第1話 小さな街の聖女見習い
とある小さな街。
そこにある古びた教会の中には、それはとても優しい女性の聖職者がいる。
「はい、じっとしていて下さいね。動くと、ちゃんと治りませんからね」
「う、うん……」
今日はケガをした少年が傷の治療を受けているようだ。
女性がにっこりと微笑むと、少年はおとなしく頷いて、じっと我慢をしている。
「ヒール」
女性が魔法を使うと、手のひらから温かな光が放たれる。その光に照らされたケガは、あっという間にすべてが消え去ってしまった。どこをケガしていたのか分からないくらいだ。
「うわぁ、ありがとう、お姉ちゃん!」
「いえいえ、どういたしまして」
少年がお礼を言うと、女性は手を組んだ状態でにこりと微笑んでいる。
手を振りながら教会を出ていこうとすると、女性も同じように手を振って見送っている。
「アメリアさん」
少年を見送っていると、女性は声をかけられる。
少し薄めの金髪をなびかせ、透き通るようなスカイブルーの瞳を持つ女性は、名前をアメリアというらしい。
「はい、システア様」
呼ばれたアメリアは、くるりと振り返っている。
そこに立っていたのは、小さな眼鏡をかけた少々年齢を重ねた女性の先輩聖職者である。
先輩聖職者の方へと振り返るアメリアの仕草は、なぜかそれだけなのにキラキラと光をまき散らしているように見える。
「本当に不思議な雰囲気の方ですね。ちょっとこちらに来ていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、分かりました」
システアに呼ばれたアメリアは、奥の方へと連れられて行く。
やってきた先は、この教会の司祭がいる部屋だった。一体何の用事だろうかと、アメリアは少し緊張しているようだった。
「司祭様、アメリアを連れて参りました」
「お待ちしておりました。さあ、お入りなさい」
「失礼致します」
司祭が入るように勧めてきたので、アメリアは部屋の中へと入っていく。
部屋の中には司祭だけではなく、見たことのない服装の男性が立っていた。一体誰なのだろうかと、アメリアは首を傾げている。
「そちらが推薦してこられた方は、ずいぶんと幼いように思いますが、本当にこの方でよろしいのですか?」
同じ聖職者と思われる男性は、司祭に対して顔をしかめながら確認するように確認をしている。
確認を受けた司祭は、こくりと首を縦に振る。
「はい。アメリアはこの教会では最も敬虔な修道者。聖職者として使える能力も、同じ12歳としては飛びぬけておりますし、私よりも強力な力を持っております」
「ふむ……」
司祭の説明を聞きながら、アメリアは黙っている。偉い人たちの会話に口を挟むわけにはいかないからだ。
アメリアとシステアが見守る中、司祭から推薦理由を聞いた男性は、同行させている男性に命じて何かを取り出させている。
アメリアたちの目の前に取り出されたのは、無色透明のかなり透き通った水晶だった。
「これは、手を触れた人物の魔力を調べられる水晶です。大昔に、神様がこの世界に遺されたと言われている遺物なのですよ」
深紅に金縁の刺繍が映える、なんとも高価で柔らかそうな布の上に水晶が置かれ、男性がその水晶に着いて説明をしている。
男性が口にした神様というのは、この世界を創造し、唯一神として君臨する女神マーシエスのことだ。もちろん、アメリアたちが信仰している神の名前である。
「さあ、アメリアよ。この水晶に触れてみてください」
「はい」
アメリアは言われるがままに、水晶に手を触れる。
その瞬間、まばゆいばかりの光が室内にあふれかえる。これには男性はとても驚いている。
「こ、これは……。まさかこれほどの力を秘めているとは」
焦ったような表情を浮かべ、男性はアメリアへと視線を向けている。
「実によく分かりました」
男性は同行者の男性に水晶をしまわせると、アメリアへと向き直る。そうかと思うと、男性はアメリアの前に跪いた。
思ってもみなかった行動に、アメリアは動揺を隠せない。
「アメリアさん、あなたを聖女候補として認めます。さあ、どうか私と一緒に神殿へとお越し下さい」
「はい?」
いきなり聖女候補とか言われて、アメリアは目をぱちぱちと何度もまばたきさせている。
「申し遅れました。私は神殿に所属している司祭であるグイードと申します。私の役目は聖女になり得る人物を探し出し、育て、支えるというものでございます。どうか、私を信じて下さいませ」
こんなことを急に言われても、アメリアは困惑するばかりだ。眉間にしわを寄せて、首を小さく横に振っている。
(えっと、聖女ってつまりはそういうことだよね……?)
冷や汗を流すアメリアは、何か聖女という言葉に嫌な予感を抱いているようである。
普通であれば、聖女というのは名誉ある地位である。だというのに、なぜアメリアはここまで嫌なそぶりを見せるのだろうか。
実はこのアメリアには、他人には言えない秘密があった。
アメリアの秘密というものは、実は自分が生まれるより前に別人として生きてきた記憶のある”転生者”というものだった。
これが、聖女に対して警戒心を与える原因となっているのだ。




