かりました。あくまでも候補としてお願いしている立場ですので、しばらく待ちましょう。無理強いはいたしません」
グイードの返答を聞いて、アメリアはひとまず安心をしたようだ。
これで一度話が終わったということで、アメリアは頭を下げて司祭の部屋から出ていく。
「いやはや、答えを保留されるとは思いませんでしたね」
「ええ、とても敬虔な子ですので、ちょっと意外でしたね」
部屋を出ていったアメリアのことを、司祭とグイードはちょっと心配そうな表情で気にかけていた。
司祭の部屋から立ち去ったアメリアは、自分の部屋へと戻ってくる。
教会における部屋はすべてが二人から三人の相部屋なのだが、アメリアの部屋は事情があって二人部屋を一人で使っている。
というわけで、少々はしたないことをしても他人に知られることはない。部屋に戻ってくるなり、アメリアはベッドに体を投げ出している。
「真面目がモットーだけに、教会の仕事を淡々とこなしていたら、聖女候補にされるなんてね」
枕を抱きかかえながら、アメリアは寝返りを打って天井を見上げている。
「ああもう……。なまじ神様から回復魔法を教えてもらったのがいけなかったかな。前世の最期の瞬間があるから、死にたくないし、傷を治せたらって思ったのが運の尽きかぁ……」
アメリアはぎゅっと枕を抱きしめながら、困り顔を浮かべている。
この最期の瞬間というのは、もちろん前世の死に際のことである。
無事に会社の内定が決まり、大学を卒業する頃になったアメリアと恋人は、卒業旅行へと出かけた。無事に大学を卒業して、就職から一年後には結婚する約束をしていたので、実質ハネムーンの前倒しである。
ところが、その旅行の中で悲劇が起きたのだ。
街を観光中のこと、突如として暴走車が現れた。次々と通行人をはね飛ばしていき、よりにもよってアメリアたちのところに突っ込んできたのである。
悲鳴が聞こえていたので気が付いていたのだが、さすがに暴走車を前にしては、体が強張ってしまいとっさの行動は取れない。手をつないでいた二人は、なすすべなく他の通行人同様にはね飛ばされてしまう。
大きくはね飛ばされた二人は、体を強く打ち付けられ、全身血だらけとなってしまう。あまりの全身の激痛に、二人とも死を覚悟した。
お互いの手を握りしめたまま、二人は消えゆく意識の中、互いに約束を交わす。それは、もしこのまま死んでしまったら、生まれ変わって再び出会って恋人同士になろうというものだった。
約束を交わしたアメリアと恋人は、そのまま意識を失った。
再び意識を取り戻した時、少女アメリアとして転生をしていた。
新しい人生を送り始めて一年が経った頃、アメリアの夢に神様が出てくるようになり、その際に才能を授かった。その時に教えてもらったものの一つが、少年に使っていた回復魔法である。
最初の頃はなんとも思っていなかったのだが、教えてもらった回復魔法を披露したのがきっかけで、アメリアは教会に預けられることになった。そして、今に至っているのである。
「ううぅ、私はどうしたらいいの。神様、見ているのなら教えて欲しいよぉ……」
なまじ聖女にいいイメージを持っていないアメリアは、ベッドの上で枕に顔をうずめながら足をバタバタとさせている。普段、いいお姉さんで通っているので、他人には見せられない姿だ。
悩みを拗らせたアメリアは、しばらくベッドの上で暴れていた。
「アメリアさん、そろそろ食事ですよ」
しばらくして先程のシステアがやってくる。呼び掛けるも、部屋の中にいるはずのアメリアからの返事がない。
不審に思ったシステアが中に入ると、アメリアはベッドの上で寝息を立てて眠ってしまっていたのだった。




